連帯は客観的調査と単純な共感を導きに

厳しく非常に長い闘いへの理解新しい世代が闘い通してつかむ
香港 『反乱する香港』:區龍宇との対話(下)

イヴァン・フランチェスキーニ

怒りと希望に満ちた世代の覚醒

イヴァン)著書の中で、あなたは若者がいかに動員で中心的な役割を果たしたかを説明している。何によって「一九九七年世代」はそれ以前の世代と違う存在になっているのか?

區)いま北京は、若者が危険な思想に影響されないことを保障できるように、香港の教育を完全に管理しようとしている。これは笑える話で、実際には逆効果だ。私は二〇年近く中等学校の教員をしていた。植民地教育への反抗心を生徒に植え付けようとしたが、大失敗に終わった。まだその時ではなかったのだ。「一九九七年世代」の登場があって初めて、社会のかなりの部分が動き出した。
それは、怒りと希望に満ちた世代である。彼らが怒っているのは、北京にだまされたと感じているからである。誕生以来ずっと、彼らは香港人が普通選挙権の約束を守らせるために、北京に挑戦していることを詳しく聞いてきた。彼らが成長するにつれ、選挙権はどこにも見当たらなくなり、北京は香港の自治への攻撃を次々に開始した。それが怒りの原因だ。
その一方で、彼らはまだ希望があると考えている。反撃の新しい方法を見つけなければならなかった。彼らはそれを「必要なあらゆる手段によって」、「水になれ」「勇武派になれ」などによって見つけた。二〇一四年には、市民不服従と大通り占拠が北京を屈服させるのに十分でなかったならば、警察と闘い、立法府を占拠しよう! 彼らの勇気もまた、彼らの「エンドゲーム」、つまり、これはわれわれの自治権にとって最後の闘いだから、努力を惜しむなという心理から来たものだった。
登場するもう一つの要因は、新世代が成長している間に享受していた相対的な自由である。イギリスによる植民地支配下では、私たちの世代はかなり抑圧的な雰囲気の中で育ち、トラブルを避けるために政治に無関心であることを学んだ。そのため、三〇年前の民主主義運動は常に非常に臆病なものだった。だから、新世代が旧世代とどのように違っているかがよくわかる。
若者たちは経験が浅かったが、その分、民主派の枠にとらわれないで考えることができた。いまや彼らは、昨年のような大規模な反乱でさえも、北京を屈服させられなかったことをその目で見てきた。それどころか、北京は、今度は国家安全維持法というさらに致命的な武器で報復してきた。
今や若者たちは、これは非常に長い闘いになること、そして「エンドゲーム」のようなものはないことをようやく理解している。それはきわめて厳しい闘いになるだろう。北京のアジェンダはこの世代を破壊することだからだ。北京は以前にも一九八九年にそれをやった。
まとめると、若者の貢献は、「王様は裸だ!」と声高に指摘した少年のように、本当の問題がどこにあるのかを特定できたことだと言えるかもしれない。彼らはまた、たとえそれがまだ十分な準備ができていない課題であることが出来事によって証明されたとしても、それを解決しようとしたのである。

新しい労組運動の前に重大課題


イヴァン)われわれは最近、この一年間に香港で発生した労働組合の驚くべき拡大についてのアニタ・チャンの記事を掲載した。あなたの著書の一部もこの現象に捧げられている。抗議活動における労働者の役割についてもう少し掘り下げてもらえるだろうか? また、新安保法の下でのこの芽生えつつある労働運動の見通しはどうだろうか?

區)昨年の反乱と雨傘運動を比較すると、労働者にとって一歩前進したことがわかる。民主派を支持する労働職工会聯盟(HKCTU)は一九九〇年に設立され、現在では一九万人の組合員を代表する九五の加盟組合があると主張している。HKCTUは常に既成民主派の政治路線に従っている。これが最終的に若い世代を遠ざけた。
そのことが、雨傘運動の間、HKCTUがほとんど役割を果たさなかった理由の一つである。HKCTUはストライキを呼びかけた。私は、この呼びかけに耳を傾けたのは「一つと半分の組合」[訳注:「一つ」は太古飲料労組(香港のコカコーラ労組)で、「半分」とは香港の教員組合のこと]だけだったと言ったことがある。というのは、教員組合がストライキについて身が入らなかったからである。それは、当時の香港の労働運動の根本的な弱さを反映したものだった。
昨年、運動が六月初旬に始まった当初で、二〇〇万人規模のデモ行進があった直後に、CTUはもう一度ストライキを呼びかけたが、失敗に終わった。歴史は繰り返されているように見えた。しかし、違っていた。若者はそれを認めなかった。翌月には、これまで以上に強い動員が見られたが、若者たちは、自分たちだけでは北京を屈服させることができないことに次第に気付いていたので、彼らは繰り返しゼネストを呼びかけた。
これは、若い従業員の新たな層が活動家として台頭し始めた瞬間でもあった。CTUとともに、連合勢力は二〇一九年八月五日に数十年ぶりにゼネストを成功させることができた。中でもパイロットや客室乗務員が一斉に呼びかけに応じたため、全便の半数が欠航し、航空交通を混乱に陥らせた。北京がキャセイパシフィックに数十人のストライキ参加者を強制的に解雇させたことで報復した後、その後のストライキの呼びかけは失敗に終わったが、八月のストライキは労働者の力の証明として多くの人の記憶に残った。
これはまた、何十もの新しい組合が結成されるという新しい組合運動の基礎を築いた。新型コロナウイルスのパンデミックの拡大は、新しく結成された病院局職員組合にその力を試す機会を与えた。組合は病院局の八万人の労働者のうち、二〇%を組織していた。同労組は、二〇二〇年二月には、香港でのパンデミックのさらなる拡大を阻止するため、政府に香港と中国本土の国境を一時的に閉鎖することを要求して、五日間のストライキをおこなった。
このストライキの良いところは、新指導部が闘う意志を持っていることを目の当たりにできたことで、これは香港の労働組合では非常にまれなことである。しかし、マイナス面は、組合員がより戦闘的な路線を取る準備ができていないように何度も見えたことである。
北京が国家安全維持法で報復するとともに、この新しい組合運動はいま、結成以来の最大の課題に直面している。組合は北京の第一の標的ではないかもしれないが、中国当局は間違いなく急進的な組合運動を嫌っている。私は、北京が次の攻撃を開始する前に、若い組合活動家が自らを強化するのに十分な時間を持てることを願っている。

本土の運動を促進する潜在力

イヴァン)メディアの報道ではあまり触れられていない側面は、国家安全維持法が中国本土の市民社会にどのような影響を与えるのか、ということである。香港は三〇年間にわたって、労働NGO、人権派弁護士、その他の種類の活動家グループを含む、中国本土における幅広い市民社会の諸組織のための資金調達の窓口となっていた。中国の市民社会がすでにかつてない攻撃を受けている中で、香港はまだそのような役割を果たすことができるのか?

區)いまはすでに非常に難しい状況にある。中国の労働者を支援してきた香港のグループの中には、活動を停止しなければならない、あるいは大幅に規模を縮小して身を低くしなければならないものも出てきている。経済危機が深刻化し、アメリカとの対立がエスカレートすればするほど、北京は中国本土の労働者グループ、特に香港とのつながりがあるグループを完全に抹殺しようとする可能性が高くなる。
十数年前、深?でバスを借りて、ドイツの草の根労働活動家を大勢連れて、ストライキのあった工場を訪問したことを覚えている。われわれ香港人はあえてバスの外には出なかったが、ドイツの活動家たちはわれわれが話した話に感銘を受け、工場を見学できたことを喜んでいた。これはいまでは考えられないことだ。珠江デルタでのNGO活動のための狭くても現にあった空間はとっくになくなっている。
しかし、われわれにはまだ、影響力を及ぼす別の手段がある。何十年もの間、香港の人々が自らの権利のために立ち上がる姿は、中国本土の多くの人々を奮い立たせてきた。この新しい抑圧の時代にあっても、香港は間接的な方法で、たとえば自治権と民主主義を求めるわれわれ自身の闘いを通して、中国本土の下からの運動を促進することができる。このことは重要である。香港の強みは、特定の「勇武派」が探し求めていた存在しない「鋭い力」ではなく、「ソフトな力」にあるからである。
香港が中国本土に非友好的になることは自殺行為である。残念なことに、昨年の反乱では、北京は右翼香港本土派の存在を最大限に利用して、反乱全体を独立と中国バッシングのためのものであるかのように、そして言うまでもなく親トランプであるかのように描きだした。このことが中国本土にいる潜在的な同盟者を遠ざけることになった。
しかし、香港にとっての問題は、右翼本土派の存在よりも、もし存在すれば右翼を牽制できるような強力な労働者階級に根付いた左翼が存在しないことにある。良い知らせは、新しい労働組合運動によって、時間はかかるだろうが、労働者に根付いた左翼に引き入れるべき、まったく新しい労働者活動家のグループができたことである。
第二に、過去二〇年間に中国本土と香港の労働者活動家によってまかれた種は、将来も成長し続けるだろう。二〇年前、農村部からの農民工のほとんどは、自分たちの正当な権利について何も知らなかった。NGOからの支援に加えて、農民工自らの闘争を通じて、今日では彼らの多くはずっと多くの情報を持っているし、自分たちの権利を要求する準備ができている。たとえば、二〇一八年には、湖南省出身の一〇〇人以上の珪肺症被害者が補償を請願するために、(出稼ぎで職業病に罹患した場所である)深?遠征を自発的に組織した。過酷な抑圧の下では、労働者は長期的な組織化をおこなうことはできないが、このような防衛的な闘いを通じて、労働者は部分的に力をつけることができている。

まず自身の政府への圧力を

イヴァン)香港の民衆にとって次は何か? 海外に住んでいるわれわれが連帯を表明するために、どのような場が残されているのだろうか?

區)あなたがこれらの質問を送ってくれてから、香港の状況は日に日にさらに悪化している。北京と香港の間の力の絶対的な非対称性は、中国本土の状況が驚くような方向転換をしない限り、この先何年も悲惨な状況に陥ることを暗示している。アメリカが香港の特別な地位[訳注:中国とは違う一国二制度の地域として関税優遇などを適用してきた]を取り消した後、一部の抗議者たちはいま、いわゆる「焦土戦術」の成功を祝っている。
私は彼らの「成功」という考え方を支持しない。というのは、香港を北京とワシントンの間での戦場に変えることは、事態を容易にするどころか、悪化させることになるからである。しかし、私はこうした「攬炒」[訳注:敵に一矢報いて一緒に死ぬという戦術。「死なばもろとも」とも訳される]提唱者にあまり非難を押し付けるつもりはない。香港はその一番最初から、あまりに小さいので、自らの運命を方向付けるのにいかなる主導的な役割も果たすことができなかったからである。
悲しいことだが、香港の運命は常に外部の勢力によって決定される。われわれの抵抗がどんなに完璧であっても、いったん北京がわれわれの自治を終わらせようと決心すれば、われわれはその点についてはおしまいである。事態の悪化を止めるための日々の抵抗はまだ必要だ。しかし、われわれは、組織された反対派が、完全には排除されないにしても、選挙に出るのを禁止される日に備えなければならない。香港の人々は、来るべき破局を認識しており、それゆえにさらなる国際的な支援を期待している。しかし、小さな都市である香港にとって、このことは、われわれの自治権を守るための闘いがわれわれ自身の手から離れてしまったことを意味するのかもしれない。
香港の特殊性――地政学上の位置や国際金融上の地位で、小さいが、重要である――ゆえに、国際的な圧力はわれわれにとって不可欠である。しかし、それは正しい種類の圧力でなければならない。われわれは、政府が進歩的な変化のための原動力というよりは、権力機構であることをよく知っている。中国本土や香港の民主化運動との連帯キャンペーンを外国政府だけに、言うまでもなくトランプに委ねることはあまりにも危険である。
われわれは、国際的な進歩的労働者や市民団体や個人が、政府が間違ったことをするのを阻止しつつ、正しいことをするように自分たちの政府に圧力をかけることを必要としている。この努力の前提条件は、ここで起こりつつある現実の状況を把握することである。私の提案は、われわれはイデオロギーよりも客観的な調査と単純な共感によって導かれるべきだということである。大衆運動を統一したのは五大要求であり、そのうち四項目は逃亡犯送還条例案への反対に関連したもので、五番目の項目は普通選挙権である。左翼や進歩的だと主張する者が、どうしてこれらの要求を支持できないのだろうか?

二〇二〇年九月一〇日
(『インターナショナル・ビューポイント』九月二二日)

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