新たな危機の時代における断層線―帝国主義的対立、権威主義そして抵抗 ①
2026年5月10日 アシュリー・スミス
トランプの権力掌握は突然の出来事ではなかったというのがアシュリー・スミスの主張である。それは、危機に満ちた新たな時代の象徴なのだ。この論文の初稿は、今夏開催される「テンペスト・コレクティブ」大会の討議資料として発表された。
(訳注:「テンペスト・コレクティブ」は、アメリカの革命的社会主義者のグループで、自らを「組織的・教育的プロジェクト」と位置付けている。第四インターナショナルの第18回世界大会や今年2月の国際委員会にもゲストとして参加し、発言している)
私たちはグローバル資本主義の新たな時代に突入した。それは危機、帝国主義間の対立、権威主義的ナショナリズム、下からの突発的で爆発的な抵抗によって特徴づけられる。トランプ政権のわずか一年間の悪政によって、とりわけイランとの戦争を通じて、これらすべては頂点に達した。この戦争は、第二次世界大戦後にワシントンが自らの勢力圏内で構築し、冷戦後に世界的に拡大した自由貿易グローバリゼーションという帝国主義的秩序に決定的な終止符を打った。現在、アメリカは名目上の同盟国、対立する諸国、地域大国、従属国家に対して、自国の利益を追求する略奪的な帝国主義国家となっている。
トランプの権力掌握は、他の権威主義的ナショナリストが権力を掌握したのと同様に、青天のへきれきではなかった。右派の選挙における成功は、資本主義の多重的危機と、既存政党がそうした危機を克服できなかったことの産物である。既存政党の失敗は、左右への政治的分極化を引き起こした。革命的左派の衰退と、改良主義政党が政権を握っても成果を上げられなかったことを考えると、新たな右派が権威主義的ナショナリズムという形で、主要な受益者となってきた。しかし、右派の緊縮財政、偏見、スケープゴート作りという綱領もまた、資本主義のシステム危機に対処することができず、支配を確立し安定した統治を課すための彼らの能力を弱めている。その結果、政治的不安定が世界中で常態化している。
こうした状況は、下からの抵抗運動の波を次々と引き起こしている。しかし、これまでのところ、この抵抗運動は断続的で、勝利には至っていない。その主な理由は、闘争を維持し、既存政党や右派に対抗するオルタナティブを提示するための階級組織、社会組織、政治組織が崩壊しているためである。とはいえ、こうした闘争は、抵抗の基盤を再構築し、戦闘的な少数派を結集させ、21世紀に向けた革命的左派を再構築する機会をもたらしている。
資本主義の世界的不況
資本主義は、気候変動から大量移民、新型コロナウイルスのようなパンデミックに至るまで、多重的なシステム危機に悩まされている。他の二つの危機は、私たちの新たな時代を形作る上で最も重要な危機だが、世界的な経済不況と帝国主義間対立の再燃である。2008年の経済危機はグレート・リセッション[注:2000年代後半から2010年代初頭までの間に世界市場で観察された大規模な経済的後退]の引き金を引き、1980年代に始まった長期にわたる新自由主義の好景気に終止符を打った。
資本主義は生き残ったものの、その回復は低利益率と低成長を特徴とし、不況と弱い経済回復によって何度も中断させられた。このシステムの中心地は、アメリカからヨーロッパや日本に至るまで、緩やかな成長率にとどまるか、あるいは停滞している。アメリカに関しては、ハイテク企業によるAIデータセンターへの巨額投資と、それにともなう株式市場のバブルだけが経済成長を支えてきた。しかし、イランとの戦争の結果、それも危機に瀕している。グレートリセッション後の世界的な経済回復の要であった中国でさえ、2000年代の年間10%の成長から、現在では5%未満にまで経済成長が落ち込んでいる。
新型コロナウイルスによる景気後退のあとに続いたインフレによって、アメリカやヨーロッパは相対的に高金利を維持せざるをえなくなっており、そのことは投資や成長を阻害してきた。もう一方では、過剰投資、熾烈な競争、低利益率は、中国におけるデフレを加速させ、そのために中国企業は、余剰生産物を輸出し、その過程で自らの競争力を弱めながら、一帯一路構想を通じて国際的な投資先として収益性の高い場所を探し求めざるをえなくなっている。
アメリカの高金利と中国のダンピングが組み合わさることで、グローバル・サウス諸国において二重の危機が引き起こされてきた。第一に、高金利は債務を抱える国々を苦しめ、債務国は1980年代に経験したような債務危機に再び直面しつつある。すでに債権国はグローバル・サウス諸国の政府に対し緊縮財政政策を要求している。第二に、中国からの輸出製品は、グローバル・サウスの国内製造業の基盤を弱体化させ、グローバルサウスを中国の継続的な拡張のために原材料を中国に輸出するよう追いやっている。
つまり、私たちは世界的な不況の中にいるのだ。この世界的不況は、より深刻な危機によって世界経済から競争力のない資本がすべて一掃されるまで続くだろう。今日まで、主要な資本主義国家はこうした事態を食い止めてきた。大量倒産や1930年代のような大恐慌を恐れ、大きすぎて潰せないと考える自国の企業を救済してきた。その結果、いわゆるゾンビ企業のテコ入れがおこなわれてきた。こうした企業は収益性が非常に低いため、既存融資の利息を返済するために、ますます多くの融資を受けざるをえない。結果として、システムはかろうじて存続している状態となっている。
対照的に、支配階級は自国の労働者に対して緊縮財政政策を押し付け、社会福祉支出を削減し、賃金や補助金を攻撃してきた。その結果、世界中で階級格差が拡大している。同時に、各国は自国の資本を他国や他国の資本から守るために、保護主義やその他の近隣窮乏化政策[注:自国の景気や雇用などをよくするために、高い関税を課したり、輸出補助金を支給したりして、貿易相手国に不利な影響や負担を押しつける経済政策]に転じてきた。
帝国主義間対立の再燃
このようにして、世界的な景気低迷は、第二の重要な危機、すなわち帝国主義間の対立、とりわけ世界の二大経済大国であるアメリカと中国との間の対立を激化させている。もはやワシントンにとって、冷戦終結後とは違って、一つの超大国による世界秩序は存在していない。長期にわたる新自由主義の好景気によって、中国やロシアといった新たな資本蓄積センターや多くの地域大国が作り出された。
アメリカは、アフガニスタンとイラクでの戦争を通じて、ますます脅かされる覇権を守ろうとしたが、これは逆の効果をもたらし、壊滅的な敗北を招いた。さらに、グレート・リセッションはアメリカ、ヨーロッパ、日本に深刻な打撃を与えた一方、中国は巨額の国家投資によって経済成長を維持し、それにともなってロシアからオーストラリア、ブラジルに至るまでその周辺諸国経済が拡大した。
こうした展開によって、競争相手に対する、とりわけ中国に対する、アメリカの相対的な地位低下が起こり、今日の非対称的な多極的世界秩序の到来が告げられた。アメリカは依然として最大の経済大国であり、最大の軍事力と地政学的な影響力を持っている。米ドルは世界の基軸通貨であり続け、800もの海外軍事基地を擁する巨大な軍事帝国を築き、その力を用いて同盟国や対立国、そしていわゆるならず者国家を威圧している。
しかし、もはやアメリカは無敵ではない。中国は今や潜在的に同等な競争相手となっている。そして、ロシアは、膨大な核兵器保有と化石燃料資本主義経済を有して、世界的な野望を抱く巨大な地域大国となっている。こうした状況下で、地域大国は大国間の対立を利用して自国の利益を追求している。たとえば、イランは「抵抗の枢軸」と呼ばれる枠組みを主導し、アメリカ、アラブ諸国、イスラエルに対する地域帝国主義的影響力を構築するためにそれを利用してきた。
歴代のアメリカ政権は、こうした新たな秩序に直面して、冷戦終結後のワシントンの戦略、すなわちすべての国家を自由貿易グローバリゼーションという新自由主義的な世界秩序に組み込むことで資本主義を管理するという戦略を放棄した。オバマ大統領は「アジア重視」政策を通じて、中国との大国間対立へと舵を切った。
トランプ大統領は最初の任期中に、大国間対立をワシントンの新たな大戦略として位置づけ、特に中国とロシアを名指しした。彼の「アメリカ・ファースト」外交政策は、友好国と敵対国の双方の利益よりも、彼がアメリカの利益と考えるものを優先させた。彼は保護主義のために自由貿易を放棄し始め、とりわけ中国に対する関税引き上げを実施した。しかし、政権内部の分裂、伝統的な同盟国への敵意、対立国とその場限りの取引をする傾向、全般的な無能さによって、自らの政策を一貫して実施することができなかった。
バイデン政権はトランプの大国主義路線を引き継いだものの、一方的行動主義(ユニラテラリズム)は放棄した。その代わりに、ワシントンの同盟構造、とりわけNATOを再構築し、いわゆるルールにもとづく国際秩序を守るために、中国とロシアに対抗してNATO加盟国を結束させようとした。さらに、バイデン政権は、それを北京に対する戦略的な保護主義やハイテク産業、特にマイクロチップ分野におけるアメリカの優位性を確保するための産業政策と組み合わせ、台湾からマイクロチップ生産を国内に戻そうとした。
バイデンは、ロシアによるウクライナへの帝国主義戦争を利用して、NATOをキエフの民族解放闘争のもとに結集させた。彼の目的はウクライナの自己決定権を守ることではなく、ロシアを弱体化させることだった。しかし、バイデン政権は、イスラエルによるガザでのジェノサイド戦争を擁護し、資金援助し、武器供与することで、国際法と人権の擁護や被抑圧民族の支援という自らの主張を致命的に失墜させた。
抵抗運動の波
世界的な不況、帝国主義間対立の激化、それ以外の資本主義のシステム危機が複合的に作用し、世界中の社会を不安定化させている。こうした状況は、小ブルジョアから労働者階級や農民に至るまで、さまざまな階級による下からの抵抗運動の波を引き起こした。こうした運動は政治的に多様であり、右派の小規模企業による反乱から、労働者や被抑圧民衆の蜂起まで幅広い範囲に及んでいる。
左派にとって最も重要なのは、世界各地で展開された進歩的な階級闘争と社会闘争である。それは、中東・北アフリカの「アラブの春」革命から、アメリカにおける「赤い州」[共和党支持が強い州]における教員のストライキや抗議行動、「ブラック・ライブズ・マター」、パレスチナ連帯運動にまで及んでいる。これらの運動は1960年代以降で最大規模であり、1930年代と同様の階級的側面を有していて、われわれの時代における根深い経済的・社会的格差に対する怒りを表明しているものである。
しかし、これらの運動はすべて、過去の敗北と後退の時代から引き継いだ弱点によって阻害されてきた。そうした弱点の中には、革命的左派の崩壊、労働組合の組織率の劇的な低下、社会運動が会員制組織から金に縛られた助成金依存のNGOへと後退したことなどが含まれる。
その結果、労働者と被抑圧民衆は、階級的・社会的・政治的な「抵抗のインフラ」[注:抵抗運動を持続させるための手段や場]を失ったまま闘争に臨むことになった。これが今日の運動の性格に影響を与えている。こうした運動は一見したところ突如として現れ、爆発的に規模を拡大し、資本と国家に挑戦する傾向がある。その要求は、「アラブの春」のスローガン「人民は政権の崩壊を望む」のように概して否定的なものであり、肯定的なオルタナティブを欠いている。あるアナリストの言葉を借りれば、これは革命家のいない革命なのである。
そのため、運動はあらゆる面で脆弱な立場に置かれている。国家や資本は、中東や北アフリカで政権が成功したように、武力で運動を鎮圧することができる。また、フォード財団が「ブラック・ライブズ・マター」の主要指導者に対しておこなったように、運動を取り込むことも可能だ。改良主義政党が、システム危機や格差を克服するのに資本主義国家を利用するため、反乱を選挙への立候補という袋小路に誘導することもありえる。さらに、国家と資本の強硬な姿勢に直面し、勝利をつかむ困難さに意気消沈して運動が消滅してしまう可能性もある。
とはいえ、ますます多くの活動家がこうした経験から教訓を引き出してきた。つまり、システム変革へと向かう途上で、積極的な要求や改革のための闘争を持続させることのできるより本格的な階級組織、社会組織、政治組織を構築することが必要であるという教訓である。
右派と左派への政治的分極化
グローバル資本主義の危機と抵抗運動の波は、右派と左派への政治的分極化を激化させている。資本家階級のさまざまな政権や政党は、手に追えないシステムの問題に対しても、民衆の不満に対しても、何の解決策も提示していない。中国やロシアのような国々では、非民主的な体制が支配を強化するために、権威主義を強める方向へ向かっている。ブルジョア民主主義国家では、怒れる有権者が伝統的な資本家政党を選挙で政権の座から引きずり下ろし、右派と左派に新たなオルタナティブを求めている。
この分極化の最大の受益者は、言うまでもなく右派である。革命的左派は、オルタナティブを提示するにはあまりにも弱体すぎる。改良主義左派は抵抗運動を利用して、さまざまな国で選挙に勝利してきた。しかし、資本主義の危機と資本家階級の強硬姿勢に阻まれ、その選挙戦略は人々の生活を向上させる改革を実現できていない。改良主義左派はせいぜいのところ、人間的な顔をしながら新自由主義資本主義を運営するくらいだったが、もっと悪い場合には、公約を破り、自らの労働者階級の支持基盤を裏切ったのである。その例は枚挙にいとまがない。それは、ギリシャ労働者に対するシリザの裏切りから、ラテンアメリカにおける左傾化(ピンクタイド)の崩壊にまで及んでいる。
権威主義的なナショナリスト政治家たちは、既存政党や改良主義政党への失望から恩恵を受けてきた。右派政党はせいぜいのところ、資本の少数派を代表しているだけであり、主に小ブルジョアの急進化の表れである。右派政党は、労働者階級のうち、分断され、敗北し、士気を失った層に支持基盤を見出した。その結果、世界中で権威主義的ナショナリスト政権が増殖した。それには、ロシアのプーチン、インドのモディ、ハンガリーのオルバン、チリのカスト、アルゼンチンのミレイ、そしてもちろんアメリカのトランプが含まれる
しかし、階級闘争、偏見、そして特に移民をスケープゴートにするという右派政党の「解決策」は、システムの危機を解決することができず、自らの小ブルジョアの支持基盤からより大規模な民衆階級に至るまで、大衆的な不満に応えることに失敗した。そのため、彼らも安定した政権を樹立できず、権力の座から追われることさえあった。たとえば、ハンガリーの有権者は最近、オルバンを政権の座から追放した。権威主義国家は、下からの抵抗だけでなく、他の勢力からの抵抗にも直面してきた。習近平主席は彼の残忍な「ゼロコロナ」政策に対する大規模な民衆反乱に直面したし、ウラジーミル・プーチンはワグネル・グループによるクーデター未遂事件に直面した。
ブルジョア民主主義国家において、新右派が政権危機に直面すると、ブラジルのボルソナロのように、権威主義的な統治に向かう誘惑に駆られる場合もあった。ボルソナロは選挙で敗北した後、権力維持のためにクーデターを企てたが、失敗に終わった。実際には、そうした権力掌握に陥った民主主義国家はまだほとんどない。むしろ、旧来の資本主義政党は、政権に復帰するために改良主義者や右派の失敗を最大限利用したが、それはしばしば権威主義的なナショナリズム政策、特に移民への攻撃といった要素を取り入れることによっておこなわれたのである。
しかし、こうした三者の間での関係は、右派の主張を裏付けるだけであり、彼らを新たに元気づけることになっている。ブルジョア支配が不安定になるにつれ、各国は一斉に権威主義化を進め、同意ではなく強制によって支配を強めている。同時に、各国は国際的にますます攻撃的になっている。とりわけ帝国主義大国はそうなっている。 (つづく)
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
・購読料 1部400円+郵送料
・申込先 新時代社 東京都渋谷区初台1-50-4-103
TEL 03-3372-9401/FAX 03-3372-9402
振替口座 00290─6─64430 青年戦線代と明記してください。


