6.7第25回リニア勉強会
「開発被害と地域社会 止めるのは今」
持続可能な地域社会のため、公正で開かれた環境アセスメントが重要
「リニア市民ネット・大阪」主催
「全線開通は25年後」のリニア新幹線が本当に必要なのか?
6月7日に大阪市立生涯学習センター(大阪駅前)で「リニア市民ネット・大阪」主催の第25回リニア勉強会が開催された。今回のテーマは「開発被害と地域社会 止めるのは今」。
はじめに主催団体を代表して春日直樹さんがリニア中央新幹線と北陸新幹線の京都・大阪延伸の2つの巨大開発プロジェクトをめぐる最近の動きについて、メディアの報道や全国の仲間からの報告を基に、政府・自治体・JRのそれぞれが抱える問題と沿線各地の状況、メディアの報道姿勢を整理し、私たちに何が問われているのかについて提起した。
「①東京品川~名古屋間の建設工事費が14年の認可時の5・5兆円から、25年10月時点で11兆円に増額(JR東海の発表)。名古屋・大阪間の工事費の見積りは3・6兆円。②静岡工区の工事が年内に始まり、他の工区の工事が予定通り進んだとしても東京・名古屋間が完成し、開業できるのは40年ごろ。そのあとすぐに名古屋・大阪間の工事に着工でき、工事が10年で完了したとしても、全線開通は50年代になる。すでに財務状況が悪化しているJRはその間に必要となる資金を調達できるのか? 25年後の日本の人口・産業・交通事情を勘案した収益の見通しは? 地震・災害対策やエネルギー供給は? リニア新幹線は本当に必要なのか? ③誤った政策決定に固執し、問題を先送りするのをやめ、冷静に事業の必要性・採算性を見直し、中止を決断すべき時です」。
北陸新幹線京都・新大阪延伸の迷走、拙速で杜撰な計画の破綻は明白
長野宇規さん(神戸大学大学院農学研究科准教授)が報告
メインの報告は長野宇規(たかのり)さん。神戸大学大学院農学研究科准教授。北陸新幹線延伸計画の通過ルートになる京都府北部の美山町田歌地区に在住。
北陸新幹線は2024年3月に金沢から敦賀の区間が開通し、敦賀・京都間については与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームで「小浜・京都ルート」、京都・大阪間は京都府南部を経由する「南回り案」が決定され、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が環境影響評価法に基づいて2019年に発表した「計画段階環境配慮書」では敦賀駅から小浜市を経由し、京都駅、京田辺市(松井山手)から新大阪駅に至るルートが想定されている。
このプロジェクトは1973年に「全国新幹線鉄道整備法」に基づいて政府が決定した全国5路線の「整備新幹線」の1つで、石川・福井・滋賀・京都・大阪のそれぞれの政財界の思惑とJR各社(東海、西日本など)の確執もあり、「早期に開通」という結論だけが先走りし、環境や地域住民の生活への影響は配慮されないまま、「専門家」による机上の議論とシミュレーションと各地の誘致運動が先行した。
しかし、計画の概要が明らかになるのに伴って、沿線の環境、地域の経済や人々の生活に直結する重大な問題が次々と知られるようになり、京都府議会や各市議会でも取り上げられ、国会や自治体の選挙でも大きな争点となった。
建設ルートが丹波高原国定公園を南北に縦断し、京都市内では巨大なトンネル工事によって地下水の汚染や住宅・道路の陥没、建設残土の有害廃棄物(特に、ヒ素)などの問題が予想される。美山町田歌集落では住民が情報の公開と公正な環境影響評価を求めて行政やJRに公開質問書を提出、集落として環境アセスの受け入れを見合わせることを決定している)。
建設費の見積もりも当初の3・4兆円から5・3兆円に膨張、工期も25年以上。つまり開通は2050年以降。その間のこの地域の人口・産業構造の変化を考えれば、経済効果も収益性も怪しい。しかも民間企業であるJRの事業であるにもかかわらず、整備新幹線なので収益が総費用を下回った場合は国や自治体も一定割合で損失を負担することになる。「国や自治体の負担」と言えば他人事のように思えるか知れないが、京都府民・市民にとっては自分の税負担が増えるということだ。そんなおカネがあれば、ほかのもっと必要な公共サービスに回してほしい。
環境影響評価はもともと、国や自治体が関与する大規模なプロジェクトや事業にあたっては、住民がその環境への影響や地域の経済・生活への影響についての情報にアクセスでき、複数の選択肢(当初案の変更や中止を含む)から決定できることを目的としており、民主主義を広げ、参加型の意思決定と監視を通じて、その結果に対しても責任を果たすという理念を表現していた。ヨーロッパや米国で、そのようなプロセスを経て開発計画が変更あるいは中止になった多くの事例が知られている。
日本では、むしろ工事を円滑に進めるために住民に情報を知らせない、事業者やその意向を受けた専門家が立案し、財界や地元の有力者の協力を得て、形だけの調査を実施して報告書を提出し、パブリックコメントは報告書が公開されてから1~2カ月以内に提出しなければならない。いったん決定して着工してから問題が明らかになっても、止める方法がない。
しかし、不可能なわけではない。整備新幹線をめぐっては北海道・九州でも計画は難航しており、地下トンネルをめぐっては各地で陥没事故が発生している。それぞれの地元住民がつながって、専門的な知識も共有しながら議論の輪を広げていくなら、大きな流れに変わっていく。目先の利益を追うのではなく、10年先、20年先の社会のあり方、それに対応する交通システムや地方行政を一緒に考えていくことが大事だ。
地域からの報告で運動のつながりを実感
講演の後、長野さんは会場およびオンラインでの多岐にわたる質問・意見の1つ1つに丁寧に応答して、講演のテーマに沿って環境と人間社会の関わりや地域において民主主義を拡大していくプロセスについて議論を深めていった(詳細は省略)。
地域からの報告として、大阪府島本町でマンションの建設をめぐる周辺住民の運動などに取り組んできた末岡友行さん(島本町会議員)が、新幹線に巨額の費用をかけるより、災害の対策や地域の公共交通の確保、教育に力を入れるべきで、町議会では1人でも、支持してくれた人たちの声を代表して、しっかりと主張すべきことを主張していると報告。
最近訪問したドイツ・ベルリンでは、住民が廃港となった空港の跡地の民間への払い下げに反対して、市民のための広場として開放させた。そんな運動が広がり、つながっていけば、未来が見えてくるのではないかと語った。
北陸新幹線延伸計画に関連する京田辺や交野市での活動についても報告があり、運動がつながりつつあることが実感できた。参加者は会場が約25人、オンラインが約20人。
(大阪支局・A)

巨額の経費を使いリニア新幹線を作ろうとしているが本当に必要なのかと問いかける講演会
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