英国 改革党の躍進

労働党は今怪物を育てている
急要す新たな左翼政党への挑戦

デイヴ・ケラウェイ

 中道は持ちこたえられない。地方選での改革党の大躍進を受けて、デイヴ・ケラウェイが新たな政治の光景を点検している。(IV編集部)

根を張った政党としての登場

 地方選開票日夜、ひとつのコメントが際立った。改革党が今、朝食としてそれらを食おうとしている、と。昨年7月の総選挙前には1議席しかもっていなかった政党が、その選挙では5議席獲得したのだが、今回はちょっと前に以下の結果になった。
•最大の得票率の獲得。
•補欠選挙では、およそ17%の差をつけ1議席獲得。
•新自治体議員は650人獲得。
•初めて10州議会の支配勢力に。
•2つの自治体首長の獲得。
•右翼連立政府の形成、あるいはその一部になる機会を与えるような、全国得票率30%獲得という予想。

 改革党が労働党と保守党と互角、あるいはそれらを上回ることを示すここ数ヵ月における世論調査すべては確証され、それは超えられさえした。12万人以上になるその党員数はすでに保守党を追い越している。トランプの世界の者を含む裕福な資金提供者はその財源を押し上げた。数百人に上る自治体議員の確保は、ひとつの政党としての姿と物質的資源を与えているだけではなく、党を各地の中に埋め込むことまでも可能にしている。これは次には次回のキャンペーンをもっと楽にしている。
 諸々のジャーナリストは、もっと職業的な構成への改革党の移行についてコメントを加えてきた。保守党の議員とスタッフ80人以上がすでに離党していたのだ。これはまた、トミー・ロビンソン(英国極右のひとり:訳者)の政策との近さをもつ者が何人かいたにもかかわらず、保守党が彼に対する防疫線を設けたやり方にも反映されている。最も過激な声は、この選挙キャンペーンの中でメディアからは大きく締め出された。ファラージの次の標的はウェールズ議会とスコットランド議会になっている。

保守党と労働党が共に大打撃


 保守党の議席がボリス・ジョンソンの全盛期にすっかり不相応だったことを前提とすれば、この結果は保守党が労働党以上に失ったということを意味した――676議席――。その指導部は今、労働党同様、右と左双方から押し潰されている。たとえば自民党(保守党より中道に位置している:訳者)は、サウスウエストとシュロップシャーでかれらを打ち破り、またオックスフォードシャーとグロスタシャーで支配的位置を獲得している。
 多くの保守党支持者は、特にEU残留派は、改革党の諸政策に対する指導部の急傾斜をありがたく思わなかった。他方、一部の者たちは、改革党との取引を求めて今圧力をかけている。
 明らかに、そうした者たちにとってのひとつの選択肢は、右翼の再形成であり、そこでは改革党が同等、あるいは支配的なパートナーになる。イタリアの伝統的右翼は、現首相のジョルジャ・メローニ率いるポスト・ファシストのイタリアの同胞と共に、上首尾となった政治連合に融合した。
 労働党のスポークスパーソンは、この結果に呆然としたように見えた。明らかに、投票所に出かけるか党に票を投じるか、そのどちらかでも伝統的支持者が見せた気のすすまなさは、本当に14年を経て保守党が残した混乱にまで達している。
 メディアは、冬期燃料手当と障害者福祉の切り下げが戸口に来ている、と語ってきた。他の政治的諸選択が済まされていた可能性もある。つまり、子ども手当ふたり分での上限、冬期燃料手当の切り下げ、障害者/疾病手当の残酷な引き下げ、グリーン諸政策における逆戻り、などだ。
 党が、富裕層への課税、恣意的な財政規則の変更、あるいは諸資源を共有の所有権に変えることを除外するや否や、党は動けなくなるのだ。特に党が、穏健な社会民主主義政策でも実行したいと思っている場合は。
 また労働党指導部は、パレスチナに対する残虐な政策や国際援助や国家年金の不平等に反対する女性の問題やトランスの権利といった問題は、支持者に否定的な影響を与えないだろう、と考えているようにも見える。新政権は、支持者が何らかの変化を期待し、初期の政策で満足しているハネムーン期間から、普通は利益を得る。しかし、レイチェル・リーヴスの鉄拳支配は、彼女が有権者に投げることができる喜ばしいもののまさに多くを限定してきたのだ。
 確実に、左翼攻撃を理由とした党員数におけるあまりに大きな下落は、党の空洞化を意味し、それは明確に、鍵を握る選挙の中での地上戦に影響を及ぼし続けている。改革党はこの分野で、ランコーン(リバプールからそう遠くない工業都市:訳者)補欠選挙で労働党と同等になることができた。そして人は、この話が多くの州議会の戦闘でも繰り返された、と想像してもよい。

労働党の前にふたつの選択肢


 ふたつの選択肢が浮上しつつある。ランコーンで負ける前、党および確実にその中央機構内の右翼には、敗北が準備すると思われる好機に関する話がすでにあった。その好機とは、労働党が改革党の反移民政策にもっとピッタリ寄り添い、そのいわゆる反覚醒課題設定をまねるための、というものだ。
 指導部の他の者は、路線を多く変える必要は全くない、と考えている。その理由は、ひとつの展開の改革党/保守党残党の政府の場合は、「ネオファシスト」の脅威を阻止するための労働党に向かう進行性の「パニック的」反射作用があるだろう、というものだ。
 われわれはこれを、フランス大統領にちなんでマクロン策動と命名してもよいだろう。実際彼は、マリーヌ・ルペンが大統領になるのを止めるために左翼と進歩勢力が彼へと結集したために、2回選出された。問題は、ここでの選挙制度が2回戦としては機能しないということであり、それは、最終結果後までパニックを大して生み出さないことを意味しているのだ。
 われわれが今回経験したように、非民主的な完全小選挙区制は、より小さな政党に残酷なほど差別的だ……それらが二大政党制の閾を打ち破るまで。
 改革党は、得票率が50%よりはるかに小さい中でたくさんの議席を勝ち取った。労働党が得票率34%でその名高い地滑り的勝利を得たこととまったく同じように、改革党がその偉業を繰り返すことを止めるものは何もないのだ――特に、それが保守党との取引に達するならば――。
 他方、社会主義キャンペーングループ外からの声さえも今、年金生活者燃料手当、あるいは障害者向けPIP(年金年齢以下層向けの個人自立手当)支払いのような諸政策に関し、スターマーがUターンするよう力説している。閣内からも、そのような懸念に応えていると示す可能性があると考えられる小規模な変更を行うよう、何らかの圧力があるかもしれない。
 ダイアン・アボット(英国で初の黒人女性議員:訳者)はもっと明確であり、「変化のための計画」(労働党の選挙公約の基礎になった文書:訳者)に基づきもっと早くもっと断固進むという約束の結果を考えれば、スターマーが繰り出す呪文は代えられる必要がある、と言明している。
 数少ない勝利した首長選候補者のひとりは、党の台本を破り捨て、年金生活者と障害者に関するスターマーの政策を攻撃した。彼女は、それらに反するキャンペーンを行い、彼女の管轄市で先の政策の影響を緩和する政策を組織した。おそらく、無党派層に向けた彼女の政策が、改革党の猛烈な攻撃にも関わらす彼女が持ちこたえる助けになった。

労働党は方向を変えられるのか?


 左翼にとってはっきりしていることは、ボロ隠しの変更では改革党を敗北させることはできず、かれらに対するレイシストあるいはもっと不器用なナチスとしての糾弾すら引き出すことができない、ということだ。人々が政治の歩みと生活費について怒り幻滅しているとすれば、人はかれらを、給付を削るのではなく、あるいは現場の公共サービス改善のために何もしないのではなく、生活を改善すると納得させなければならない。
 労働党は、生活改善に払うマネーをどこから得ているかを人々に示さなければならない。かれらは、この勘定書の帳尻を合わせるために十分な富が社会の中にあることを分かっている。労働党は正直でなければならず、富裕税と企業利潤に対するもっと高い課税のための具体的な計画を作成できる、と言わなければならない。スターマーの回答が取り繕うことと成長に興味を引くように話すことだけならば、その時彼は改革党の怪物に餌をやり続けていることになる。
 総選挙の中で労働党は改革党を楽にした。かれらはある選挙区で、ファラージに対抗して立候補していた信用があり勢いのある候補者を撤退させることまでやった。ファラージに的を絞った資材はほとんど全く提供されなかった。モーガン・マクスウィーニー(スターマーの首席補佐官:訳者)のような大戦略家が考えたことは、改革党は保守党により多くの打撃を与え、地滑りに扉を開くだろう、といったことだった。
 確かにそうなったが、しかしそれは先を全く見ていないものだった。熱のない地滑り(昨年総選挙の:訳者)からわずか9ヵ月で、われわれは早くもその結末を見ている。世論調査における改革党の上昇以来、労働党はそれを無視することからかれらの政策をそっくりまねる点にまで進んでいる。それゆえに、どれほど多くの国外追放を実行しているかを頻繁に自慢し、民族的マイノリティや移民の犯罪者のリスト化を吹聴するような労働党幹部がいる。
 労働党は今、保守党の緊縮やパンデミックにおける無能さと無感覚の年月という重荷がないひとつの政敵を前にしようとしている。今のところそれは、多くの有権者にとって変革と斬新さの様に見える政敵でもある。

労働党の左に開いた選挙空間


 労働党が地方自治体議員186人と45番目に最も安泰な国会議席を失うという流れの中で、緑の党の得票は十分に持ちこたえ、かれらは新たな自治体議員を加え続けた。スターマー政府に批判的なジェシカ・エルゴットは彼女の論考で、労働党は改革党に対してよりもその左と進歩的な側に対しもっと多くの票を明け渡しつつある、という証拠をたくさん示している。労働党の左には進歩的な空間があるのだ。
 プレストンでは、親パレスチナと反緊縮の政綱に基づき立候補した無所属の3人が議席を得た。当地のムスリムコミュニティは、ひとつの街区でそれが意味のあるマイノリティであるほとんどのところと同様、かれらの伝統的な労働党の本籍には戻らなかった。
 まさに抜け目のない戦略家たちは、パレスチナ人は今日はここにいて明日はオンライン請願に行くような層であり、その有権者は労働党以外他に向かうところがない、などと考える。しかしかれらは、政府のジェノサイドに関するほぼ全面的な沈黙、あるいはもっと悪い共謀、援助妨害、さらに英国の兵器提供が票の戻りが皆無になることを意味する、ということを理解できないのだ。
 プレストンの経験はまた、労働党の左に位置する政治勢力にとっては失われた好機だったことをも指し示している。何らかの全国的な声明以前に先ず地方レベルで新たな幅広い左翼政党を始めるかどうかに関する継続的な論争は、これらの選挙への何らかの協調された選挙介入がほとんどなかった、ということを意味した。しかしそのような発展は、われわれはどうすれば改革党とその反移民政策に反対するひとつの大衆運動を建設できるか、に関することを含めひとつの違いをつくったと思われる。

改革党との闘いは左翼の責任


 ジョン・カーティス教授と他の者が2党システムは現在機能していないと正しくも言明している。いくつかの場合われわれの前にあるのは5党システムであり、多くの議席は51%の過半数にはるかにおよばない候補者によって獲得されている。われわれは、特に保守党が死滅したり改革党と融合する場合、2党システムへの回帰を除外するわけにはいかないが、しかし当面政治的な変わりやすさはここにとどまるだろう。
 そしてこの新しい現実は、新たな大衆的左翼の選挙のオルタナティブに対しもっと有利な機会を生み出している。人びとが一度かれらの投票を変えれば、かれらはもうひとつの進歩的な政党に向け再びそれを行うかもしれない。
 しかし左翼はそれでも、労働党大会が自らすでに同意したような、適切な比例代表制(PR)を求めて力説しなければならない。原理において、また実際上も、それはより民主的であり、政治システムからの大衆の疎外を減じる可能性もある。それは、緑の党やあらゆる新たな左翼のオルタナティブにも公正な助力を与えるだろう。
 労働党は真に改革党に挑むことはないだろう。ファラージと彼の党に対し街頭で、またキャンペーンと選挙で、共に反対を提供するのは左翼の責任だ。われわれは、改革党の政策の嘘と矛盾を暴き出す必要がある。
 改革党が勝利を収めた自治体議会には即刻の焦点が生まれるだろう。現にファラージは今、平等な機会や多様性の実行に対する攻撃やその廃止のような、イーロン・マスクの政府効率化省の類を約束している。自治体労組とつながった当地のキャンペーンが必要になるだろう。
 改革党に対する対応の主な組織化が活動家を基礎とすることになるのははっきりしているが、われわれはそれでも、ファラージおよびその支持に餌を与え続けている政府の諸政策に反対し自由に話す用意のあるような、あらゆる左翼議員、あるいは穏健な左翼議員だとしても、そこから支援を得ることを期待すべきだろう。改革党の成功は、かつて以上に急を要している左翼政党に関する討論の必要性を改めて整えている。(アンティキャピタリスト・レジスタンス、2025年5月5日)

▼筆者はソーシャリスト・レジスタンスのメンバーで、アンティキャピタリスト・レジスタンス内第4インターナショナル支持者。(「インターナショナルビューポイント」2025年5月6日)  

週刊かけはし

購読料
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009  新時代社