インド・パキスタン戦争に対する批判的見解
前線からの報告
カシミールの非武装化を
2025年5月9日
ファルーク・タリーク
インド占領下のバハルガム渓谷で起きた観光客殺害事件を契機として、インド・パキスタン両国間の緊張が高まり、双方が国境を超えて攻撃を応酬する事態となっており、市民にも犠牲者が出ている。核保有国同士の戦争がエスカレートすれば、核施設への攻撃、核兵器の使用といった破滅的な状況もありえないことではない。こうした危険な状況に対して、第四インターナショナルと関係を持つインドとパキスタンの左翼組織や指導的メンバーが相次いで声明を出して、軍事行動の停止を訴えている。ここでは、ラディカル・ソーシャリスト(第四インターナショナル・インド支部)、ジャムカシミール・アワミ労働者党、パキスタンの第四インターナショナル指導者であるファルーク・タリークの声明を掲載する、この記事の出典は、いずれも「ヨーロッパ国境なき連帯」のサイトである。(編集部)
5月7日の朝、玄関のチャイムが鳴ったので、誰が鳴らしたのか探しに外に出ると、隣人が大声で電気を全部消すようにと言った。この命令は、私たちが戦争の瞬間に生きていることを教えてくれた。
私たちはワガ国境(ワガはインドとパキスタンの唯一の陸路国境である)の近くに住んでいるが、午前8時半ごろ、耳をつんざくような音と、それに続く爆音を聞いた。インド軍のイスラエル製「ハロップ」ドローンが、すぐそばの軍事施設を攻撃したのだ。その後、4人の兵士が負傷したと聞いた。
50ポンドの弾頭で武装した「ハロップ」は、カメラシステムを使って、移動する標的を追跡し、攻撃する。このドローンは、トラックから発射された後、約6時間、約600マイルを飛行することができる。
私たちの家の近くの標的を除けば、「ハロップ」ドローンの多くは、標的に命中する前にパキスタン軍によって撃墜された。しかし、ほとんどの場合、民間人の上に落ちた。好奇心から、何百人もの人々が、これらのドローンがどこに落とされたかを見るために集まった。人々は心配しているようだが、パニックにはなっていない。
多くの友人や同志から、核武装した隣国同士の間で本格的な戦争が勃発すると思うか、と聞かれた。私は、戦争はすでに勃発していると答えた。
パキスタン内は
戦争反対が多数
モディ政府はパキスタン国内の9カ所を攻撃する「シンドール作戦」(訳注1)を開始した。その標的は、宗教テロリストの拠点であるとモディが考えるイスラム神学校やモスクだった。
パキスタン軍が発表した数字によると、125機以上のインド軍ジェット機による1時間の攻撃で死亡した31人のほとんどは、子どもや女性を含む民間人だった。インド占領下のカシミール地方で宗教原理主義者が攻撃をおこなった直後にマドラサ(宗教学校)が避難していなければ、もっと多くの死傷者が出ていただろう。2025年4月22日には、パハルガム地区で26人(主に観光客)が殺されたのだ。
そのとき、私の兄弟姉妹はラホールの自宅から引っ越すよう私に勧めた。パキスタンのほとんどの都市には軍事施設や駐屯地があるからだ。実際には、1965年と1971年のパキスタンとインド間の戦争とは異なり、都市からの大量脱出は起きていない。
インドのミサイルがパキスタンの9都市を攻撃したのは初めてのことだ。これはパキスタンの主権の侵害であり、右派から左派まで国内のほとんどすべての政治団体が非難している。しかし、右派宗教政党とは異なり、左派グループのほとんどは戦争の即時停止を求めている。インドの左派に比べればはるかに小規模だが、パキスタンの左派はその点では一致していた。
モディのBJP政権から独立することを放棄した主要ないくつかのインド共産党とは異なり(訳注2)、パキスタンには戦争挑発はない。5月8日のギャラップ・パキスタンによる調査によれば、パキスタン人の大多数はインドとの戦争に賛成しておらず、どんな状況下でも平和を目指すべきだと考えている。しかし、戦争がエスカレートすれば、それも変わるかもしれない。
核兵器の保有は
抑止力にならず
核兵器を持っているにもかかわらず、インドとパキスタンが全面戦争に突入したのは、1999年のカルギル戦争(訳注3)以来2度目である。インドは1974年5月に最初の核実験をおこない、1998年5月にも5回の核実験をおこなって、核兵器国であることを宣言した。パキスタンは1998年5月28日に核実験をおこない、正式に核保有国となった。現実には、核兵器は戦争の抑止力にはならないということだ。
パキスタンは推定170発の核弾頭を保有しており、これはインドのそれとほぼ同じである。このような紛れもなく高い利害関係がある中で、インドが3度目(2016年、2019年、そして今回の2025年)のパキスタン国内への攻撃を決定したことは、核爆弾を保有しているという誇りが、両国間の戦争に対する抑止力にはならないことを明らかにしている。
核兵器は、これまでに作られた兵器の中で最も非人道的で無差別な兵器である。核兵器は、国際法に違反し、深刻な環境破壊を引き起こし、国家と世界の安全保障を損ない、膨大な公的資源を人類のニーズから遠ざけてしまう。核兵器は戦争兵器ではなく、完全破壊兵器である。大都市上空で核爆弾が1発爆発すれば、数百万人を殺戮することができよう。
両国ともに代理戦争の責任を負っているが、モディ政権はカシミールでの失敗から目をそらし、国内の人気を高め、インダス川水系と地域の覇権に関する戦略的目標を推進するために、パハルガムの悲劇を利用したのは明らかである。
テロ支援の断定
には疑問が多数
パキスタンは、パハルガムでひどい犠牲者を出したテロリスト集団を支援していると非難されている。しかし、現在の現実はそれとは異なる。
1978年のアフガニスタンの四月革命(訳注4)以降、パキスタン政府が数十年にわたり、こうした宗教原理主義グループを支援し、盛り立ててきたことに疑いの余地はないが、それはアメリカ帝国主義の願望と思いつきとともにあった。イムラン・カーン政権が不信任決議案の可決によって失職した2022年以降、軍上層部とこれらのグループとの関係は険悪なものとなっている。アフガニスタンでタリバンが復権して以来、宗教原理主義者によるパキスタン国家機関への攻撃がエスカレートしている。
アフガニスタンのタリバン政府は、パキスタン・タリバンの政権奪取を支援している。
これには爆弾の爆発、自殺攻撃、地域の占拠、人々への支持の強要などが含まれる。パキスタン・タリバンはアフガニスタン・タリバンによって強化され、アメリカがアフガニスタンを去ったときに残されたNATOの武器が彼らに与えられた。
2024年、パキスタンは過去10年で最も暴力的な年を経験した。宗教原理主義者がカイバル・パクトゥンクワ州[注:パキスタン北西部にあり、かつては北西辺境州と呼ばれた]のいくつかの地域を掌握した。ほぼ毎日、パキスタン軍に対するパキスタン・タリバン運動(TTP)の攻撃がおこなわれ、死傷者が出た。
[パキスタン国家とタリバンは]互いに協力するどころか、今や公然と敵対している。パキスタン国家はもはや、アフガニスタン・タリバンに依存しているこれらの宗教原理主義グループを支援していない。
もちろん、インド占領下のカシミールでは宗教原理主義グループがいまだに活動しており、大規模な現地支援がどの程度あるのかという疑問はまだ根強いかもしれない。しかし、現在のパキスタン政府が2025年4月のテロと関係があったとは考えにくい。
パハルガムのテロ攻撃は、独立した宗教原理主義グループの仕業と思われる。
過剰反応やめ
即時に停戦を
危険なのは、戦争が長引くことだ。両政府は勝利を主張している。しかし、もし戦争が続くとすれば、地上軍が戦った1965年や1971年のようにはならないだろう。その代わり、インドはイスラエルがガザで使っているのと同じ戦術を使っている。地上軍を投入するのは、おそらくミサイルや無人機による攻撃によってインフラを破壊できた後だけだろう。パキスタンはパレスチナではない。パキスタンは大規模で、よく訓練され、装備された軍隊を持っている。しかし、インドのような近代的な武器はない。
情勢が非常に流動的で不安定なのは明らかだ。つまり、何が起こるかわからないということだ。わかっているのは、戦争は破壊をもたらし、勝者はいないということだ。戦争を続ければ、より多くの人命が失われるだけである。しかし、インドとパキスタンの主要メディアの報道を聞けば、それぞれが勝利を主張している。
しかし、持続可能な平和を実現するには、主権を尊重し、代理戦争を終わらせ、カシミールを非武装化する必要がある。核保有国同士の戦争は、地域的にも世界的にも壊滅的な打撃を与えるだろう。
南アジア全域の進歩的勢力は、戦争を煽る過剰反応に反対し、平和な未来に向けて団結しなければならない。
私たちは、事実と説明責任を確立するために、パハルガム攻撃に関する独立した調査を要求する。
(ファルーク・タリークは、パキスタンにおける第四インターナショナルの指導的活動家で、「人民の権利党」の中で活動している)
(訳注1)シンドールとは、ヒンドゥー教徒の既婚女性が髪の分け目につける赤色の粉のこと。テロ事件で犠牲となった男性の妻たちが悲しみにくれる姿が大きく報道されていた。
(訳注2)インド共産党とインド共産党(マルクス主義)は、インド軍によるパキスタン領内への攻撃を「テロリスト拠点への限定的な攻撃」であるとして支持する声明を出した。その中で、両党は戦争エスカレートの抑制に言及しつつも、パキスタンへのさらなる圧力をインド政府に求め、挙国一致でこの事態に臨むとしている。
(訳注3)カルギル戦争は、1999年5月から7月にかけて、標高5千メートルを超えるジャム・カシミールのカルギル地区やその周辺においておこなわれたインドとパキスタンの戦闘。
(訳注4)四月革命は、アフガニスタン人民主党が当時のダーウード大統領に対しておこなったクーデターのこと。
The KAKEHASHI
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