ソウルの春
コラム「架橋」
つい先日、東京で打ち合わせのあと時間に余裕があったので、有楽町のミニシアターで上映していた韓国映画「ソウルの春」を観覧してきた。この映画の存在は、その予告で知っていたがなかなか地方には回ってこない。都内での上映館を探したところ有楽町駅前で観られることがわかった。午後1時30分からの上映であり、封切りは前日だった。これは幸と、汗を拭いながら山手線に乗車したしだいである。
「ソウルの春」は韓国大統領パク・チョンヒが1979年10月26日、KCIA部長キム・ジュギにより射殺されたのちの12月12日、チョン・ドゥファン保安司令官が、権力奪取を目論んで引き起こした軍事クーデターをモチーフにし、9時間にわたるその一部始終を描いたフィクションである。
しかし、フィクションとはいえ国民、そして全世界が知らなかった事実を時系列でおった大作であり韓国現代史の闇に光をあてた作品であると言い切れる。その舞台セット、照明、音声、そしてシナリオや各役柄を演じた俳優のリアルさは、韓国映画ならではの臨場感と迫力に満ちていた。
話題となった「パラサイト」を上回る観客動員数は、まさにパク・チョンヒ、チョン・ドゥハンと続いた独裁政権を韓国民衆が打ち破った証左にほかならない。
これらは光州事件を描いた映画「タクシードライバー」や「1987」に続く系譜であり、民主化を成し遂げた現在にあっても、独裁政権時代の悪行を暴き、心ある市民、政治家、軍人の良心を讃える歴史の証言者といえよう。
閑話休題。前述したように9時間にわたって繰り広げられた暗闘の主人公はまさにチョン・ドゥファン保安司令官であり、これらを阻止しようと動いたチャン・テワン首都警備司令官である。いままでチョン・ドゥファンの名前は知っていたが、敗れはしたがその愚行に力を持って抵抗したチャン・テワン首都警備司令官の存在は知り得なかった。
民主化されたのちチョン・ドゥファンは拘束され死刑判決(特赦で執行停止)、チャン・テワンは国会議員をつとめた。
日本も政治の闇に切り込んだ映画を制作してもらいたいものだ。
(雨)