投稿 選挙が映し出す 階級政治の欠如(上)

「働く者のための新しい平和憲法」を

西島志朗

「右傾化」はカッコ付き

高市自民党の「歴史的勝利」、その要因は何だったのだろうか。  
 選挙は、国民の政治意識を映し出す歪んだ鏡だが、その結果は、続く一時期の情勢を左右する主たる要因のひとつとなる。自民党単独で衆議院の3分の2の議席を占めたことで、高市政権は議会でのフリーハンドを得た。いよいよ階級的攻撃が本格化する。

 自民党勝利の要因を探る前に、2009年以降の選挙の結果について、与党VS野党という角度ではなく、維新を「関西自民党」(大雑把に)だと考えたうえで、自民党プラス維新の議席が、議員定数に占める割合を調べたのが左の表である。リーマンショック直後の選挙と、「政治とカネ」がひとつの焦点となった24年の選挙を除いて、自民党プラス維新の議席は、ほぼ一貫して「3分の2」程度だった。

 一つの党が単独で「3分の2」を占めるのは史上初めてであるが、しかし、根本的な「地殻変動」が起きたとは言い難いのではないか。
確かに、国民全体は「右傾化」している。「戦後平和主義」は形骸化した。例えば、憲法改正の国民投票が行われれば、現時点では改憲派が勝利するだろう。最大の争点は「自衛隊」を軍隊として憲法に明記するかどうか、というところになるが、ほとんどすべての国家は、当たり前のように軍隊を持っている。国民の多数にとって自衛隊の存在は、災害救助での役割も含めて、すでに既成事実だ。「緊迫する国際情勢」にどう対応するのかということ以前に ― 高市がそう言っているように ― 改憲は「当たり前の国家」であろうとする選択であり、「自衛隊」という軍事組織を、「それは軍隊だ」と正しい名前で呼ぶこと、つまり、現状を追認することに他ならない。それを「右傾化」と単純に認識することは、情勢の核心を見逃すことにつながるだろう。

高市フィーバー

 マスコミの選挙報道は、まさに「高市フィーバー」だった。しかし、比例区の得票率は36%で、2021年の選挙(岸田政権)の34%とさして変わらない。小選挙区では、49%の得票率で議席の86%を得た。今回の選挙では、選挙制度そのものの「効果」が前面に出たのである。
大きな山が動いたわけではない。2012年の選挙で民主党が大敗して以来、維新、希望、国民、れいわ、参政、みらいなどの登場による「多党化」は進行したものの、国民の政治意識に大きな変動はなかった。
自民党は ― 高市の狙い通り ― 参政党に右側から奪われた保守右派の票を取り戻し、さらに「政治とカネ」で失った票を回帰させた。つまり、若者層・現役層の支持を回復した。若い人ほど自民党支持率が高いという国民の政治意識の構造が、今回の選挙では顕在化したのである。時代は回転し、安倍政権の時代に戻ったと言いうる。高市は安倍が果たせなかった「悲願」を実現しようとアクセルを全開にするだろう。

 隠岐さや香さん(東京大学教育学研究科教授)は、昨年の参議院選挙の結果を受けて、次のように述べていた。
 「自民党は『穏健保守』というよりは『極右を飼い慣らし抱え込んだ政党』だったと思う。とりわけ、安倍政権はその特徴を持っており、いわゆる極右と主張の近い宗教右派と連携し、安全保障政策や歴史認識において強い特徴を持っていた・・・私たちは既にある程度は、欧州の極右政党が望む社会状況を生きている。特に移民、女性やLGBTQの状況についてはそうだ。日本に移民として移住するのは欧州等に比べると今でも非常に狭き門であるし、女性が性暴力を訴える手続きは煩雑である。同性婚はなかなか実現しそうにないし、妊娠中絶には父権の同意が必要である。これはキリスト教保守が望む世界であり、ルペンの党の支持者が憧れる状況であり、全て日本では実現している」。 (朝日7月17日)
 全くその通り。高市は自民党内極右派であり、その政治思想は維新や参政党に近い。日本の「戦後民主主義」は、ドイツの「戦う民主主義」とは真逆に、戦争責任に真摯に向き合うことがなかった。アメリカの「核の傘」に依存しながら、ただ経済成長と「平和」を享受してきたこの「曖昧さ」こそが、参政党の「日本人ファースト」への「熱狂」を生み出す国民の政治意識を最下層で支えている。それは、戦後、繰り返し「領土」問題や「外国人」問題として顕在化してきた。本当の意味での「リベラル」が、この国で一度も定着したことはない。「熱狂」は、容易に増幅し、現実的な「排外主義」的政策へつながる。ここに、参政党と同様、高市政権の深刻な危険性がある。

リベラルの失速

 中道連合は、無残な敗北を喫した。「リベラル」の塊を自ら解体した立憲指導部の「失策」はさておき、立憲から離れた票は、共産党にも社民党にも向かわなかった。れいわに流れたとも言い難い。
 朝日新聞の2022年12月の世論調査では、防衛増税に反対が66%だったが、敵基地攻撃能力の保持については賛成56%、特に青年層(18~29歳)の賛成が最も高く65%だった。「力による平和」 ― 国民はここに獲得されているし、それ以外の選択肢は全く非現実的なものと見做されている。あえて中国との対立を煽った高市の作戦は、功を奏している。
 「新しい戦前」なのに、どうして若い世代が、自分たちが血を流すことになる戦争に向かっている自民党に票を入れるのか ― 多くのリベラル派がこのような疑問を感じていると報じられている。しかし、自民党を支持する若者は、戦争を支持しているのではない。彼ら彼女らは平和を求めている。
 高市は、「日本は自衛隊を合憲化し軍隊を持つ『普通の国』になる。危険で尊大な中国から、国土を防衛し平和を守るためには、軍事力を強化し、強く豊かな日本を作らねばならない」と主張している。これに共感する若い世代にとって、日米同盟と軍事力の強化は、戦争抑止、「平和」を求めることと同義なのである。
 ロシアのウクライナ侵略や東アジアでの中国の軍事的抬頭が、いやおうなく「力による平和」意識を決定的に固定化した。北朝鮮がミサイルを発射するたびに振り子は「右」に振れる。もはや「平和」は、「臨戦態勢の常態化」によってしか守られない。それが世界の現実であり、この厳然たる現実から出発するしかないではないか。
 「護憲」が求心力を持った時代はとっくに過ぎ去った。「護憲」は、若い世代にとって「古い理想主義」であり、平和を保証するものではありえない。「護憲」は無力だ。それはリベラルと同義であり、「保守的」で欺瞞的だ。

リベラルの困難な隘路

 憲法9条は、交戦権を放棄し戦力保持を認めない。しかし、戦後革新勢力の護憲運動とアメリカ帝国主義のアジア反革命戦略の狭間で、自衛隊という名の軍隊は保持するが、「専守防衛」の原則を守るという「妥協」が成立した。しかしこの「妥協」は、アメリカが核戦力を含む圧倒的な軍事力をアジアに展開し、中国が「覇権国家」になりえないことを前提に成立していた。今、情勢は根本から変化した。そして、軍事技術がハイテク化し、ミサイルが飛び交う現代の戦争では、「専守防衛」は、論理的必然として、敵基地先制攻撃能力の保持となる。「専守防衛」という概念は自己撞着であり、死語となった。
日本のリベラルが「専守防衛」を口実にして安保と自衛隊を容認したその「論理」は、情勢の進展によって打ち砕かれた。
 中道の新代表はこう語っている。「小川氏は・・・憲法改正についての考えを問われ・・・「憲法改正の必要性があれば、拒むものではない。自衛隊の明記はあり得ることだと思っているが、戦後80年、冷静に議論のテーブルにのりにくかったテーマだ」とも語った」(朝日2月13日)。「テーブルに乗りにくかった」のは、戦後革新の左派である市民運動との関係を切断できなかったからだ。「自衛隊を合憲化するのか否か」が焦点になる時、憲法9条の交戦権放棄・戦力不保持を前提にすれば、論理的帰結は当然「自衛隊廃止」となる。
 今年1月の内閣府の「自衛隊・防衛問題に関する世論調査(速報)」 によれば、「日米安保条約を続け、自衛隊で日本の安全を守るべきである」が90・9%、安保条約をやめ「自衛隊だけで守る」が6・5%、自衛隊の「縮小・廃止」は1・4%だった。
 中道連合は無残に敗北したとはいえ、1000万人がこの不明瞭な野合に投票した。中道支持者の間では、「#ママ戦争止めてくる」が大きなブームにもなった。
 
 しかし、世論調査に明瞭に示されているように、この「ブーム」は決して「自衛隊違憲」ではない。高市政権は、改憲の「発議」を日程に上せるだろう。従来の自民党案は、9条1項・2項を残し、自衛隊を追記する「加憲」であり、維新の案は9条2項削除・国防軍明記である。いずれにせよ、「自衛隊を合憲化するか否か」の土俵で争うことになれば、戦争への「ママ」の危機感は、残念ながら、合憲論にかき消される。
 高市政権がすすめるのは戦争準備だ。いつの時代も戦争は「防衛」から始まった。軍事力増強による「平和の防衛」は、戦争と地続きでつながっている。「ママ」たちの危機感は正しい。
 しかし、その危機感を力に変えるには、自衛隊の存続を認めた上で、「対案」が必要なのである。戦争反対が自衛隊違憲ではないように、自衛隊合憲が戦争支持ではない。争うべき真の争点は、「自衛隊が合憲か違憲か」ではない。「ママ」の危機感は、日米同盟の危険性に根差しているのであり、自衛隊の存在そのものを問題にしているのではない。アメリカ(トランプ)の意のままに、日本が軍事力を拡大し、自衛隊の基地を強化することが問題なのである。  (つづく)

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