パキスタン 前例のない危険が眼前に

国家の無視と企業主導開発が加速

ファルーク・タリク/カマル・アッバス

 2百万人が影響を受けた。2200の村と数百万エーカーの農地が水浸しになっている。前例のない洪水波が今数百万の命を危険にさらしてシンドに向かっている。
 パキスタン・キッサン・ラビタ委員会(PKRC)は、パンジャブ・カイバル、パクトゥンクワ、ギルギット―バルチスタン(GB)、カシミールおよびシンドにまたがる北部地域における2025年の洪水が引き起こした進行中の破壊に対し、深い懸念と怒りを表明する。かれらが生み出したわけでもない危機に対し最も重い犠牲を今払っているのは、今度も農民、小規模食物生産者、小作人、土地のない労働者、そして地方の女性たちなのだ。

 大量の損失と
 不平等な重荷

 6月後半以来、前例のないモンスーンの豪雨と氷河の崩壊が、命を危険にさらす鉄砲水と地滑りに引き金を引いた。ブネルとスワトでは数分も経たずに村全体が流された。そして、南パンジャブの綿花、米、またマンゴーの作物は水浸しのままだ。さらにGBでは、段々畑と灌漑水路が崩壊した。
 1100人以上の命が奪われ、数百人は依然行方不明、そして数千の家、道路、橋が甚大な被害を受けた。全国の数字は、1万頭以上の家畜の死を確認している。小規模な農民の場合、この災害がかれらの種と蓄え、作物、さらに動物を一掃した――すぐの収穫と将来の植え付け両者を破壊して――。

 気候の不正義
 と政府の無視

 パキスタンは世界の温室効果ガス排出の1%にも責任がない。しかし再び気候崩壊の前線にいる。これらの極端な洪水は、気候によって増幅され、温暖化が進める激しい降雨と氷河湖崩壊の怖れによってエネルギーを加えられている。
 しかし破壊の規模は、「自然」ではない。それは、国家の無視、壊された優先度、また何十年にもわたる新自由主義諸政策の直接の結果だ。早期警報システム、築堤、さらに対洪水耐性のある地方インフラへの投資に代えて、次々に続いた諸政権と軍のエリートは、大運河、企業農業圏、輸出作物、川の両岸上での建て売り住宅建設事業、「グリーン・パキスタン・イニシアチブ」の下での軍主導アグリビジネス計画に、諸財源を振り向けてきた。
 ラヴィ都市開発(RUDA)という、ラヴィ河の両岸上の土地10万エーカーおける大住宅計画は、水面下に沈んだラホールの溺死のおよそ6分の1で重要な部分を占めた。土地は小農から、今も残っている植民地時代の法を利用して力づくで獲得された。
 これらの選択が農民を防護のないまま放置し、他方で公共の富は、企業の事業計画へと送り込まれている。救出と復旧の諸方策は今なお遅れ、上意下達、かつ専断的であり、あらためて地方の貧しい者たちを見捨てている。
 2025年の洪水は自然の偶発ではない。それらは、国家の無視、エリートの貪欲、そして世界の資本家の搾取の結果だ。その度に、責任のある者たちが自らを豊かにしている中で、すべてを失っているのは農民と地方の労働者だ。
 救援だけでは十分でない。求められていることは正義だ。土地と財源の再配分、農民の権利の認知、そして化石燃料を推力として企業が支配する開発モデルとの決定的な決別、がそれだ。
 PKRCはあらゆる進歩的な勢力――政党、労働者グループ、女性運動、また国際的な連携勢力――に、農地、民衆的農地改革、食糧主権、尊厳、そして気候正義に根付いた新たな社会契約を求めて農民と共に立ち上がるよう訴える。(2025年8月31日)

▼ファルーク・タリクは、PKRC書記長でハクーク・カルク党代表。(「インターナショナルビューポイント」2025年9月8日) 

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