寄稿 琉球弧を平和の緩衝地帯に

宮古島の空にブルーインパルスはいらない
緩衝地帯の非武装化こそ最良の国防戦略

尾形 淳(南西諸島への自衛隊配備に反対する大阪の会会員)

自衛隊50年の
記念事業反対

 12月10日、11日の両日にわたって、宮古島市で航空自衛隊宮古島分屯基地開設50周年記念事業に反対する集会と平和行進が行われた。主催は「ブルーインパルス飛行NO!下地島・宮古空港軍事利用反対実行委員会」であった。
 この実行委員会は「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」と「宮古島平和ネットワーク」を中心にして構成されているのだが、宮古島平和ネットワークには「ミサイル・弾薬庫配備反対住民の会」も参加しており、宮古島の自衛隊基地に反対する人たち全体の取り組みになっている。
 10日16時からは宮古島市立未来創造センター大ホールで「琉球弧を平和の緩衝地帯に」と題する伊勢崎賢治さんの講演が行われ、11日10時からは宮古空港の滑走路のフェンス脇でブルーインパルス飛行反対の集会と平和行進が行われた。
 10日、11日の集会には沖縄の人たちはもちろん、北は北海道から、南は九州まで全国から多くの人が集まった。また、沖縄各地の地方議員の人たち、参議院会派「沖縄の風」や共産党に所属する国会議員も参加、発言した。
 以上の事実はこの集会を起点として、南西諸島へのミサイル基地、軍事基地配備反対闘争の横のつながりと、その運動の発展を予感させるものだと思う。

12・10講演会と交流会/逃げる場所のない宮古島に、ミサイルを持ち込むな


 開会のあいさつに立った実行委員会の共同代表の下地博盛さんは保良で、弾薬庫とミサイル配備反対の行動を、日曜を除く連日行っている。下地さんは「自分の家は弾薬庫から200から250メートルの所にあり、非常に大きな危機感を持って反対運動に取り組んでいる」と、まず自分が置かれている状況の厳しさを訴えた。
 そして、「宮古島には逃げる場所はない。敵基地攻撃論などと言って、宮古島などから中国に届くようなミサイルを持つとどういうことになるのか、非常に恐ろしいことです」と語り、今日の講演会の内容の重要さを訴えた。

国民総動員令
の恐ろしさ


 続いて登壇した講師の伊勢崎さんは、アフガニスタンでの武装解除活動に従事していたことでよく知られているが、現在は東京外国語大学大学院の教授を務めると同時に、統合幕僚学校の教官を務めている。
 伊勢崎さんの一族のほとんど全員がサイパンで亡くなった。「鬼畜米英」の手にかからないという自死である。そのわずかな生き残りが彼の母親とその弟と祖母だった。伊勢崎さんはそこに国民総動員令の恐ろしさと、敵を一方的に悪魔とする考え方の危うさを見る。
 そして、そのことを今度のウクライナの戦争のみならず、イラクや自らが直接かかわったアフガニスタンでの経験を例に出して、講演を始めた。
 会場に少なからぬ衝撃を与えたのは「皆さんに考えてほしいのはウクライナの戦争で、市民よ銃を取れと言うが、その銃はアメリカが供給している。アメリカの武器がなければ戦えない。市民は銃を取らないから市民なのであり、銃を取ったら国際法では戦闘員になり、国際法では守れない」と語った時である。
 伊勢崎さんは続ける。「第二次世界大戦でアメリカが原爆を日本に落としたのも、無差別爆撃をしたのもみんなこの論理だった。国民総動員がかけられている日本人はみな戦闘員であるという論理である」。
 「日本は憲法9条を持っている国である。9条の心とは双方に歩み寄らせて、もう戦争は止めろと言うのが9条の心ではないのか」と語り、「戦争を止めろと言う学者のグループを作った時、護憲派の人たちから、プーチンの味方をするのかと批判された。9条主義とは何なのか」と語気を強めた。
 そして、「2014年からウクライナでは内戦状態にあり、その延長として今回の戦争がある。侵略者は絶対許せないが、侵略者にも必ず理由がある」と語り、「NATOを東方拡大しないという約束はあった。これは口約束だった。プーチンはこれを約束だと言っている。これをどう考えるのか。私は約束があったと考えるが、それが外交的拘束力を持つかと言えば、ないと考える」と語り、以下のように続けた。
 「プーチンだけを悪魔にしてはいけない。アメリカはどうなのか。アフガニスタンでは8万人殺した。イラクでは20万人」と続け、「敵を一方的に悪魔とする考えを政治家は利用する。軍事増強の道である」と、軍備増強を進める政府と、それを良しとする世論を批判した。

緩衝国家として
の日本の危うさ


 日本では米軍は自由に行動できる。その事実にこそ、緩衝国家としての日本の危うさがあると伊勢崎さんは指摘する。
 「日本は日米地位協定を結んでいるだけではなく、朝鮮国連軍とも地位協定を結んでいる。日本は国連軍には参加していない。にもかかわらず、在日米軍基地はこの地位協定によって、朝鮮国連軍の後方支援基地になっている。つまり、将来、日本が決定に関与できない米朝開戦によって、日本は国際法上後方支援国家となり、直ちに攻撃対象になる」。
 「国際法には中立法規という規定があり、厳密に守られている。お友達が始めた戦争で中立になるためには条件がいる。基地をつくらせない、通過させない、金を出さないである。日本はこの3つ全部やってませんか?」と伊勢崎さんが会場に問うと、会場からは失笑での回答が起きる。
 石崎さんは日本をアメリカにとっての緩衝国家として位置付け、「韓国も、ノルウェーもアイスランドも緩衝国家だが意志を持っている。しかし、日本には意志がない」と指摘する。日本と違って、韓国でも、ノルウェーでも、アイスランドでもアメリカ軍は自由には行動できないからであり、「自由なき駐留が世界基準」だからである。
 「緩衝国というのは地理的宿命なので変えられない。しかし、緩衝国にも意志がある。しかし、日本には意志はない。だから僕は日本を緩衝材国家だと言う。私たちは緩衝材なんです」と述べると、会場から今度は笑い声が起きる。

宮古島と沖縄の非武装
化は最重要の国防戦略


 最後に伊勢崎さんはノルウェーを例にとり、緩衝国家の国防戦略とボーダーランドの重要性を提起した。
 「ノルウェーは冷戦期、NATO加盟国で唯一ソ連と地続きだった」と説明し、そのノルウェーの北東端、ロシアとの国境地帯に位置するキルキネスという小さな市を取り上げる。
 「キルキネスは長期間に渡って、国境で接するロシアの町と友好関係を結んできた。緩衝国家の中のキルキネスのような地域を、ボーダーランドという。まさに、宮古島も沖縄もボーダーランドであり、北海道はロシアとのボーダーランドになる」と指摘する。
 「このボーダーランドを武装化して敵に槍を向けるのか、向けないのか。キルキネスの周辺にはノルウェー軍はいない」「日本が緩衝国家であるという事実を認め、自分たちが生き延びるために、ボーダーランドを非武装化することは国防戦略の一つである」「敵を刺激しないことは、敵に屈することではない。ノルウェーは人権の国であり、平和の象徴の国である。ロシアが人権侵害を起こした時に、真っ先に非難するのはノルウェーであり、そういう国にわれわれはなぜなれないのか」と会場に問いかけて、2時間に及ぶ講演を締めくくった。

交流会─多くの島々
から自衛隊基地反対
の人たちが集まった

 講演会に引き続いて行われた交流会には、ミサイル基地に反対する北海道から九州まで網羅した多くの人たちが参加した。また奄美大島を除く自衛隊基地建設に反対する南西諸島のすべての島の人が参加した。
 この二つの事実は今後のミサイル基地反対運動の全国的広がりと、反対運動を行っている島々の横への繋がり、連携を考える上で重要な意味を持つだろう。
 石垣市の市会議員の花崎さんは「来年3月に石垣島の自衛隊駐屯地開設が予定されている。また本格的に日米共同の軍事訓練が始まるという厳しい状況にあるが、宮古、石垣、与那国、南西諸島の人たちと連携し、皆さんたちと一緒に戦争にならないよう頑張っていきたい」と述べると、大きな拍手が起こった。
 宮古島の下地さんは「南西諸島の空港を自衛隊機の使用に耐えられるよう整備することが決められ、NHKは下地島空港を念頭に置いていると報道した。安全保障とは小さな島にミサイルを配置することではない。大事なのは緩衝地帯という考えだと思う」と語った。
 宮古市議の上里さんは「軍事利用しないと約束していた下地島空港を軍事利用する計画が進められているのではないか、軍事利用は絶対に許さない」と力強く発言した。
 辺野古や高江で戦う人、山城博治さんなど、沖縄の各地で戦う人たちの発言が続いた。
 そして、「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」の藤井さんが発言に立ち、「私たちだけで自衛隊の配備を止めることはできません。全国の皆さんと一緒になって初めて実現できるのだと思っています」と会場に訴えた。
 最後に、当日は直接参加できなかったが、馬毛島の軍事基地に反対して闘う種子島在住の人からのアピールが読み上げられた。

身の危険を感じ
る人は金をだす
から島を出ろ

 与那国島の山田さんからもメッセージが送られてきていたのだが、フェースブックのメッセンジャーのトラブルで報告できなかった。そのため11月17日の与那国島での機動戦車の公道走行反対闘争に参加した「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」の清水さんが、簡単に与那国島の状況を報告してくれたのだが、その報告は驚くべき内容だった。与那国島の町長は条例で有事の際の基金を創り、「武力攻撃事態になったら逃げられないから、その前に逃げたい人は金を出すから島から出たらいいという信じられない条令をつくってしまった」と怒りを露わにした。
 しかし、一方で清水さんは「山田さんは与那国の若い人たちと勉強会をすることになっていて、そこで、今後の対応を考えていきたいと語っていた」と報告した。
 私は9月の「石垣島、与那国島訪問記」で、「基地が開設されて6年が経ち、当初の反対闘争の熱気はないようである」と記した。
 しかし、与那国島の公道を堂々と走る機動戦闘車は、新しい軍事基地反対の芽を育て始めたようである。

耳をつんざく爆音に
抗して、響きわたる
「ミサイル基地撤去
せよ」の大合唱

 午前10時、宮古空港を取り囲む針金のフェンス脇の草の生い茂る広場に次々と人が集まってくる。ブルーインパルス飛行に反対する宮古島の、先島諸島の、沖縄各地の、そして全国の人々だ。
 フェンス越しに滑走路が見下ろせる。ANAやJALのジェット機が次々に飛び立っていく。その手前、フェンスのすぐ下の駐機場には1から6までのナンバーを付った6機の戦闘機が並び、自衛隊員が忙しそうに立ち働いている。そして、戦闘機に向かって整列する自衛隊員。
 最初に発言に立った「沖縄の風」の参議院議員の伊波洋一さんは「宮古島や石垣島は守れないし、守らない。米軍は台湾有事の前に日本列島から去っていく。ミサイルが飛んでくるから」と、危機感をあらわにした。
 同じく「沖縄の風」の参院議員の高良鉄美さんは、防衛大臣に下地島空港の軍事利用について質問したが、「曖昧な返事しか返ってこなかった」と、軍事利用をもくろむ政府の態度を暴露した。
 ここで、住民連絡会の清水さんの音頭でシュプレヒコール、「ブルーインパルス飛行反対」、「宮古空港と下地島空港の軍事利用反対」、「ミサイル基地建設反対、ミサイル基地を撤去せよ」の声が宮古の空に響きわたる。
 集会は前日時間がなく発言できなかった沖縄各地からの参加者の発言、続いて、北海道、宮城、東京、神奈川からの参加者の発言に移る。そして、関西各府県からの参加者の発言になり、ここで、私たちの大阪の会からの参加者も発言する。
 11時半近くになると突如、戦闘機の爆音が響き渡り、次々と滑走し飛び立っていく。私たちもそれに負けじとシュプレヒコールの声を上げる。
 ここで集会を一時中断し、平和行進出発地の宮古市役所新庁舎に移動する。関西以西の参加者の発言はデモ終了後に行うことになる。
 午後1時、平和行進は宮古島市役所を出発、平良港近くの旧市役所庁舎まで宮古市の中心街を横断して行われた。
 

宮古島空港で伊波洋一参院議員
ブルーインパルス抗議・市内デモ

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