グローバルな監視社会に対抗する

6.24 ATTAC Japan(首都圏)講演会

おはなし:小倉利丸さん(JCA-NET)&朋友たち

 【東京】6月24日午後2時半から、アカデミー千石で「 グローバルな監視社会に対抗する」講演会がATTAC Japan(首都圏)の主催で行われた。

 ロシアのウクライナ侵攻は、サイバー攻撃を含む情報・心理戦なども駆使したハイブリッド戦争と呼ばれています。「幸福な監視国家」と呼ばれる隣国・中国では平時における監視社会の問題が少数民族監視やゼロコロナ政策によって浮き彫りになりました。日本でもサイバー空間における先制攻撃を想定した安保防衛3文書の改訂が問題になっています。
 平時と戦時、娯楽・ビジネスと監視社会、公共空間と私的空間の境界がますます曖昧になるサイバー空間。金融取引でも主要な舞台です。最近では中国で国家のIT監視を回避するサイバーリテラシーを論じてきたブロガー「編程隨想」(本名:阮曉寰さん)が国家機密を理由に秘密裏に逮捕され、非公開裁判で国家転覆扇動罪7年の判決を受けています(控訴中)。中国や日本で起こっているいくつかの事例や事件をもとに、社会運動の立場からいかに考え、行動すべきかを論議します。 (呼びかけ文より)
 「グローバルな監視社会に対抗する」と題する講演会を小倉利丸さん(JCA―NET)と中国事情について別の方からの報告があった。      (M)

小倉利丸さんの講演から

講演する小倉利丸さん(6.24)

 結論から話をする。
 プライバシー重視でオープン/フリーなソフトウェアを使うこと自体がライフスタイルを変える運動になる

 私たちが、日常的な仕事や市民運動、労働運動などの活動で、LineやGmailを使ったりTwitterを使ったり、パワポでプレゼンしたり、ワードでデータを交換したりすることは「便利」だが、同時に、これらにやや不安を感じている人たちがいたとしても「あの人たちが使っているのだから私たちも使っていいのだ」という間違ったメッセージを発信してしまうかもしれない。
 これらは企業が営利目的で、制作している商品です。それに対して、オープンソースやフリーソフトとも言ったりもします。営利目的で作られていないものを意図的に使う。あと、プライバシーとか安心社会の問題で言えば、暗号化、匿名性、セキュリティを重視していく。ですから道具の選択順位をどうするのか、考えなおすことが必要でしょう。これが結論の一つです。
 社会運動や労働運動が、監視社会下で運動を持続させていくために、何に留意すべきかをみんなで一緒に議論することの最初の出発点になればと思う。
 ◦多国籍資本の営利目的サービスを使わざるをえない特段の理由があるのか、ないのかの判断をする。もしそうではない代替的サービスとしてより好ましいものがあるのであればそれを使う。あるかないかを確認することは運動をやっていく側のメディアの戦略としても非常に重要だと思う。
 ◦資本や政府が推奨するサービスを利用することは、コミュニケーションやメディアの中で、「文化を共有すること」になる。政府や大手の企業と同じ文化を自分たちが共有していることだ。それでいいのか。それをきちんと確認していく。支配的文化を極力避けるにはどうしたらいいのか。政府や大手企業と違うネットの文化を意識的に作る。これまで日本の運動体はやってこなかった。それを監視社会の中で、もう一度考えてみる必要がある。これはとっても大変なことで、そう簡単ではない。
 じゃあ、どういうサービス使ったらいいのか。サービスの使い方のポイントは必ずそのサービスのプライバシーポリシーや個人情報の取扱いという読みたくもないページをまずよく読んでださい。そしてその次に、必ずビジネスモデルをチェックしてください。無料で提供されているのであれば、なんで無料なのか、どうやってその企業は無料なのに莫大な利益を上げているのか、利益の仕組みを調べてみてください。
 そのうえで、それでもいい、あるいはこの程度だと自分は受け入れる範囲だというのであれば、そのサービスを使えばいい。そうではなくて、これちょっとまずいよねと思うならば、何か別のものはないかと探すということをやっていくのが第一歩だと思う。何か別のものを探すのは大変なので、その時に仲間がいることがとても大切だ。どうしたらいいんだろうかと議論して、何か別のものに変えるか、別の手段を取った方がいいのではないか、議論が最初にあって、そこからスタートしていく。こうしたことを考えていこうというのが結論です。
 次からは、詳細なレジメの一部を紹介します。

1 現代の監視社会の歴史的起源――IBMの「ホレリスマシン」を例に

1 1 ナチズム

 1933年頃に米国IBMのヨーロッパの子会社、ドイツのデホマクが販売した「ホレリス・マシン」。人間の「特徴」を一片のカードに記録。この膨大な情報を必要に応じて検索したり選別できる。
 「ナチスの強制収容所の設置よりもずっと前に、ユダヤ人、ロマあるいは反体制的な人々、精神障害者などを人口のなかから識別できるシステムが既に存在していた」。
 収容所は、事務処理用のコードが割り振られ、たとえば、アウシュビッツは001、ダッハウは003のように3桁で表示される。そして、収容者については、個人別のカードが作成される。・身体情報を医療記録に記録・詳細な個人情報を記録・政治部の索引と氏名を照合して特別に残酷な処遇をするべきかどうかチェック・労働配置室に登録され、5桁のホレリス番号が与えられる・一つの仕事から次の仕事へと移動するホレリス・システムが彼の労働配置状況を追跡し、中央収容者ファイルに報告される。
 強制労働についてはSS経済管理本部が集約して管理。

1 2 IBMのグローバル展開

 北米32、ヨーロッパ22、中南米8、中東・アフリカ5、アジア5に子会社を設立。第二次大戦中でもドイツの事業を継続。

1 3 米軍とホレリス・マシーン

 ・IBMの協力のもとパンチカードの操作に熟達した兵士を育成。
 ・戦場にも機械記録部隊を同伴。爆撃の結果、死傷者、捕虜、避難民、物資などを網羅的に記録した。
 ・徴兵用の何百万人分のデータを組織化。
 ・1945年5月、原爆を開発していたロスアラモスでも使用される。
 「アメリカでIBMの機械が、人を追跡するのにこのような並外れた能力を発揮できた主な理由は、こうした機械が1940年の国税調査で広く使われたことであった」。

1 4 日本人の強制収容所

 真珠湾後の日本人の強制収容所への隔離にも利用された。
 ・真珠湾以後、12万人の日系アメリカ人を収容
 ・収容者は家族識別番号を付与
 ・各家族のメンバー、個人の所有物、医療行為、商品やサービス取引を識別するためのIDタグを身につけることが義務化。
ホレリスのパンチカードの記載事項
 ・年齢、性別……、犯罪歴など。
 ・収容者の訪問者のリストや背景情報など広範な情報も集められ、米国に忠誠を誓う者と拒否する者、日本に帰国させる者、要警戒人物などの振り分けも行われた。

1 5 教訓にすべきこと

 ・網羅的で詳細な人口データの取得動機が近代国家一般にみられる。
 ・取得データの規模はデータ処理能力の高度化に応じて拡大する。
 ・データの利活用は政治状況の変化に応じて変化する。
 ・多国籍資本は、国家間の対立関係とは別に、利潤も目的で行動する。

2 監視社会の究極の目標は何か?

2 1 行動主義の創始者ワトソン『行動主義の心理学』

 人間は、行動を改善するように促す刺激を受けることによって、行動の改善を学習する。行動を促すためには、動機や意図などは不要である。与えた目標をきちんと達成できればそれでいい。

2 2 膨大なデータの収集

 人間の意識や感情を制御する技術が存在しないため、意識・感情などの要因に依存しない行動制御技術が必要だった。

2 3 行動変容を促す技術

 デジタル化された空間・場所:実空間のなかの「私的空間」「公共空間」などの区別は存在しない。膨大なデータに「意味づけ」し、分類し、必要に応じて臨機応変に利用する構造が支配的になる。「プライバシー」は空間的に防護された場所に依存できない。

3 目標実現に不可欠なデータ収集

 膨大なデータが必要で、こうした労働集約的な作業とコンピュータによる解析の組合せは、古くから存在した。

3 1 アノテーションの作業=注釈をつける作業
3 2 アノテーション代行サービスの費用相場

 画像分類 平均値5・3円~。物体検出 平均値6・6円~など。

3 3 世界的に進行するデジタルIDの裏にあるのは

 データ収集の具体的な目的は、データの汎用的で柔軟な活用のための基盤であり、特定の目的は「ない」→福祉にも徴兵制にも使える。どちらに使うかは、その時の状況次第。これらに、多国籍資本の技術と国際的な労働分業が関与。
 人種、ジェンダー、宗教などをめぐる「学習」の偏りの問題は、自国の政権やイデオロギーにとって好ましいデータを優先させて「学習」させるという目に見えない偏りが政策的に生み出される可能性が高い。

4 セキュリティとプライバシー防御:個人データを営利目的、国益に利用されないために

 データを与えない取り組み。・匿名性の確保。暗号化技術の利用。技術の透明性。
 プライバシーやセキュリティを重視した選択をした場合には、一般に普及しているサービスとは別の選択肢の方が好ましいばあいが多い。オルタナティブなサービスやツールの一例。
 ・検索エンジンのDuckDuckGo ・暗号化メールサービスのProtonやTutanota・オンライン会議Jitsi-meet・Twitterに代替する分散型のSNSのmastodonなど

4 1 なぜ必要なのかは、それぞれの人の事情による

 ・労働運動の活動家は経営者に知られないような通信が必要
 ・弁護士は依頼人を守るために、第三者に盗聴されたりデータを窃取されないことが必要
 ・亡命者は出身国の情報機関などによる追跡や迫害を逃れながら通信を確保することが必要
 ・ジャーナリストは内部告発者の身元が暴露されないように取材することが必要
 ・DVの被害者は加害者からの追跡を回避しながら必要な確保をすることが必要
 ・子どもは親の過剰な干渉から自分の通信の秘密を確保することが必要

4 2(略)
4 3 セキュリティはプライバシーは、法律で保護されているのではないか?

 ・人間のプライバシー情報の多くは生ものである。
 ・法律は改悪されたり、解釈の変更、裁判での不利な判決などに伴う危険性が常にあり、万全ではない。
 ・コンピュータのプログラムそのものにプライバシーや人権を保護する仕組みが取り込まれていないことが多い。
 政府は国益を優先し、企業は利潤を優先する組織であり、これらは、私たち個人の権利を守らないことがあるということを前提に考える必要がある。(以上、レジメより)

 まとめより


 膨大な情報を処理することが必要な状況がある。日本の場合は日本の国内のデータをうまく処理して、それを使いこなすことができない。警察もやるわけです。公安警察は山ほど写真を撮る。撮った写真どうしているか。アノテーションの作業をやる。やらなかったら何の意味もない。あるデモがある。そこに来ている一人ひとりの顔を全部識別できるようにする。プラカードがあればプラカード。全部タグ付けの作業をする。そして、タグ付けの作業をしながら、そのデモはいったいどういう団体のデモかというデータもつくる。警察は外注なんかに出さない。自分の組織の中でやれる体制をつくるか信頼のおける企業にあずける。それは分からないが。
 同じようなことは民間の企業でも、外注できないような医療情報などは別にやる会社がある。考えられる憂うつなことの一つは今なんで政府がマイナンバーにこんなに前のめりになるかというと、マイナンバーの番号があります。カードを使って、多くの人たちにさまざまな行動を取らせて、取らせた行動をひとつの大きなビッグデータとして集めて、それを処理していく。一連の作業をしたいわけです。簡単にできるわけではない。人々の行動を把握することをやっていく。
 今の状況の中でやっかいなのは、人間もどきのお話をするAIが出てきている。AIそれ自体の学習能力を上げるためには、なるべく多くのデータがほしい。データの収集の一つの入り口として、今まではなかったマイナンバーだけではできなかったリアルタイムでの行動の履歴を入れていく。そしてマイナンバーカードを民間にも使わせるように開放している。開放することによって、ますます一人ひとりの行動自体を紐付けしていくことができる。危惧されている状況がある。意図的に間違うこともあるだろうが、紐付けの仕方とか、意味づけのしかたとか出てくる。
 世界規模でデジタルIDは大きな普及モードに入っている。プライバシーにかかわる、特に医療データが集められれば集められる程、それらを使えるような仕組みが出てくる。私たちがやらなければいけないことはそういうデータを取られざるを得ない。そのデータが私のデータだということにならないような仕組みを可能なかぎりつくっていくのが一つ。匿名性の確保。何者か分からないというふうに身分を隠す。名前を隠す。例えば、日本の場合、スマホ・携帯を買うときは身分証明書が必要ですから、電話番号と自分とが完全に結びついてしまう。電話番号を使って何かをやることはリスクが高い。携帯電話を使って匿名性を確保をする方法があるのかないか。
 もう一つはたとえ分かられたとしても、実際お互い何をコミュニケーションしているのか分からない、暗号化の技術がもうひとつ重要だ。暗号の技術は匿名性の技術とセットになって大きな力を発揮する。
 そして、三番目が技術の透明性だ。マイナンバーもそうだけれども、インターネットの技術者の間で昔から議論されてきたプライバシーバイデザインという考え方があります。設計の中に確実にプライバシー化する仕組みを組み込むべきである。それをあえて組み込まないということをやる。きちんとプライバシーを組み込んだ技術が出来ているとすると勝手に、行政とか政府が個人情報を転用しようとしても技術的にできないという仕組みをそこに入れられるかどうか。これはいろんな議論がある。そんなことするより、それ自体の技術をなくしてしまえという意見もある。
 多くの私たちが普通に使っているさまざまなサービスというのはほとんどが匿名性も暗号の機能も非常に脆弱だ。何を使っているのか分からない技術が多い。企業秘密とか企業の利益が関係することだから、公表はしません、だったりする。そうではないようなものを私たちは意識的に選んでいく。非常に小さなことだけども一つ一つの自分の行動を取得していく重要なポイントなる。逆に政府はそれをやらせたくないので、匿名性を剝ぎ取りたいから実名性を出してくる。今イギリスだとか日本政府もそうだけど、検討しているのは暗号の規制だ。日本では暗号はどんな暗号を使ってもかまわない。イギリス政府が言っているのは暗号は使ってもいいけれども、暗号のマスターキーは捜査機関に持たせる。そういうルールをつくりたい。日本政府もそっちに行くか行かないか微妙だ。暗号が奪われたら、権力に対して秘匿すべき、コミュニケーションは何もできなくなってしまう。この二つは非常に重要だ。その先にグローバルなデータを搾取的労働で携わっている人たちがいて初めて成り立っている。そういうことを含めてグーバルな監視社会を考えてみたらどうか。(発言要旨、文責編集部)
【次号に中国報告を掲載予定】


 

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