「言った者勝ち」社会
コラム「架橋」
首相・高市早苗は突如衆院解散の意思を明かした。彼女が憧れた故・安倍晋三のやり方をなぞり、支持率の高いうちに安定多数をめざす独善的な賭けに打って出た。
「日本初の女性首相」という祝儀相場もあろうが、彼女の人気の高さは本物なのか。政権が右に行けば行くほど支持率が上がるのはなぜか。
昨年、表題の本を読んだ。副題は「ポピュリズムとSNS民意に政治はどう向き合うか」。2024年の東京都知事選から衆院選、兵庫県知事選までを、朝日新聞取材班が緻密に分析した。
「SNSが各種選挙の勝敗を左右する」と言われている。本当なのか。この深い疑義に対する一定の答えが、本書にある。
まず「ノイジーマイノリティ現象」(東京大学・鳥海不二夫教授)。ネット上では情報量に制約がなく、大量の情報を素早く流せる。「少数派が声をあげることによって、あたかも大勢が声をあげているように見えてしまう現象」を指す。
津田正太郎慶応大学教授は前記の分析を受け、「沈黙のらせん」の逆で「逆沈黙のらせん」現象を提起する。政治的社会的主張を持たず他者にも開陳しない人々は、「わざわざ言うまでもない」と考える。これが実質的な多数派で、極端な意見は少数派に過ぎない。だがSNS上では逆転する。SNSで声を荒げる少数派に対し、中間的多数派が沈黙を続けることで、少数派があたかも多数派であるような錯覚が起きるという。中庸で穏健な人々は、両極端の放言が飛び交うネット上に嫌気がさし撤退していく。残るのは強い意志で相手と対立し論破しようとする者ばかりで、そこには議論や相互理解は成立しない。この「言った者勝ち」の風潮が、現実社会にも浸透してきたというのだ。
本書には、自民党と連立したものの「国保逃れ」の醜態をさらす「日本維新の会」共同代表の藤田文武の出世物語もある。藤田は徹底したマーケティング手法で政党に経営理念を持ち込み、同党当選者を一の桁まで正確に予測して見せた。後半では参政党の評価が興味深い。
反戦派、良識派、平和市民運動の側は、ネット戦略をどう立てていくか。討論の素材に、じっくりと読み込みたい一冊である。
(隆)

