デンマーク 左翼には軍事政策の再考が必要
基軸は抑圧に抵抗する民衆への実践的連帯
ブヤルケ・フリボルク
ノルディック諸国の左翼は、欧州における民衆的防衛と安全保障の問題に関するその考え方について、今大きく歩を進めつつある。この熟考は、ウクライナを支持するその一貫した、また途切れのない参加によって育成されている。それは、ウクライナの労組や社会運動さらにロシア帝国主義と戦闘している反ファシスト戦闘員を積極的に支援している。赤緑連合(RGA)メンバーであるブヤルケ・フリボルクは、ウクライナから戻った。彼はわれわれの質問に十分快く答えてくれた。
RGAの歴史と政治路線
――RGA、その歴史、また政治路線についてわれわれに紹介できるだろうか?
RGAは、デンマークのいくつかの急進左翼、特に左翼社会主義者、共産党、トロツキストのSAP(第4インターナショナル)、そして毛派グループの統一戦線として、1989年に創立された。得票率2%という選挙の垣根を超えるための当初の闘いを経て、RGAは1994年に議会に参入し、以来デンマーク左翼の議会内外の重要な勢力になっている。
今日党は、強力なエコ社会主義と国際主義の姿を、労働者階級に関連する全般的問題と深まる社会的不平等についての強調と組み合わせている。また資本家の緊縮、および気候の破局を前に一貫性がなくあまりに遅いエコロジー的移行、を体系的に批判している。
党は、民衆運動や労組活動家と密接につながって活動し、強力な内部民主主義を備えた多元的組織を保っている。2011年以来、われわれは全般的に全国的に5%から7%を獲得し、2021年の前回地方選ではコペンハーゲンで24・6%獲得、この市で最も民衆的な政党になっている。
近年では、EU、NATO、ウクライナ、パレスチナといった問題をめぐっていくつかの論争が起きてきた。ある者たちはわれわれを、「われわれの原則を裏切っている」と責めている。理由は、われわれがEU離脱を唱える代わりにEU議会に今社会主義者の候補者を送っていること、それがNATOを通した移行だとしてもわれわれがウクライナへの武器引き渡しを支持していること、さらに極右テログループとしてハマスを糾弾しつつもパレスチナ解放を擁護していることだ。
しかしながら、われわれは党員多数を代表して、労働者の権利、女性の権利、マイノリティの権利を支持する実践的な首尾一貫した国際的連帯を単に擁護しているのだ。
ウクライナ支援の意味と実践
――RGAはウクライナを支持して、また特にウクライナの左翼を支持して強く関与している。この傾倒の政治的な意味は何か、またこれは具体的にどういう行動になるか?
大規模な侵略のはじめからわれわれは、これは抑圧と帝国主義の侵略に抵抗する民衆との原則的連帯の問題だという立場を維持してきた。ロシアの侵略は明瞭に帝国主義の征服戦争であり、そして実際上軍事支援を含んで、ウクライナの自決権は守られなければならない。これは、われわれがウクライナの政府やオリガルヒや腐敗を支持することを意味するわけではない。
逆にわれわれは、民族の独立のためばかりではなく民主主義、社会的権利、労働者統制のためにも戦闘しているウクライナ左翼、諸労組、市民社会の諸組織と協力している。われわれは、「緑の党オルタナティブ」との協力の中で、また2023年からは「政党と民主主義デンマーク研究所」(DIPD)(注1)を介して、進歩主義組織のソツィアルニー・ルフに対する直接の資金援助を獲得した。かれらはこの支援のおかげで、キーウ、リヴィウ、国の東部のクリヴィー・リーという工業都市(注2)で、社会センターを開設することができている。
これらの活動家たちの奮闘にわれわれは変わらずに感銘を受けている。それは明白に、ウクライナ人は単なる地政学的将棋盤上の将棋の駒まではなく、むしろ解放を求めるかれら自身の闘いにおける主体だと確証している。
――あなたは、欧州に対しロシアの脅威があると考えるか? あなたはそれをどう特性づけるか?
明白だがロシア自身も欧州の、しかも大きな一国だ。しかしながら、あなたがEU諸国とノルウェイのようなその連携諸国、また他のロシアの隣国のことを言っているのならば、プーチン体制が提起する脅威は間違いなくまさに実体的だ。それは必ずしも「パリに入る戦車」といった見地からではなく、確実に民主主義、主権、また国境はむき出しの力で変更されてはならないという原則、に対する脅威としてだ。
われわれは左翼の一組織として、われわれが米国やNATOの帝国主義に反対してきたと全く同じに、ロシア帝国主義に反対する。つまり、もうひとつに反対して1つのブロックを支持することによってではなく、人民の自己決定権を擁護することによって、またロシアとその後見国のベラルーシ内の民主的で進歩的な諸勢力を支援することによってだ。
「民衆的防衛政策」とは何か
――あなたは、みなさんの社会的解放政策と並んで民衆的防衛の政策をどうはっきりと表現するか? そしてこれは、全体としての「左翼」の中でどのように受け取られているか?
われわれの場合、鍵の概念は民衆的防衛という概念――企業の利益、軍需産業、またアフリカや中央アジアや他のどこかへの帝国主義的介入に奉仕する軍事化された国家機構にではなく、市民に基礎を置き、市民社会に根付かされた民主的な防衛――だ。防衛は兵器や軍隊に限定されるのではなく、かれらのコミュニティを組織し防護する民衆の集団的能力に関係している。
左翼のあるものはこれを矛盾と見ている。しかしわれわれは、それは首尾一貫していると断言する。軍国主義に反対することは、民衆が侵略に抵抗する必要の無視を意味してはいない。民衆的防衛に代わるものは、権威主義的権力に戦場を無人のまま残すことになる。
――ロシアの脅威を前に、西側左翼は自身が役立たずだと気づいた。その大部分時代遅れの反軍国主義は、左翼を解決不能な矛盾の中に置いている。一方でそれは、軍産複合体と再軍備を糾弾するが、他方それは、ウクライナへの武器引き渡しを要求している。それはNATOを糾弾するが、ロシアと中国の軍事同盟には沈黙を守っている。そして、後者の異常な軍備増強活動には何も言っていない。これらの防衛に、またそれゆえあなたの国のレベルと欧州レベルの双方の軍事問題にもあなたはどう取り組むか?
左翼は常に、安全保障問題で分断されてきた。しかしロシアの対ウクライナ大規模侵略は明らかに、新たな均衡変更とある種の二分法に対する拒絶をもたらしている。RGAまた全体としてのノルディック左翼のメンバーであるわれわれの場合、ウクライナへの軍事支援とNATOと軍需産業に対する批判との間に矛盾は全くない。われわれは断固としてロシアの侵略を糾弾するが、われわれは同時にドナルド・トランプが設定した恣意的な目標を基礎にした〔西側の〕軍備強化にも反対している。
われわれは同時に、軍需産業の社会化、イスラエルや中国といった国々へのEUの武器輸出の禁止、そして相互的軍備撤廃、協力、人民主権を基礎とした――そして新たな兵器競争には基づかない――世界的な安全保障の構造を訴えている。
NATOとEUへの反対の堅持
――特に防衛問題を扱った先のRGA大会の中で、SAP(第4インターナショナルデンマーク支部)は、「議会主流のそれと抜本的に異なった防衛政策をもっていない」、したがってブルジョア諸政党に自らを合わせているとして連合を批判した。あなたは、この告発に何か言わなければならないことがあるか?
大会は、対ウクライナ兵器供与、およびデンマーク、グリーンランド、フェロー諸島からなる領土の防衛強化を支持する、他方で軍事能力の全般的な強化、国際的な兵器競争、またEUに軍事的権限を与えることを拒否する新たな防衛・安全保障政策を承認した。これは明確に、議会のあらゆる他の政党からわれわれを分けている。
SAPとの関係では、このグループは主にNATOとEUの改革に関するあらゆる幻想に反対してRGAに警告した。これら2組織は自身の利益を追求している帝国主義諸国で構成され、軍事的強化はすべて結局は、モルドヴァやジョージアといった諸国における民主主義の防護、あるいは国際連帯よりも、むしろそれらの利益に役立つだろう。私は、この批判を理解し尊重するが、その一方、SAPは変わらずにウクライナの武装を支持し、ハイブリッド戦争とサイバー攻撃に対するもっと良好な保護と市民の準備への投資に反対していないことははっきりしている、と強調する。
他方、RGAの何人かのメンバーは代わりの声明を提案した。それは、「等しく」代理戦争である戦争で「どちらかを選ぶこと」に対し警告し、事実上ウクライナを見捨てつつ、領土防衛の考えにつながったあらゆるタイプの投資を区別なく拒絶していた。
変革が必要な軍隊内労組の機能
――デンマークの軍隊は普通ではない。そこには、労働者の連合であるLOの一員の、下士官組合がある。デンマーク軍の機能と組織についてあなたの考えは?
ノルディック諸国とオランダは、団交権と被選出代表をもつ兵士と士官の労働組合を抱えている。この労組は労働力市場システムに統合されているが、それらの役割は、被雇用者として従属する者を代表することだ。そしてそれは、RGAが思い描く軍隊に対する民主的な民衆的統制とは異なっている。
歴史的に、デンマーク左翼と主な軍隊労組のHKKF(兵士・伍長労組)間の関係は、協力と緊張の間で交互してきた。1970年代には、徴集兵内部のいわゆる「赤い兵士」運動が軍の階層制、NATOまたオランダの防衛政策に挑戦し、もっとよい条件ともっと民主的な関係を要求した。
職業的兵士を代表するHKKFは、より穏健で忠誠を重んじる立場を採択した。そして左翼の一定のメンバーはそれを、住宅や勤務条件のような実際的な問題では協力が確立されたとはいえ、システムに近すぎると判断した。伝統的労組としてHKKFが焦点を絞っている機能は今日、賃金と勤務条件だ。留意されるべきだが、2018年、ゼネストの瀬戸際にあった18万人の公務員を代表する交渉代表はHKKFの委員長だった。
デンマークの兵士は、制服を着てデモに加わり、特に連帯のスローガンを掲げるアフガニスタンに派遣された要員による投稿を通して、ソーシャルメディアキャンペーンを支持している。
ウクライナの市民と軍の関係
――この観点から、ウクライナへの今回の旅の後、ウクライナ軍に関しわれわれに言えることは何か? その社会的構成(本質的に労働者階級)とその機能の両者の点で、ウクライナ軍は驚くべきものだ。たとえばその内部にLGBTQ部隊があること、あるいは労組に組織された制服着用の労働者がかれらが所属する労組と常時接触していること、をわれわれは知っている。
私はRGA代表団の一部としてウクライナの進歩的な市民社会組織や労組と数回会合をもった。それらすべては、防衛努力と軍の活動を支持する強い関与をはっきり示した。これには、兵士、特定のグループや部隊、さらに退役兵に対する全般的なまた目標を絞った支援が含まれる。左翼の見方から私は、特に注目に値する「連帯共同組織」を知っている。かれらが広大な国際的な草の根ネットワークからの支えに基づいて、前線の反ファシスト、労組活動家、また環境活動家に直接の援助を届けているからだ。
かれらはその人道的努力を超えて、明確に今や国際連帯活動の重要な要素になっている職人的作業のドローン生産にも参加している。これらの市民と軍の相互作用は、デンマークのような国々の情勢とは大きく異なっている。しかしそれらはもちろん、ウクライナの家々や農場や都市にミサイルが雨のように降る中では完全に理解できる。
基本的にこれは、ウクライナの防衛が明確に、職業軍人と召集兵から構成される常備軍にだけ依存しているわけではなく、通常の労働者、労組活動家、学生、LGBTQの人々、またかれらのコミュニティのために戦闘する退役兵から構成された軍という形で民衆の戦争努力に依存している、という事実を反映している。結果として、市民と軍間の相互作用は非常な程度になり、それは医薬品の供給から手製ドローンまでのすべてを提供する活動家のネットワーク、および非営利組織に基づいている。
主流メディアは、数十億ドルに相当する洗練された西側の兵器や資金援助に光を当てる傾向がある。しかしながら、しばしば見逃されたままになっているのは、ウクライナ人の抵抗を日々支えている民衆的な募金キャンペーンや自己組織化された生産ネットワークだ。
同時に兵士たちは今も戦時だとしても不可欠な権利から利益を受けていない。休息、動員解除、あるいはリハビリに関する透明な規則は皆無だ。また公式な労組の組織化は禁じられている。
しかしながら、この溝を埋めようと新しいイニシアチブが登場してきた。ウクライナLGBTQ軍組合、あるいは「不可視大隊」(戦争における女性に焦点を当てている)がこれまでに名声を獲得した。一方進歩的組織のソツィアルニー・ルフはそれ自身の相談電話を作り上げ、兵士や退役兵やその家族に無料の法的助力を提供している。
軍国主義超えるネットワークへ
――スカンジナビアや北欧の他の左翼政党は多少ともみなさんの立場を共有しているのか? あなたはどのように協力するのか、あるいはどのように協力を思い描いているか?
RGAは地域の左翼諸政党――スウェーデンのスウェーデン左翼党(元共産党:訳者)、ノルウェイのレッド・パーティー、フィンランドの左翼連合、さらにアイスランドやバルチック諸国(注4)の諸運動――と緊密に協力している。われわれはいつもあらゆる戦術で一致しているわけではないが、われわれすべては、ウクライナとの連帯が不可欠ということ、またわれわれが新しい時代に向け左翼の安全保障政策を再定義しなければならないということ、を認めている。
われわれの目的は、軍国主義を超えて、ウクライナ支援をもっと幅広い社会主義的、フェミニスト的、また環境保全的な安全保障のビジョンにつなげるような、ノルディックと欧州のネットワークを築き上げることだ。(2025年8月27日、「国境なき欧州連帯」から訳出)
▼ブヤルケ・フリボルクは、RGAのEUキャンペーン書記かつ第4インターナショナルを支持するRGA内の傾向であるSAPメンバー。
(注1)DIPDは国際的に民主的な発展と政党の協力への支援を提供するデンマークの組織。
(注2)クリヴィー・リーは鉄鉱石鉱業と鉄鋼生産で知られた中央ウクライナの主要工業都市。
(注3)グリーンランドとフェロー諸島はデンマーク王国内の自治領。
(注4)エストニア、ラトヴィア、リトアニアは、1991年にソビエトの支配から独立を勝ち取り、2004年にEUとNATOに加わった。(「インターナショナルビューポイント」2025年9月3日)
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