ブラジル 重大な歴史的岐路の大統領選

エコ社会主義実現へまずネオファシスト打倒を

ミシェル・レヴィへのインタビュー

10月4日に実施されたブラジル大統領選挙(第一回投票)で、極右を代表するフラビオ・ボルソナロ候補が5610万4503票(47・03%)、三選(通算四期目)を目指す労働党のルラ候補が5387万9538票(45・16%)を獲得し、10月25日に決選投票が実施されることとなった。以下はミシェル・レヴィ(パリ国立科学研究センター名誉主任研究者)が大統領選挙直前の9月末に、『Outras Palavras』(ブラジル語のニュースレター)のチアゴ・ガマのメールでの質問に答えたもので10月5日付。『インターナショナル・ビューポイント』誌に10月8日付で掲載された英語訳より訳出した。

重要な意味もつ「ルラに投票を」

チアゴ・ガマ(以下、「Q」)
 あなたの著書『Fire Alarm』(火災報知器)では、ヴァルター・ベンヤミンがマルクスの比喩を逆転させて述べた「革命は歴史の機関車ではなく、非常ブレーキを引く行為である」に言及していますが、10月25日(第二回投票)での「ルラに投票を」という呼びかけは、ベンヤミン的な意味での非常ブレーキなのでしょうか? それとも、機関車に乗り込んで、速度を落とさせるということなのでしょうか? この非常ブレーキという概念は選挙に適用されても生き残るのでしょうか、それとも、選挙に適用した瞬間に概念そのものが解体してしまうのでしょうか?

ミシェル・レヴィ(以下、「A」)
 ベンヤミンが言う「非常ブレーキ」は革命のことであって、単なる選挙のことではありません。ブラジルの場合、革命とは近代産業資本主義文明の基盤との断絶であり、連帯、社会正義、そして自然への敬意に基づいた、私が「エコ社会主義」と呼ぶ新しい文明へと至る根本的な変革プロセスの始まりとなるものです。
ルラへの投票は革命と比べれば非常にささやかなことですが、今の局面では非常に重要な意味を持ちます。なぜなら、破滅に向かって暴走する列車を減速させようとする人物を列車の運転席に着かせる機会だからです。
私たちは時間を稼ぐ必要があります! 減速はまったなしです。フラビオ・ボルソナロは燃えている炉にどんどん燃料を補給する決意を隠そうともしません。アマゾンの熱帯雨林の保護という観点から見ると、これは森林に住む人々だけでなく全人類にとって決定的な問題です。ルラは被害を最小限に抑えようとしていますが、残念ながら、フォス・ド・アマゾナス海底盆地の石油採掘に関しては推進側にいます。

ブラジルの民衆運動における
解放のキリスト教の役割


Q あなたは、著書『The War of Gods』(神々の戦争:ラテンアメリカの宗教と政治)の中で、ブラジルの政治についての重要な事実を明確にしました。それは労働者党(PT)、労働組合中央組織(CUT)、「土地を持たない農業労働者運動」(MST)が基本的には教会の内部、キリスト教基礎共同体(CEB)の中で誕生したということです。つまり、キリスト教に反抗する形で生まれたのではありません。1980年のルラはCEBとABC(先住民系アメリカ人)居住地域を背景としていました。一方、2026年のルラは福音派の議員団と交渉しています。現在、労働者党内でそのような基盤はどの程度残っているのでしょうか? 4期目の政権はまだその起源とつながっているのでしょうか、そういうことは単に過去のことになってしまったのでしょうか?

A 私が「解放のキリスト教」と呼ぶもののレガシー(伝統)は、教会と結びついていますが、必ずしも教会内部にとどまっているわけではなく、労働者党やルラ政権内にも依然として存在します。しかし、この流れは今では、社会運動、住民、農民、先住民・先住民族、環境保護活動家たちの闘争の中で、はるかに重要な意味を持っています。たとえばMSTの運動を始めたのは地域の聖職者たちでした。MSTは当初から非宗派的な運動として自らを定義していましたが、その政治文化や、この運動の中で行われる「ミスティカ」のような儀式は解放のキリスト教に深く根ざしています。ホームレス労働者運動のような運動には、カトリック教徒も福音派の信者も多く参加しています。基礎共同体は1960―70年代のような影響力はありませんが、周辺地域の民衆運動においては依然として大きな存在感を示しています。労働者党だけでなくPSOL(「社会主義と自由」党)などの左派政党の活動家の中にも多くの解放のキリスト教徒がいます。

エコ社会主義の立場からの批判を控えるべきなのか?


Q あなたはエコ社会主義の創始者の一人であり、01年にはジョエル・コベルと共同で『An Ecosocialist Manifesto』(エコロジー社会主義宣言)を執筆しました。ルラ政権は森林破壊を減らしましたが、一方で石油開発のフロンティアを赤道付近まで進めました。選挙の観点ではなく、エコ社会主義的な観点から、この政権は問題解決に役立つのでしょうか、それとも見かけだけなのでしょうか? 決選投票にあたって、エコ社会主義の観点からの批判的意見を表明できるのでしょうか? それとも、そういう純粋主義が歴史的に右派に有利に働いてきたと考えるのでしょうか?

A ルラの政策は明らかにエコ社会主義ではないし、重大な社会的・エコロジー的限界があります。赤道付近での石油探査はそれだけでも森林にも地元住民にも破滅的な影響を及ぼし、石油の採掘・燃焼が始まった時には人類全体に破滅的な影響を及ぼします。だからエコ社会主義の観点からのルラ政権への批判は第一回投票でも、決選投票でも、選挙後にも継続されます。
 とはいえ、私たちエコ社会主義者は、ルラ政権がボルソナロ派の政権よりもはるかにましだと考えています。ボルソナロ派はエコファシスト的な政策を提唱し、あらゆる社会的・環境的政策に真っ向から反対しています。そのような政権はブラジルだけでなくラテンアメリカ、そして地球にとって大惨事となるでしょう。民主主義、先住民・先住民族の権利、女性の権利、環境、教育、文化、社会のあらゆる面で大幅な後退が予想されます。だから私たちはボルソナロ政権という大惨事を避けるために、限界はあるけれども現実には唯一の選択肢であるルラに投票することを躊躇しません。

2つのロマン主義的「近代批判」


Q あなたはロバート・セイアとの共著『Romanticism Against the Tide of Modernity』(近代の潮流に抗するロマン主義、2001年刊)の中で、ロマン主義は2つの方向に分岐していると述べています。一つは過去を運命として受け入れる懐古的な復興の道、もう一つは過去から火を盗み出して未来を燃え上がらせる革命的な道です。ボルソナロが体現しているのは前者を指向する「反資本主義ロマン主義」のように思えます。失われた秩序、家族、国家、兵舎への郷愁から近代を批判しますが、資本主義には手を触れないという姿勢です。後者を指向する革命的ロマン主義が2026年のブラジルには存在するのでしょうか?

A この本の中でセイアと私が定義しているように、ロマン主義とは資本主義以前の過去の価値観を基礎にした資本主義への反乱であり、その価値観が事実に根差しているか虚構に根差しているかは別の問題です。ボルソナロが体現している考え方はこの定義には適合しません。彼らは資本主義を批判するどころか、その正反対であり、資本主義システムの最も権威主義的で残忍な形態にすぎません。ボルソナリズムが言及する過去とは軍事独裁政権下のブラジルであり、歴史家のジェフリー・ハーフが「反動的近代主義」と呼んだものです。それは資本主義とは産業、現代のテクノロジー(今日では人工知能)のことだと主張し、そこからフランス革命の遺産、すなわち自由、平等、友愛だけを取り除こうとするものです。
 ブラジルで革命的ロマン主義を体現しているのはブラジル先住民の生活様式から学ぶことが多いと考える共産主義者、環境保護活動家者、エコ社会主義者、先住民の権利を擁護する活動家たちです。もちろん私たちは森での生活に戻ることはできませんが、私たちは先住民たちが私たちの商品社会に対して提起している批判に関心を向け、彼らが環境、木、動物、川との調和・共生を維持しようとしていることを尊重しながら議論を進めるべきです。
 ルラ政権が4期目に入るとすれば、与党としての左派は、私が「進歩的近代主義」と呼ぶようなものになるでしょう。それは資本主義体制そのものには挑戦せず、進歩的な社会改革を追求しています。それは一種の社会自由主義であり、新自由主義モデルからの転換ではなく、寡頭支配層の特権に挑戦しないという制約の内で、貧困層や社会から疎外された人たちのために最大限の努力を尽くそうとしています。この政策の限界は明らかですが、何百万人ものブラジル人を貧困から救い出し、法定労働時間の短縮や最貧困層への所得税免除などの重要な改革を実現したことは否定できません。

反動的な議会とルラの限界


Q あなたはマリアテギの著作を編集し、ラテンアメリカの社会主義は模倣でもコピーでもなく、英雄的な創造でなければならないという彼の主張を擁護してきました。現在のルラ政権において、創造とは何であり、模倣とは何でしょうか?

A 1979年にABC労働組合のリーダーだったルラ・ダ・シルバが先頭に立って労働者党を設立した時、それはまさに英雄的で創造的でした。この党は設立当初から、大規模な労働者ストライキの中で軍事政権に真正面から立ち向かいました。それは模倣でもコピーでもなく創造的でした。そこには労働者階級、基礎共同体、左派知識人、それにマリオ・ペドロサやアポロニオ・デ・カルヴァーリョをはじめとする階級闘争の古参活動家、マルクス主義、トロツキスト、毛沢東主義のグループが結集しました。これらすべての要素を草の根のさまざまな委員会を基礎とした民主的な組織に統合することに成功した政党でした。そして、ベルリンの壁崩壊後の1990年には、社会主義的で民主的、かつ明確に反資本主義的な綱領を採用したのです。
 2026年のルラ政権の労働者党は、初期の労働者党とは全く異なります。それは単にラテンアメリカの「進歩主義政権」の1つを率いているだけであり、いくつかの重要な改革を実施することには成功しましたが、反乱的で反体制的なダイナミズムを失ってしまいました。ルラ自身については、その限界は一層明白です。その一因として、議会が腐敗した反動的な右派によって支配されていることがあります。

ボルソナロの伝記映画は
「政治の神話化」プロパガンダ

Q 議会を支配する右派についてですが、有罪判決を受け投獄されたジャイル・ボルソナロ元大統領の伝記映画『ダークホース』が6月に米国ラスベガスでプレミア上映されました。この映画は破産した銀行、バンコ・マスターに関連する資金で制作されました。主役はメル・ギブソンの『キリスト』でキリストを演じた俳優ジム・カヴィーゼルです。あなたは宗教と解放の間の選択的な親和性について述べていますが、クーデターを企てた指導者に貼り付けられたキリストの顔をどのように見ますか?

A ベンヤミンによると、ファシズムは「偽りのメシア思想」であり、その指導者たちは「反キリスト」の姿、「解放のメシア思想の惨めな戯画」に過ぎないと特徴づけています。宗教の歴史にも政治の歴史にも、救世主を装いながら支配エリートに仕える暴君に過ぎない「偽りの救世主」がいっぱいいます。ジャイルもその一人であり、支持者たちは彼を救世主あるいは神話上の人物として崇拝していますが、彼はブラジルの寡頭政治によって操られた「ダークホース」(穴馬)です。これはベンヤミンが言及した「政治の美学化」よりもさらに悪質であり、「政治の神話化」あるいは「神秘化」です。
 ジャイルの親友であり盟友であるドナルド・トランプも同様に「偽りの救世主」であり、人工知能によって作られたイメージの中で「キリストの再来」として描かれる厚かましさを持っています。古代ローマでもドミティアヌス帝などの皇帝が、自分は主であり、神であるとして崇拝を強制していました。特に目新しいことではありません。

「クーデター首謀者への恩赦」
なるボルソナロの公約の意味


Q 大統領候補のフラビオ・ボルソナロは過去にクーデター未遂で有罪判決を受けた人物の釈放を訴え、議会はクーデター首謀者への恩赦を議論しています。ブラジルの宗教界の重要な一部がこの恩赦請求を支持しています。ベンヤミンは「敵が勝利すれば死者さえも安全ではない」と述べていますが、あなたはクーデター首謀者への恩赦を公約とする選挙についてどう考えますか?

A 22年のクーデター首謀者への恩赦はブラジルの民主主義への直接的な攻撃であり、将来の軍事クーデター未遂へのゴーサインとなるでしょう。ジャイル・ボルソナロへの恩赦も同様で、しかも事態をさらに悪化させる要因があります。彼は軍事独裁政権、特に拷問者ウストラ大佐への賞賛を絶えず表明してきました。彼の恩赦は軍事独裁政権のすべての犠牲者、つまり拷問を受けた数千人、殺害された数百人の記憶に対する侮辱となるでしょう。その中には私の友人のジャーナリストで、ウストラ大佐の命令で拷問を受け殺害されたルイス・エドゥアルド・メルリーノ(殺害当時23歳)も含まれます。ベンヤミンが言ったように、ファシズムが勝利すれば、死者さえも安全は保証されません。

極右の台頭は「例外状態」か
「過去の継続」なのか


Q ベンヤミンの「歴史哲学テーゼ」の8番目のテーゼは「被抑圧者の伝統は、私たちが生きている例外状態こそが常態であると教えてくれる」と述べています。私たちが経験してきたパンデミック[ブラジルでは数十万人が死亡]、23年1月8日の事件[ボルソナロ支持者数千人による国会議事堂・最高裁判所への襲撃]、そしてクーデター計画から考えれば、もしジャイル・ボルソナロが10月25日に勝利した場合、それは例外状態からの断絶なのでしょうか、それとも常態の継続でしょうか? ブラジル特有の事情があるのでしょうか? それとも90年代から継続している波の新しい一章に過ぎないのでしょうか?

A 階級闘争の歴史において、支配は通常はエリートによる支配であり、例外は被抑圧者による革命です。スパルタクスの奴隷反乱、トーマス・ミュンツァーの農奴反乱、パリ・コミューンや十月革命におけるプロレタリアートの反乱などです。しかし、通常の支配の中にもいろいろな違いがあります。ファシズムは寡頭制の権力の最も暴力的で野蛮かつ破壊的な形態です。それは例外ではなく、支配の最も残忍で非人道的な形態なのです。だからジャイルの時代の政府の悪夢が、息子フラビオとともに戻ってこないように、あらゆる手を尽くさなければなりません。いつの日か、エコ社会主義革命によって、ヴァルター・ベンヤミンが真の例外状態、すなわち被抑圧者と搾取者の解放と呼んだ状態を実現できるためにです。
 ネオファシストの波はブラジル特有の現象ではなく、地球規模の現象です。それはすでにトランプ大統領が率いる世界最大の帝国主義大国や、モディ首相が率いる世界最大の人口を持つインド、そしてラテンアメリカのいくつかの国を支配し、ヨーロッパのいくつかの国を脅かしています。ブラジルが10月の選挙でこの破滅的な波を食い止めることができれば、それは全世界にとって希望の光となるでしょう。そうでなければメキシコとカナダを除くアメリカ大陸全体がネオファシストの支配下に置かれることになります。
 私はトランプ、ボルソナロ、ミレイはネオファシズムを体現していると考えています。それは1930年代のナチス・ファシズムの繰り返しではありません。全体主義国家も、強制収容所も、制服を着た突撃部隊も、国家と企業を一体化するような経済政策もありません。最も大きな違いは経済政策です。なぜならネオファシズムは常軌を逸した新自由主義だからです。しかし人種差別、外国人嫌悪、共産主義やあらゆる形態の左派への憎悪、指導者崇拝、そして権威主義といった点では古典的なファシズムと共通しています。

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