ウクライナ決議対案 (2)
第4インターナショナル第18回世界大会
怒りをこめて過去を振り返る
2022年2月24日の侵攻の背景を説明するために、いくつかの事実を思い出す必要がある。
―30年以上前の旧ソ連と東側諸国の崩壊後も、冷戦は完全には終結していなかった。旧ユーゴスラビアですでに見られたような、権力を維持するために旧官僚機構の派閥全体がエスノナショナリズム[注:共通の言語・文化・生活様式をもつエスニック(民族)集団が、自らの手で独立国家を建設しようとする考えで、旧ユーゴスラビアを構成していた諸民族が独立を目指した動きが典型的]へ転向したこと、および大国が介入して新自由主義とマフィア資本主義の復活を遂行し、自らの利益のために衝突を奨励したことは、1990年代以来、東ヨーロッパで常におこなわれてきた。
―ソ連瓦解と東側諸国崩壊のトラウマ、冷戦終結以降世界で起こっている武力紛争の弁証法(NATOによる旧ユーゴスラビア・アフガニスタン・リビアへの攻撃、二度にわたるアメリカのイラク侵攻。アフガニスタンを除くすべての場合、これらは伝統的にロシアと同盟関係にあった国々だった)、そしてロシアを除外してロシアに対抗するNATOの拡大、旧ソ連の影響圏にあった国々を資本主義的・新自由主義的で、ますます専制的なスーパーマーケットにすることを狙う東欧へのEUの拡大を見ることなしには、現在の紛争を理解することはできない。
アメリカが覇権を握るNATOとロシアの間の大きな対立を説明する物質的根拠は、ロシア政治資本主義の性格である。2000年代初頭以来、ロシア政治資本主義はもはや多国籍グローバル資本主義の利益の浸透を許さず、伝統的な勢力圏と自らの資源略奪主義的レンティア主義[注:一部の富裕層や大企業が政治と市場の力によって利潤を搾取すること]を守ろうとする権威主義的で反労働者的なボナパルティスト勢力にもとづいて、自らのオリガルヒ[寡頭支配層]の利益を確保しようとしている。
―プーチンの帝国主義的・軍国主義的な反応を理解するためには、2022年2月に勃発したことが、一方におけるロシアと他方におけるアメリカ・EUとの間でのウクライナにおける影響力をめぐる争いの帰結であることを考慮に入れなければならない。つい最近のことである1990年代、ビル・クリントン大統領の時代には、ウクライナはイスラエルとエジプトに次ぐアメリカ援助の第3位の受益国だった。多くのアナリストによって予言されていた戦争は、何年単位のものではなく、場合によっては数十年単位のものだった。
―また、ヤヌコビッチ大統領の打倒とそれに続くロシアによるクリミア占領後に始まった2014年以来のウクライナ内戦の力学がなかったら、2022年にプーチン大統領が命じた侵攻は不可能だったことを想起することも重要である。その力学は、ロシアによる秘密裡の介入、およびウクライナ人同士の紛争におけるアメリカや他のNATO諸国によるキーウへの軍事的支援(2014年から2022年の間におこなわれた30億ドルにのぼる軍事支援のこと)、財政的・技術的支援(スティーブン・コトキンの言葉を借りれば、「ウクライナはNATOに属さないが、NATOはウクライナにある」)によって間違いなく増幅され、深刻化したのだった。ミンスク合意Iとミンスク合意IIを履行する政治的意思の欠如(アンゲラ・メルケル首相の言葉を借りれば「それらは時間稼ぎのためだった」)は、2021年秋にクレムリンが強制外交に転じるきっかけにもなった。そのとき、今や公然の事実となっているように、クレムリンはNATOにウクライナを統合しないという約束を要求したが、NATOは拒否した場合の結末を十分に認識した上でこれを拒否した。
紛争の全当事者が自決権を踏みにじってきた
ウクライナ紛争に関与する帝国主義諸国はすべて、何らかの形で自決権を主張しながらも、それを完全に踏みにじってきた(ちなみに、両陣営が主張する「反ファシズム」や「反ナチズム」についても同様のことが起こっている。周知のとおり、ロシア政府とウクライナ政府はいずれも、それぞれの国で軍国主義を刺激するために極右勢力や極右潮流に頼っている)。
プーチンのネオ・ツァーリズムが、たとえクリミアのような地域でほとんど正当性のない「住民投票」を組織したとしても(飛び地の特殊な歴史により、その住民の大多数はおそらく2014年の併合に賛成していたにもかかわらず)、あるいはドンバスで占領している地域ではまったく住民投票をおこなわなかったとしても、レーニンの悪意のせいにされている非難すべき「発明」であるウクライナの自決権を踏みにじってきたことは明らかである。
キーウのナショナリスト政権も、2014年から2022年までの間、ロシア語話者の文化的権利とウクライナでの政治的自治を達成する彼らの意志を尊重してこなかった(ドンバスの自決権は言うまでもなく)。
しかし、欧米帝国主義は、2022年4月にトルコでおこなわれたウクライナ・ロシア和平会談で達した事前合意を妨害したときも(ボリス・ジョンソンが主張するように、戦争はまだロシアを軍事的に十分に弱体化させるのに役立っていなかったため)、また、ウクライナに何をいつ、どの武器で攻撃するかを指示し、ウクライナの意思決定を自国の利益に完全に従属させたときにも、キーウの自決権を尊重しなかった。ウクライナはすでに人口の3分の1、重傷を負って障害者となった一世代の若者たち、数十万人の死者・孤児・未亡人、国土の5分の1を失ったのに、西側諸国政府はウクライナの経済的・人口学的破滅を気にしていない。西側帝国主義の唯一の目的は、ロシアを弱体化させることだったからである。
紛争のダイナミクス・影響・リスク
―冷戦時代の代理戦争は、ロシアのような大国の国境(さらには国境内)は言うまでもなく、そのどれも「北」で戦われたわけではなかった。今日、議論されているのは、ウクライナが通常の消耗戦では勝てないという証拠がある中で、長距離兵器で核保有国を攻撃すべきかどうか、あるいは現実を認めて「ウクライナの自決権の擁護者」がゼレンスキーに交渉を強いることになるかどうかである。冷戦時代には核兵器制限条約があったが、それは今日では最初はアメリカ、最近ではロシアによって組織的に妨害されてきた。この結果、おそらく1962年のキューバ危機よりも危険なシナリオが生まれた。キューバ危機では、アメリカの国境ではなく南北アメリカ大陸全体で、他の大国の利害・同盟国・軍事基地の存在を禁じるモンロー主義が適用された。
―ウクライナの背後でNATOがロシアに代理戦争を仕掛けたことによって切り開かれた将来に西側諸国外務省が寄せた当初の熱狂によって、その支持者の多くが(ヒラリー・クリントンによれば)「スラブ版アフガニスタン」になるという期待を抱くようになったことも思い起こす価値がある。つまり、モスクワの政権交代を余儀なくさせるほどロシアを弱体化させられるという訳だ。バイデン、フォン・デア・ライエン[当時、EU委員長]、ボレル[EU外相]、ストルテンベルグ[当時、NATO事務総長]は、犯された戦争犯罪のために交渉は不可能であり、ロシアの完全な敗北を強制しなければならないとうんざりするほど繰り返した。ネタニヤフを一年以上も日常的に容認してきたことを考えると、西側帝国主義の偽善はまったく恥ずべきことである。
これは最初からそうであったが、紛争を核兵器使用の非常に大きなリスクをともなう帝国主義間の直接戦争へと変えるのでなければ、この戦争をどちらかの側の完全な軍事的勝利で終わらせることはできないということは今ではますます明らかになっている。核兵器を使えば、その性質上、勝者がいないのは明らかだ。したがって、まさに決定的なことは、西側諸国の兵器(最初は小火器、次に装甲車、クラスター爆弾、戦闘機、中距離および長距離ミサイル)で紛争を煽ったことが、戦争の激化と長期化、死者と破壊の増加、そして世界大戦への危険なほどの接近につながったことである。ゼレンスキーが西側諸国の首相官邸で最近提示した「勝利に向けた計画」とは、あからさまにNATOにロシアとの開戦に踏み切らせることで「勝利」を追求するというものである。実際のところ、この戦争の大きな危険の一つは、受動的核抑止力が弱まっていることであり、プーチンがそれを能動的核抑止力(信頼性回復のための何らかの戦術核兵器の使用)に置き換える決断を下すという大きなリスクがあり、これを完全には排除できないのである(西側諸国の政治家による「ロシアの核の脅威はただの脅しだ」という主張は非常に無責任かつ危険であるが、残念ながら左派の人々もそう考えている)。
入手可能なすべての情報が示唆しているのは、ロシアがゆっくりと困難を抱えながらも、双方に多大な犠牲者を出す恐ろしい消耗戦に勝利しつつあること、ロシアが経済制裁に抵抗することができており、中国との地政学的・地経学的つながりを強化してきたことである。ロシアは戦時経済を構築し、制裁の影響に対処する中で、権威主義的なボナパルティスト政権の抑圧的な側面を強化しただけでなく(クレムリンにはパリ・ロンドン・ワシントンへの核攻撃を要求する人々が大勢いることを考えると、プーチンは穏健派であることを想起せよ)、再工業化のプロセスにとりくまざるを得なくなったのである。そのことによって、ワシントンとブリュッセル[EU]が求める崩壊ではなく、むしろ大幅な経済成長が可能になりつつある。石油価格が下落すれば、ロシアにとってこの有利な状況は急速に悪化する可能性がある(ロシアとイランを弱体化させるためのサウジアラビアによる価格操作はあり得ないわけではない)一方で、この戦争はいまだ未知の範囲にある地政学的・地経学的構造変化を引き起こしたように思える。
―ノルドストリームの妨害行為は、複数の NATO諸国の支援を受けてウクライナが実行した(そして、攻撃に直接関与していないとしても、ワシントンの承認を得ていたことは間違いない)ことを示す情報も浮上しており、当初非難されたロシアが当事者だという疑いは晴らされた。(つづく)

ロシア軍の占領地からの撤退を求める在日ウクライナ人たち(2.24渋谷)