カナダ トランプの貿易戦争と労働者

労働者に社会的方向決定の力を

この危機はオルタナティブ建設への通路提供

ソーシャリスト・プロジェクト

関税使った恫喝で譲歩求める

 3月4日に有効となった、ドナルド・トランプ米政権がカナダとメキシコからの輸入品に課した25%の関税(カナダの石油とガスおよび炭酸カリウムへの10%関税を例外に)は、カナダの勤労民衆の生計に対する残忍な攻撃であり、カナダ内の鍵になる産業の生き残りにも一定の脅威になる。トランプは自動車の関税を4月2日に計画しつつ、、自動車、および米国―メキシコ―カナダ三国間貿易協定(USMCA)で扱われた部門(両者で米国に対するカナダの輸出のおよそ40%)内の他の関税を延期したが、その他は継続すると脅している。アルミニウムと鉄鋼に関する関税(25%を超える水準)は、カナダの自動車工業を「閉鎖する」とも脅しているトランプを基に、さらに進んで50%ほどになるとと脅された。
 トランプは、カナダの労働者の警戒を解かせつつ、カナダ政府を急いで行ったり来たりさせ、がんばり通そうと努めながら、関税水準を引き上げたりその範囲を広げたり、行きつ戻りつしてきた。カナダの連邦政府は同日、米国からの輸入品への3百億ドルの対抗関税で応じ、また即座に、米国・カナダ国境をさらに監視する国境計画を実行した。後者は、特にほとんど存在しない(特に、米国からカナダへの銃器と麻薬の密輸と比べた場合)カナダからのフェンタニル取引、および米国への国境を越える同様に少量の「不法」移民を限定するためだ。
 トランプ政権は、カナダ国家からの他の譲歩を引き出すために関税を酷にテコに使っている。その譲歩とは、カナダ内レアアースの入手、「要塞化された北米」のさらなる障壁化における北極圏と沿岸海域の軍事化、カナダの軍事支出増額、また国境を越えた流路転換という長年の構想の再開、といったことだ。

何万という労働者への残忍な攻撃


 関税は、自動車、鉄鋼、アルミニウムといった部門の労働者数万人、またカナダ内の自然資源に対する突然で残忍な攻撃だ。この関税は特に、経済の最も進んだ部門のいくつかで熟練労働者に打撃を与えるが、経済的後退で最も不安定になり、かつ傷つきやすい労働者階級の諸層にもすぐさま打撃になるだろう。
 いくつかの見積もりは、トランプの「近隣窮乏化的」関税政策が労働者数百万人とかれらのコミュニティに負の影響を与えかねない、と示唆している。オンタリオ州の自動車と鉄鋼労働者、ケベック州のアルミニウム労働者、また農業における輸出市場の喪失、さらに西部と大西洋側における資源輸出の喪失で、鍵となる製造業部門が脅されているからだ。
 米国発の関税戦争の脅威と影響は直接的だ。それは容易に、経済的混乱の諸結果に苦しむ国境両側の労働者を伴って、報復の懲罰合戦(支配的大国側に圧倒的に政治的強みがある)へとエスカレートしかねない。試練はカナダとカナダの労働者にとってより深刻かつより大きい。
 カナダは、カナダ資本主義とその国家がこれまで進んできた道筋に根付かされているのだ。その道は、1989年に始まる一連の自由貿易諸協定(FTAs)を通した米国との深い統合の戦略的受け容れ(あるいはそれがかつて名付けられたような「信義の飛躍」)に基づくものだ。そしてそれらの協定は、米国市場への「アクセス保障」と経済成長、さらに米国の保護主義に対する恐れから解放された繁栄を約束した。しかし北米自由貿易協定(1994年にメキシコへと拡大されたFTAs)は、先のものを全く届けなかった。
 FTAsは、労働者の諸権利に対する他の新自由主義攻撃と組にされたのだ。つまり、私有化、教育や医療ケアや住宅を含む公的供給や諸制度の規制外し、利潤と事業の競争力を促進する国家への変更、そして労働者階級のかれらの雇用主に対する依存性の強化、だ。
 カナダの資本家(僅かの反対派を除いて統一された)は、労組と社会運動活動家に率いられた幅広い連合からの大量の公的叫びをものともせず、自由貿易を駆り立て売り込んだ。1988年の連邦選挙では、有権者の過半は米国との自由貿易という理念に反対の票を投じたが、カナダの単純小選挙区制の構造がブライアン・マルルーニーが率いる進歩保守党に過半数を与えた。そして彼は最初の米・カナダFTAを交渉した。
 自由貿易は、われわれがその下で40年間生き続けてきた政治体制に統合されている。つまり、輸出依存、緊縮、核心的な社会計画の削減、労組と労働者への攻撃、それが望むあらゆるところに動く投資家と資本の権利、市場を介した環境の規制、そして米帝国の指導性下にカナダの世界市場統合を深めるために資本市場を自由化する他の諸方策だ。
 他の資本主義の中心もまた米帝国の母体に織りこまれているが、カナダは、特にカナダの資本がそこで先住民族搾取の歴史の上に築かれた採掘部門で、またカナダの銀行の国際活動として、それ自身の帝国主義的設定課題に取りかかっている資本主義国家だ。カナダの国家と資本の統合に関し独特なことは、米国への統合と依存のレベルだ。カナダは、米国の資本市場、サプライチェーン、経済政策、さらに規制の枠組みにもっと深く統合され、軍事と外交の政策で、米帝国の最も忠実な同盟国になっている。

労働者の権利に民主的主権必須


 カナダの勤労民衆――英語圏カナダ、ケベック、先住民族の――の、緊縮に異議を突き付け、社会的公正と環境に責任をもつ社会を求める闘いは、政治的、経済的決定を行う力を必要とする。それは今、米帝国へのカナダ資本の従属と統合で限定されている。トランプの気まぐれに対するカナダ労働者の傷つきやすさは、これを実にはっきり見せつけている。
 しかしそれは、独立した民族資本家階級の創出に導くような発展「段階」の問題ではない。われわれは、その間ずっと労働者階級のアイデンティティ、理解、また組織し闘うための力量を高めつつ、代わりとなる発展と民主的な決定を行うに必要な、国際的かつ政治的な自律を築くという意味で、米国から離れるために闘わなければならない。
 カナダ資本家階級のさまざまな構成部分は、この従属と統合と決裂する気など一切なく、新自由主義に異議を出すことへの関心はさらにない。逆に国のほとんどの事業家階級は、米国との統合に対しトランプが建てた障壁を壊すために、「現状維持」の何らかの形態を熱望している。これは、米国の保護主義とカナダへの政治的かつ軍事的な要求のない米市場へのアクセス保障として、「信義の飛躍」への倍化された依存だ。
 政治的、経済的エリートの他の部分は、カナダの競争力を名目に、労働者階級の所得と社会的保護へのもっと深い攻撃の採用に向け部分的に可能性をもつ、もっと幅広い国のグループへの貿易と輸出の依存に移行することを提案してきた。
 カナダの一定の進歩的活動家たちは、民族主義への懸念を出発点にし、米帝国との統合への異議突き付けは不可避的に、事業利益との連携やそこへの助力になるだろう、と恐れている。しかし、カナダ経済とその政治システムに関する決定策定への核心的障害に民主的に異議を突き付け、それを取り除く運動の建設を、資本との連携と呼ぶことはほとんどできない。実際、米国とのカナダの統合に直接異議を突き付けるあらゆる運動は、公式のカナダ人所有であれ、外国の支配の下であれ、資本のあらゆる部分にとっては呪いの的になっている。
 また、国家を改良する(そして最終的に変革する)ための、われわれの統合と依存を限定するための闘争を、ともかくも、国家の改良をも必要とする核心的な労働者階級の要求のために闘うわれわれの能力を制限する、と見ることには問題がある。これらは対立しているというよりもむしろ、両者の戦線で取り組まれるべき闘いだ。
 カナダの政治的方向に関する決定を形作るカナダ労働者と民衆的運動の権利を要求することは、事業へのわれわれの依存に対する是認ではない。それは、市場への依存を小さくするために社会的供給の拡大と脱商品化のために改良を勝ち取ることと同じく、職場とコミュニティで資本に対する統制と経済的民主主義を求めることとして、入口になる反資本主義的要求だ。

異なるビジョンと新たな可能性


 われわれには、発展、民主主義、また労働者階級の役割に向けた、米国とカナダ双方の資本家あるいは政治的エリートとは異なったビジョンがある。カナダ内でそうした設定課題を遂行するためには、米国との現在の関係は、トランプ政権の権威主義的いじめをはるかに超える障壁だ。その障壁に打ち勝つことは、貿易、開発、さらに環境の優先度の最も広範な再編、労働者階級の必要に取り組むこと、さらにケベックと先住民族の見方と大望を合体すること、を必要とするだろう。
 これは、民主的な計画作成、共同能力、それを可能にする構造的な変化、われわれがそのために今闘っている価値と目標をめぐるカナダの経済的・政治的エリートとの社会的闘争、を必要とするだろう。社会を変革するための闘争と労働者階級の役割はまた、集団的な決定を行うわれわれの集団的な能力を発展させるために闘うことでもある。
 われわれは、以下の方策を求める。
◦カナダは、トランプ発の関税のゆすりすべてに対し質で対応し、「近隣窮乏化的」貿易戦争はカナダ、米国、メキシコの労働者とかれらのコミュニティに巨大な犠牲をもたらすことを自覚し、米国が始めたそのような戦争を止めなければならない。
◦関税と彼らの生計と部門への脅威に抵抗する労働者への支援と同様、関税戦争に脅かされ負の影響を受けるコミュニティと労働者を保護するために、投資が不可欠だ。失業保険と他の所得保障計画が、もっとも脆弱な労働者を守るために即刻拡張される必要がある。
◦脅かされている工業の労働者は決定的な熟練をもち、諸コミュニティはそれらを失いかねない。職場と工場は、鍵を握る資源であり、労働者とコミュニティによって整えられ、公的な所有に置かれ、環境に責任をもつ需要向けに生産しつつ、公開の下で保持される必要がある。
◦北極圏にまで拡大された米軍の注力からの離反は不可欠であり、NATOへのあらゆる軍事支出増額の約束の撤回も同様だ。
◦カナダは、輸出、特に天然資源輸出への依存から離れ、環境に責任をもつ生産の要件と両立できる内需志向経済へと向かわなければならない。天然資源開発は、気候変動の縮小に取り組み、またカナダの先住民の権利と必要を尊重し、それを前進させなければならない。
◦カナダ経済再建の努力は、公的所有を基礎に置く戦略の中に据えられ、人間の必要、社会的発展、質の高い雇用、さらに温室効果ガス削減に優先度を置く必要がある。
◦カナダは、労働者と労組の権利、住宅、教育、医療ケア、さらに今われわれの下にあるものとは異なる民主主義と経済を形作る民主的な力を必要とする、そうした労働者階級を基礎にする経済に向け、主唱し、闘い、組織化しなければならない。
◦カナダは、メキシコやラテンアメリカとカリブ海の他の諸国との不平等で新植民地主義的関係を拒絶し、気候変動と開発に取り組む上でかれらに援助するカナダの責任を認めて、グローバルサウスとの貿易と経済の共益的関係を発展させなければならない。

 われわれは社会主義者として、労働者階級によって組織され管理される民主的な社会の中で政治的かつ経済的な決定を行う力をもつような、資本主義社会へのオルタナティブ建設をめざす。現在の危機は、これらの問題を提起するための通路を提供している。(2025年3月14日)  

The KAKEHASHI

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