米国　対外政策におけるバイデンの矛盾

途方もないストレス下の民主党

トランプの危険性は明らかだが…

ダン・ラボッツ

民主党支持者に
打ち込まれた楔

　バイデンの対外政策における矛盾はこの週末、国内外双方で露わになった。フランスのノルマンディーにある米国人共同墓地におけるＤデー80周年に際した演説でバイデンは、西側の同盟国に、「支配を決意している専制者」、すなわちウラジーミル・プーチンとウクライナでの彼の戦争から自由と民主主義を守るためにあらためてともに立つよう訴えた。
　そして米大統領は聴衆に、「われわれは今後も専制者に対決し、悪に対決し、鉄拳による破壊的な残忍さに対決して立ち上がる意志があるだろうか」と問いかけた。ちなみにＤデーは、１９４４年６月６日で、米国、英国、フランス、また他の諸国の15万人の部隊が大挙上陸し、アドルフ・ヒトラーとナチスに対する戦争で潮目を変え始めた作戦の日だ。
　その間、数万人のパレスチナ人とかれらと連携する者たちが、ガザで鉄拳により殺害されたパレスチナ人数千人の名前のリストを掲げてホワイトハウスを包囲した。その名前は、イスラエル首相のベンジャミン・ネタニヤフが無視し続け、越え続けているバイデンのレッドラインを象徴するために、赤い横断幕に書かれた。抗議に決起した人々のピケットラインの表示は「バイデンのレッドラインは嘘だ！」と語っていた。
　一方では米国は征服を決意している独裁者と対決して立ち上がるよう欧州の同盟国を今も元気づけている自由民主主義世界の指導者だというバイデンの主張、しかし他方では米国がパレスチナ民衆に対するジェノサイド戦争を実行中のイスラエルを支えているという事実、この間の矛盾は、われわれがある種重大な選挙を前にしているときに民主党支持者を分裂させているひとつの楔になっている。

イスラエルで
進歩派も分裂

　共和党候補者のドナルド・トランプは、彼のカリスマ的で権威主義的な個性、および米国民主主義を掘り崩す怖れ、またおそらくは破壊する怖れがある彼の反動的な綱領を軸に、彼の党を統一してきた。バイデンのキャンペーンは、大きな部分で民主主義と自由を守るという約束に基づいている。つまり、中絶を選択する女性の自由、投票の自由、労働運動を組織する自由あるいは抗議する市民の諸権利であり、そのすべてはトランプの勝利により脅かされる。
　あらゆるレベルで民主党は途方もないストレス下にある。大きくはバイデンのイスラエル支援が理由だ。
　進歩派コーカスは、イスラエルを抑制するよう、また停戦をもたらすようバイデンに圧力をかけてきた。しかしコーカスそれ自身もまた問題をめぐって分裂した。メンバーが9人の左翼スクワッドはそのうち４人が「米国民主的社会主義者」メンバーだが、バイデンのイスラエル支援政策に関しもっとも批判的な立場をとってきた――とはいえ、バイデン再選を危険にさらす可能性もあると怖れ、大統領を過度に強く批判することには気が進まないでいる――。
　他方、何人かの議員は進歩派コーカスをすでに去っている。それがイスラエルに対し批判的すぎる、と感じているためだ。

共和党は結束
民主党は分散

　ひとは、バイデンの移民政策における言葉と政策間のもうひとつの深い矛盾にも気がついている。移民政策に関する最新演説でバイデンは、トランプと彼自身を区別するために次のように語ったのだ。
――私は決して移民を悪魔視しないだろう。私は決して、この国の「血を汚す」などと移民に言及するつもりはない。私は決して、国境で家族から子どもを引き離すようなことはしないだろう。私は、宗教的信条を理由にこの国から人々を締め出すことはしないだろう。私は、私の前任者が再び職務を占めることになればやるつもりだと言っているような、軍を使って何百万にもの人びとをかれらの家からかれらの家族から離して連れ出し、追放を待つ間拘留センターに置くようなことはやらないだろう――
　これらの言葉が、メキシコ国境で難民申請を求めている移民に関しより厳しい制限を盛り込んだ政策、つまりトランプの政策に大いに似た政策を彼が採用したバイデンの公表の中で語られたのだ。不法移民の１日当たりのレベルが２５００人に達すれば、そしてそれはほぼ毎日起きているのだが、その時国境はかれらに対し完全に閉じられるだろう。
　選挙まで丁度１５０日、共和党は、トランプの最新の重罪有罪宣告にもかかわらず彼を軸に団結している。一方民主党は、バイデンの政治的道義的首尾一貫性の欠如を理由にバラバラになっている。（２０２４年６月９日）（「インターナショナルビューポイント」２０２４年６月９日）　