ケルンサミット・債務帳消し━G7のウソ

強制されるよりハードな構造調整プラン
返済額は増え続け、民衆の生活はさらに悪化する

エリック・トゥーサン

債務の90%棒引きだって?

 最近ケルンで行われたG7サミットで、貧しい国々の債務帳消しを求める1700万人分の請願署名が最も金持ちの七カ国の首脳に手渡された。
 6月18日、サミットの指導者たちは、貧しい諸国の債務負担の問題は解決されたと発表した。債務の90%は棒引きにされたというのだ。これは事実ではない。
 この声明がカバーする債務帳消しの合計額は、本当のところ最大限に見ても250億ドルである。すなわち第三世界の債務総額の約1%である(1)。債務の大海の中の一滴が帳消しになったにすぎないのである。41の最貧国(2)の債務総額に対して今回発表された措置は、2050億ドルに上る最貧国債務の12%以上ではない。
 世界の貧しい人びとの多くが住んでいるのは、インド、インドネシア、ブラジル、バングラデシュ、パキスタン、メキシコである。こうした諸国のどれも、ケルンで発表された債務削減措置の影響を受けない。債務削減の利益を受ける41の最貧国のうち、その資格を与えられるのはおそらく20カ国だけである。コンゴ民主共和国、スーダン、リベリア、シエラレオネ、アンゴラはそこに入らないだろう。さらに発表された「譲歩」が達成されるだけでも、よくて3~6年かかるだろう。

生活水準も国家財政も悪化

 要するに、この措置から「利益」を得るためには、貧しい国々は厳格な条件を履行しなければならないだろう――それは、より悪化した構造調整プランである。
 債務帳消しの候補国は、3、4年、さらには6年間もこうした厳しい緊縮措置を採用しなければならないだろう。それは、基礎的商品の価格の高騰、さらには医療、教育等を受けることへのいっそうの制限と結びついた増税による、最も貧しい市民たちの購買力の低下を意味する。こうした諸国では、すでに人口の50%あるいはそれ以上が、絶対的貧困線以下で生きている(モザンビーク、ルワンダの場合では70%以上がそうなっている)。
 発表された措置は、1996年に世界銀行、IMF、G7が採用したHIPC(重債務貧困国イニシアティブ)政策を拡張するものである。こうした措置は、これら諸国の住民の生活環境を改善しただろうか。そうはならなかった。世界銀行自身がそれを認めており、我慢するよう主張している。
 生活水準が改善されなかったのならば、少なくともこれら諸国の経済状況は改善されたのだろうか。これらの諸国は毎年の債務返済が少なくなったのだろうか。これまた否であり、まったく逆である。こうした諸国は受け取るよりも多くの額を返済しなければならない。
 1997年に、金持ち諸国は最貧諸国に80億ドルを貸し付けたのに対し、これら最貧諸国は82億ドル、すなわち借りた額より2億ドル多い額を返済した。BIRD(世界銀行グループの再建・開発のための国際銀行)とIMFは、彼らが貸し付けたよりも多くを第三世界諸国からの返済によって手に入れたのである!
 将来に向けて世界銀行は、まさに債務削減措置の約束にもかかわらず返済される額は減少しないだろうと発表した。さらに悪いことに、一部の諸国(たとえばマリ、ブルキナファソ)は以前よりも多くを返済しなければならない。

今後も南が北を助け続ける

 G7は、IMFと世界銀行に構造調整政策の実施を監督する責任を負わせた。G7のコミュニケによれば、こうしたプランは医療と教育の改善をもたらすべきである。
 しかしこうした改善は、緊縮予算の狭い枠組みの中でどのように構想できるのだろうか。
 債務削減の後でも、モザンビークはなおその予算の四〇%を債務返済にあてなければならない。こうした条件の中で、どうすれば住民への医療提供の改善を行う可能性があるのだろうか。こうした諸国への略奪をやめる時である。
 公的開発援助は、あらゆる時期を通じて最低になった。それは1990年以来33%減少し、第三世界全体の債務返済額は増加しつづけた。1998年には、第三世界全体の債務返済総額は2500億ドルになったが、それに対してこれまでの公的開発援助はわずかに300億ドルである。これは第三世界が、いわゆる寛大な公的開発援助から受け取った8倍の額を金持ち諸国に移転したことを意味している。
 その結果がここにある。 世界銀行によれば、1987年から1998年までの間に、世界的に見て絶対的貧困線(一日一ドル以下)以下で生活する人びとの数は12億人から15億人に増大した。事実、国連開発計画(UNDP)が作成した「人間的開発に関する世界報告」で毎年示されているように、北は南を助けていない。
 その代わりに南の人びとは、耐えがたい苦痛と犠牲を代償にして北の資本所有者に対して巨額の富を移転しているのである。この富の移転は、二つの基本的メカニズムを通してもたらされている。債務返済と不公正貿易である。
 この文章を書いている時、第三世界が売る製品の価格が世界市場で大きく下落する一方、債務支払いに適用される金利が上昇したことで、新たな債務危機が勃発した。つまり、第三世界諸国の収入が減り、返済が増大している。他方、先進工業諸国は第三世界からの輸入原料価格の低落と、アジア危機以来の自国の公的債務に対する金利の低下によって、黒字を増やしているのである。
 第三世界の人びとは、すでに十分以上の返済を行ってきた。第三世界諸国の対外債務は完全に棒引きされなければならない。

完全な債務帳消しのあとで

 南の腐敗した独裁的な体制が、この債務帳消しで利益を得ることを阻止するために、金持ち諸国にある彼らの資産は凍結されなければならない。そして適切な調査の後で、それぞれの国に民主的に行き渡る開発基金を通じて第三世界の人びとに返さなければならない。
 構造調整プランの中止、金融取引税の導入(いわゆるトービン税)など、その他の補足的措置が取られなければならない。債務帳消しの後で、債務をもたらすメカニズムが再発するのを阻止するために、新しい、公正な経済的・人間的秩序の基礎を据えることによって、さらなるステップが踏み出されなければならない。
 対外債務やはっきりと破壊的な調整政策の拒否とは、それがいったい何であるかを明示しなければならない。それは、金持ち国のブルジョアジーが危険にさらされた民衆を助けにやってくることになっているというあり方を拒否することである。
 (筆者のエリック・トゥーサンは、第三世界の債務帳消し委員会〔COCAD〕代表)


注1 最新の世界銀行レポート(「グローバル・ディベロプメント・ファイナンス」99年4月)によれば、第三世界の債務総額は2兆3百億ドル(旧東側ブロックを除いて)。
注2 世界銀行の基準による最も重い債務を抱えた貧しい41カ国とは、以下の通り。アンゴラ、ベニン、ビルマ、ボリビア、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ、コンゴ民主共和国、エチオピア、赤道ギニア、ガーナ、ギニア、ギニア・ビサウ、ガイアナ、ホンジュラス、コートジボワール、ケニヤ、ラオス、リベリア、マダガスカル、マリ、モーリタニア、モザンビーク、ニカラグア、ニジェール、ナイジェリア、ウガンダ、ルワンダ、サントメ・プリンシペ、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、スーダン、タンザニア、チャド、トーゴ、ベトナム、イエメン、ザンビア。
 HIPCが据えた現在の基準に従えば、実際に債務削減措置を受ける資格を持つのは、これら諸国のうち7カ国(ボリビア、ブルキナファソ、コートジボワール、ガイアナ、マリ、モザンビーク、ウガンダ)だけである。
(英「ソーシャリスト・アウトルック」99年夏号)

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