精神保健V講

コラム「架橋」

 毎年秋に職場で行われる定期健康診断の結果に、一喜一憂している。体重、血圧、肝機能、血糖値、そして腹囲である。これとは別に2年に一度、公費で消化器内視鏡検査を受ける。「『異常なし』ではないんですよ。できれば1年に1回受けたほうがいいですね」。駅前クリニックの女性のワンマン院長が、釘をさす。法定健診の結果を基に「保健指導」まで入る。保健師と面接し「ダイエット目標設定」を強要されるのだ。
 これらカンパニア的システムに縛られず、私は休日の朝、ウオーキングを続けている。地元の街を1・5時間ほど歩く。
 ある日の帰り道、シャッター商店街の小さな貼り紙に目が留まった。「ボランティア(V)募集」に伴う「精神保健福祉講座」の案内である。開催全3回。会場は本紙読者会で使う施設で、講師は精神保健福祉士や「自殺対策」団体の専門家が担う。
これまで何度となく私は「GK研修」を受けてきた。GKとは「ゲートキーパー」の略で、自殺願望、希死念慮のある人に寄り添い、最悪の事態を避けるための人物。話術などのノウハウを学ぶ。「わずか3回なら出られるか」と今度はV講座に応募してみた。
2回の講義・討論会の後、最終日は施設見学である。「精神障害者地域生活支援センター」を拠点に活動する民間のV団体が人材を送る、複数の「就労継続支援B型事業」所を回った。小ぎれいな作業場で若者から高齢の利用者が黙々と手を動かす。内職をイメージするとわかりやすい。ケーキやクッキーなどの菓子類は、シワひとつないOPP袋にリボンで留められ、店内の間接照明を受け輝いている。デパ地下商品と見紛うような高級感が伝わってくる。
 V講座に最期まで残ったのは、男女4人の面々だった。解散後の帰り際、団体代表が私に近寄ってきて声をかけた。「〇さんの自己紹介を聞いた時から、やってくれるのではないかと確信していたんです」。私は苦笑し、「先日話したように、私自身も今、いろいろ抱えてましてね。でも人材不足は深刻ですね」。
 駅前のチェーン店でラーメンをすすりながら、頼まれると断れない性格を恨んだ。餃子3個を、追加注文した。
(隆)