ブラジル 政治情勢に大きな変化

極右と対決し反帝闘争に力戻る
反帝国主義の感情を再生させる好機が出現
イスラエル・ドゥトラ

様変わり深める政治の光景

 ちょっと前、ボルソナロの家宅捜査を認める許可書、足首への電子監視装置装着の強要、ソーシャルメディア接続の禁止、さらにトランプとの陰謀との申立に対応する他の予防的諸方策によって、ボルソナロの法的状況が悪化することになった。
 ブラジルの政治的光景は、この2週間で相当な移行を進行させてきた。そして全国的な政治的力学に質的な変化を刻み付けている。右翼野党の立場をとる議会多数派が引き金を引いた危機として始まったことが、トランプの報復的な関税戦争がブラジルの主権を攻撃するに応じて、ルラが民衆政策に基づいて強力に対応することを求めて、トランプ事件により鋭く拡大した。
 われわれの議員団は、この変化中の情勢に素早く対応した。われわれは7月10日に街頭に繰り出し、議会およびブラジル人民の敵、すなわち極右、トランプ、また国内のクーデター策動者、に反対して、この設定課題に直結するあらゆる再結集における共同行動とデモに参加した。
 現在ゴイアニアで開催中の第60回UNE(ブラジル全国学生連合)大会では、若者グループのフントスがこの戦闘を継続中であり、パレスチナとの連帯、エコソーシャリズム、さらに財政枠組みによって推進されている大学予算カットを終わりにする課題を前に進めている。
 われわれの確固とした関与の先でわれわれは、先のような新たな展開に照らして、ブラジルのこの大きな政治的変化から発生する新しい協力と任務について討論したい。そしてその大変化はしかしながら、トランプと彼の指令への抵抗が成長中にある国際情勢の反映だ。

トランプVSブラジル人民


 7月9日、トランプはルラに手紙を送り、ブラジル産品への関税を50%に引き上げると通知した。彼はこれを、彼がボルソナロの迫害と呼んだものへの報復として編み出した。さらにブラジルの最高裁に対する脅迫までも発した。
 これは、リオデジャネイロでBRICSサミットが開催された僅か数日後に出現し、米国がブラジルとの間で貿易赤字を抱えているという偽りの主張で正当化された。一国の主権に対するこの攻撃は、そしてそれはブラジルの諸機関を標的にする以上に産業の中核的部門を崩壊させる怖れがあるものだが、即刻の反響を生み出した。
 第1にそれは、FTAA(アメリカ州自由貿易圏)反対の2000年代始めにおける抗議以後では見たことがない反帝国主義の波に火をつけた。近年では、極右が機会主義的に愛国主義の呪文を主張してきたのだが、しかし先のエピソードが、かれらがその物語を維持するのを難しくしている。7月10日のデモにおけるようにわれわれが米国国旗が抗議として燃やされるのを見たのは、その時以来何年も過ぎてきた。
 第2に関税は、柑橘類栽培者とアグリビジネスからコーヒー、鉄鋼、さらに航空宇宙部門までの、ブラジル民族ブルジョアジーの大きな塊に打撃を与える。憤激はブルジョア紙、特にサンパウロのブルジョアエリートとつながっているフォルハやエスタダオのような新聞の社説に映し出されていた。
 最後に、ボルソナロと彼の連携者は隠せないほど政治的に孤立するようになった。それは、遅ればせながらとはいえアルコルムブレやウーゴ・モッタ(各々、上院と下院の議長)がルラと一致団結するような、対政府で取られた姿勢としてであろうが、エスタダオ紙が行ったようなボルソナロに対する直接的攻撃としてであろうが変わりない。
 タルシシオ(サンパウロ州知事)もまた政治的打撃を受けた。彼はぎごちなくボルソナロを擁護したことで地歩を失った。エスタダオ紙のひとつの社説は、ビジネス階級の一定部分はサンパウロ州知事に彼の州の経済的利益を優先するよう期待している、とはっきりさせた。結果として、タルシシオを支持してルラから離れる方に動いていたいくつかの中道派は、今や引き戻され、様子見の態勢に入っている。
 トランプはそれでも十分ではないかのように、彼の攻撃を続け、屋台の商人やブラジルのPIX支払制度(現金取引を減らし、現行の支払い方式に代わるものとして創出された方式:訳者)までも嘲り、ルラ政府に攻撃手段を与えた。
 ルラにとってかつては不利に働いていたもの、すなわちPIX危機が、今やトランプとボルソナロ陣営にとっての問題になっている。ちなみにPIX危機とは、政府がPIXへの課税を計画中という根拠薄弱な主張によって、脱税や他の不正を識別するという目的の下に金融取引を監視するという政府決定が生み出した否定的反響だ。

足場を取り戻した政府


 トランプは、火を消すために水の代わりにガソリンをぶちまける者のような、「常軌を逸した消防士」のようにふるまっている。連邦政府はこの機会をつかみ、超富裕層への課税を唱えるような初期の姿勢をさらに強めている。
 ルラは、もっと幅広い行動分野に関し3つの戦線で彼の政敵の弱さを利用した。先ず彼は、ソーシャルメディアおよび連携する社会運動を通して、反トランプの政治闘争を結集し続け、この新たな絡み合いがもつエネルギーとつながりをつくった。政治的には彼は、互恵主義の原理の外交的適用を考慮することで正しい歩みを進めた。
 ビジネスの戦線では、トランプの関税吊り上げに反対するビジネスエリートの諸部分とのつながりを再建しようと努力中だ。姿を見せつつあるルラの新しい協定は、富裕層課税をめぐる2極化を緩和し、彼に草の根の決起の強さを低める余地を与えるかもしれない。
 結果は印象的なものになってきた。ルラは彼の足場を取り戻し、支持率で上昇中、他方彼の主なライバルは地歩を失いつつある。クアエストの世論調査によれば、ルラは今あらゆる予想シナリオでリードしている。同じ世論調査は、ブラジル産品への関税ではブラジル人の72%がトランプを非難している、と認めた。
 ルラが世論調査で得点し、レースから追放されたジャイル・ボルソナロ、孤立し逮捕の危険があるエドゥアルド・ボルソナロ(前者の息子:訳者)、一貫性のない形で残され守勢に置かれたタルシシオと共に、彼の政敵がもがくのを見る中で、ルラの持ち直しを推進しているのはいわゆる「民衆的設定課題」だ。
 ルラはまた、低所得者を所得税から除外する法案を前に進めるために、アルスール・リラ(前下院議長)とひとつの取引も取り決めた。その計画の進歩的な性格はなお不十分だとはいえ、それは財務相のハダドの以前の立場からは注目に値する離反だ。IOF(金融取引への課税)問題に関し、最高裁判事のアレクサンドレ・デ・モラエスは、議会からの報復的な「爆弾」法案を駆り立てつつひとつの妥協を成立させた。副大統領のアルクミンは今、関税が8月1日に効力をもつ前に進む道を交渉中だが、結果は依然不確実なままだ。

強さを取り戻したひとつの課題


 この政治的な画期は行動を求める。住民の幅広い部分があらゆる社会階級を横断して政治化されるようになりつつあるときに当たって、億万長者に課税する大衆的キャンペーンに乗りだし、反帝国主義感情を生き返らせるための、ひとつの実体的な好機がある。
 国の主権の防衛は、国の利益を守り、関税戦争を打ち破り、反トランプの国際的運動の建設を助けることを意味する。この戦闘は、8月11日の学生デー集会のように、民主的で包括的な決起を伴わなければならない。そして前述の集会では今、主要な組織が抗議行動を準備中だ。
 サン・オセ・カムポスの金属労働者労組は、早くも大きなデモを決行した。国会議員のフェルナンダ・メルキオンナは、経済的互恵主義の原理を強化するひとつの法案――「主権法」とのあだ名を付けられた――を提出済みだ。
 われわれは、特許放棄に向け圧力をかけ、利益の海外送金を規制し、さらに外国貿易の中央集権化に向けた他の歩みを進めつつ、米企業に課税することで帝国主義に反撃しなければならない。労働者は、大衆運動にエネルギーを注ぎ込むために、かれら自身の力に自信をもたなければならない。週6日労働(6×1)を終わらせるような中核的要求は、ストライキと決起からなる全国行動日として統一される必要がある。われわれはさらに、9月に予定されている人民の国民投票にも参加しなければならない。

拒否権行使を、ルラ!


 それでもこのすべての最中に、アグリビジネスは静かに夜遅く「荒廃法」を押し通した。COP30の主催が決まっている国の中でわれわれは今、数十年で最悪の環境的な後退を目撃中だ。
 これはただ、アグリビジネスの退行的本性を際立たせているに過ぎない。それは、卑屈、搾取、そして環境的劣悪化を引き起こすもっぱらの輸出モデルに依存しているのだ。それこそが、PSOL内に代表されるような反資本主義かつ自立した左翼がそれ自身の設定課題と価値をはっきり主張し続けなければならない理由だ。
 民衆の意見をよく聞き、連邦下院議員の支持者数が増していたと思われる法案を差し止めたことで、ルラは正しかった。今こそ彼は、同じことを再び行わなければならない。ルラ、「荒廃法」を差し止めよ!
 新しい政治局面が進行中だ。それは、帝国主義、その現地代理人、またクーデター策動の裏切り者と、全体としてのブラジル人民との間の対決だ。われわれは、草の根の決起を通じて始めてブラジルの敵を打ち破る強さを築き上げることができる。(2025年7月20日)

▼筆者は社会学者。またPSOL全国執行委員会国際関係書記で社会主義左翼運動(MES、ブラジル内第四インターナショナルメンバー)の活動家。(「インターナショナルビューポイント」2025年7月22日) 

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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