英国 総選挙に関する声明

「地滑り」を抵抗と再編の闘いへ

ハネムーン認めず直ちに抵抗と闘争の準備を

アンティキャピタリスト・レジスタンス(ACR)

 保守党は完敗し、労働党は「愛なき地滑り」を確保、右翼強硬派のファラージが押し寄せている。

積み重なった悪政への報い

1.圧倒的多数の民衆は保守党の完敗とかれらの面目崩壊を見て喜ぶだろう。かれらは、かれらの史上最大の議席を失った。保守党政府はわれわれに悪政、腐敗、さらに不正直からなる14年を押しつけてきたのだ。
 キャメロンと自民党の緊縮は、何百万人もの暮らしをダメにし、悲惨なものにした。フードバンクは2010年には35ヵ所だったが、2024年、3572ヵ所になっている。われわれの公衆衛生サービス、教育、地方サービス、公益事業、さらに他の多くが、決定的な資金の欠乏状態にされ、私的利益のために略奪されてきた。われわれの川と海は悪臭を放ち、水泳には適していない。その中で水道会社の株主どもは、気前よく報われてきた。
 民衆の健康に対するジョンソンの無感覚な軽視は、新型コロナでの何千人という不必要な死に結果した。いくつかのルールがわれわれに押しつけられたが、政府はそれに従わなかった。彼は保守党の取り巻きに、不適切なPPE(個人用防護具:訳者)を提供するために何百万ポンドも与えた。
 リズ・トラスの極端な新自由主義予算は、何百万人もが、巨額の住宅ローン利子上昇に苦しむことに導いた。ブレグジット断行は成長に厳しい打撃を与え、EUの移動の自由を止めた。
 スナクの番になると、エネルギー価格が高騰し、われわれは何十年の中で最悪な生活費危機を経験することになった。移民、難民申請者、またトランスの人々に対する悪魔視は度を増している。
 少なくともわれわれは一時、そのすべてに責任がある政治家の政治的敗北をゆっくりと味わってよい。トラス、シャプス、モーダント、グリス、リース・モグ、ジェンキンス(いずれも閣僚経験者など保守党有力議員:訳者)は、さらに他の閣僚も全員落選している。スナクは2019年の逆を被り、今回ファラージは労働党ではなく保守党に打撃を与えた。

労働党新政府は資本に奉仕


2.スターマーの新政府は大企業から歓迎されている。エコノミスト、フィナンシャルタイムス、またマードックの新聞は、今回の選挙で労働党を支持してきた。この国を変えることができるように彼が党を変えたとスターマーが語った場合、彼は半分正直だった。権力を身につけるひとつの確かな方法は、ものごとを真に動かしている資本家階級の権力に対する左翼のあり得る挑戦をすべて破壊することだ。
 確かに彼は彼の党を変えたが、しかし「富の創造」をめざす彼の資本との新たなパートナーシップは、この国を多数のために変えることはないだろう。それは、ほんのわずかな者たちのための利益づくりの効率化を助けるだろう。公金は「成長」刺激のために、惜しまずビジネスに与えられるだろう。そしてその「成長」は、賃金と社会的支出改善のために魔法のようにトリクルダウンするとされるだろう。このビジョンが確実に今後実行されるために、企業スタッフは早くも彼の内閣いたるところにはめ込み済みだ。

3.選挙における労働党の大勝利は、資本の権力に対するささやかな左翼の挑戦のどのようなほのめかしにも敵対した、労働党右派と中道派による悪意ある反攻の後に来ている。労働者運動に対するスターマーの支配力は強化されてきた。労働党内におけるコービン的な左翼多数のいかなる再演も水中に没している――そして予見できる未来でもそうだろう――。一時的に、新政府はおそらく、諸労組や左翼との緊張や対立の浮上が困難かもしれないハネムーンの時期に恵まれるだろう。

労働者の闘いは止まらない


4.しかしながらこの結果は、労働党の勝利に劣らず保守党の崩壊なのだ。ひとりのジャーナリストは正しくもこれを「愛なき地滑り」と呼んだ。不公正な完全小選挙区制が労働党の勝利の程度をとてつもなく歪めている。
 今回それは、960万票、得票率で34%を得た。しかしどんな選挙の勝利も妨げたとスターマーが主張したコービンの党は、2017年に1300万票、40%、そしてブレグジットと事実上のジョンソン/ファラージ選挙連合によってねじ曲げられた2019年選挙でも1000万票、32%を得たのだ。
 ウェールズではスターマーに対する熱気はほとんどなかった。事実労働党は、32議席中27を獲得したとはいえ、ジェレミー・コービンが指導者だった2019年よりも15万票近くも票を減らした。エリーやカエラウのような最貧困コミュニティでは投票率が僅か23%だった。
 誰もがスターマー構想に対する熱気の欠如を心に留めている。投票率は約60%で2019年のそれより7%下がっている。労働者の闘いは、この政府との強い一体性がないこうした空気のなかではもっと発展しそうだ。確かに1997年のブレアに対してよりも熱気は小さいのだ。
 しかしながらこの新政府は、公共部門の労働者にまともな賃金を払うつもりはないと、また医療、教育、社会的ケア、あるいは地方自治体の支出の必要をまかなうために富裕層課税を引き上げるつもりもないと、早くも指し示した。今後労働者がこの政府に対しストライキを行うこと、また他の多くが政府の綱領の諸限定に反対するキャンペーンに乗り出すことは、大いにありそうになっている。
 スペインやアイルランドとは異なり、新政府は今パレスチナ国家を認めるつもりはない。労働党左派に対するかなりの票は、新政府のけちくさい政策に対する抵抗には潜在的可能性があることを示している。

公約完全履行の要求から


5.われわれは、この社会自由主義政府の政策に対する抵抗や闘いすべてを支えなければならない。われわれはどのようなハネムーンも認めない。われわれはまず第1に、その非常に限定された計画のいかなる将来の撤回もない即時実行――1日目からの労働者の権利拡大、私立学校や免税特権者に関し彼らが提案してきた累進課税、またルワンダ構想(「不法移民」のルワンダ移送:訳者)の放棄、教育、医療、環境の諸方策――を求める。

6.しかしこれは、政府をもっと急進的な方策を取るよう労働者運動が強要する上での出発点にすぎない。強要すべき方策は以下のようなものだ。
 サッチャーの抑圧立法すべての廃止による労働者の権利の拡大、われわれのNHS、教育、また地方サービスをまかなうための、資産課税と資本利得課税の引き上げ、エネルギーと公益事業の企業を共有企業体にすること、そして、汚染者負担を確実にする方法で気候危機と環境危機に取り組むための、はるかにもっと野心的なエネルギー移行を発展させるために、生み出されたすべての余剰を使うことだ。さらに、子どもふたりの上限、および他の給付上限を即座に取り除き、被抑圧層をもっと十分に保護するために2010年の平等法を強化し、他方で抑圧的な公共秩序法を放棄することだ。
 これらは僅かな例にすぎないが、しかしそうした提案は、これらの部門の労働者の決起と歩を並べて、行動計画の作成に役立つ。われわれは、労働党に圧力をかけるだけではなく、これらのあらゆる問題に関し自立した自己組織化にも挑戦し、それを発展させる。

抵抗の基盤は拡大している


7.昨日の総選挙結果は、300万にも上る票が、労働党のそれよりももっと急進的なグリーンのマニフェストに対して、また左翼の無所属候補者やパレスチナに関し労働党に挑戦した候補者に対して、そのどちらかの労働党の左に立つ者に投じられたことを示している。グリーンはそれだけで6・8%(4%アップ)、200万票近くを獲得、今や4議席を確保している。無所属の親ガザ候補者も4議席勝ち取り、北イルフォードの数議席では労働党の間近に迫った。最後にコービン(今回労働党から公認されず、無所属での立候補になった:訳者)は悠々と勝利した。
 われわれはこれまで議会内にこれほど多くの無所属議員を見たことはなかった。弱体化された左派は今も「草の根連合」、モメンタム、「社会主義キャンペーングループ」のように労働党内にとどまっている。これらの労働党内外の数千人に上る活動家が、エコ社会主義と気候の活動家の運動やより組織化されたネットワークに基盤を提供している。そして後者は、われわれが必要としている変革を推し進めようと、スターマーの公約不履行に抵抗する準備を整えている。
 「すぐ石油を止めろ」や「絶滅反乱」のような緑の運動の直接行動潮流もまた、この政治的空間を占めている。これらの要素すべての予想を超えた大きな成果がわれわれに、勝利感に酔うスターマー政府もいかなる反対派もない形で勢いよく進むことはないだろう、との一定の期待を提供している。
 キャンペーンの開始に際し彼は、英国初の黒人女性議員を投げ捨てようとした。しかし彼は、左翼議員、諸労組、また文化界と連携した草の根のキャンペーンによって止められた。そのような連携が他の問題で構築される可能性はない、というような理由は全くない。議会の圧倒的多数は、議員たちが労働党指導部をものともしないことを容易にする――それらの反乱も政府を倒すことはないだろう――かもしれない。
 すべての評論家と世論調査は、保守党放り出しへの強い願い、およびそれがスターマーと彼の構想に対しほとんど熱気がないことと組になっていることの両者を指摘してきた。人々はしたがって、われわれが想像するかもしれないよりもはるかに早く政府に異議を突き付けるつもりになっているかもしれない。71議席に達した自民党の大成功ですら部分的に、公衆衛生と社会的ケアに適切に資金を回す切望を映し出している。その必要は労働党の限定された支出計画を超えている。

ファラージと闘う者は誰か

8.ファラージのレイシストの改革党は、その晩のスターマーに次ぐ驚きの勝者だった。それは4議席と400万票以上を確保している。その結果は、以前の最高点だった2015年より3%以上上回っている。改革党は三桁の選挙区で、労働党現職区のいくつかを含んで2番手になった。投票後のファラージの主なメッセージは、彼は保守党を追い越し、労働党への主な野党になることをめざす、というものだった。
 かれは、右翼政治の再編においてひとつの役割を演じる位置にいる。それは、保守党の逆向きな乗っ取りを通してか、あるいは伝統的な保守主義と衝突しその基盤と議員の一定部分を味方につけることを通すかのどちらかだ。このプロセスはすでに始まっている。
 それはまたスターマー政府に対する恫喝でもある。ファラージは、大衆的な抗議行動を指導する真の反政府派になりたい、と語ってきた。数百万票に比べ彼の議員の小さな数を前提としたとき、彼は、政治過程からの疎外を感じている彼の基盤の挫折感を利用するうまい位置にいる。
 選挙志向の狭量な理由から労働党は、ファラージは労働党よりも保守党に傷を与えるだろうと考えて、彼に挑戦しなかった。スターマーは、ある選挙区の戦闘から候補者を取り下げることまで行った。労働党は、保守党に劣らず改革党の台頭に責任を負っている。労働党は、移民に関する論争のレイシスト的な枠組みを正常なものにしたのだ。
 ファラージ潮流の高まりに立ち向かうのは、左翼と労働者運動の任務になるだろう。彼の成功はまた、トミー・ロビンソンや他の者たちが率いるネオファシストの街頭のならず者の自信をも強化するだろう。

新政府への抵抗構築推進を


9.環境問題は、今回のキャンペーンではほとんど消えていた。労働党は早々とその「英国エネルギー大構想」キャンペーンを薄めていた。そしてそれを最前面に置かなかった――有権者がそのコストに怯えるかもしれないとの恐怖にかられ――。
 出口調査さえ超え71議席まで跳ね上がった自民党と緑の党両者は、環境を設定課題に載せたことで利益を得た。左翼はエコ社会主義の戦略に基づいて、歩みを引き上げ先頭に立つ必要がある。
 選挙キャンペーンからの他の大きな欠落は、ガザだった。主流政党はそれにほとんどふれなかったが、しかし無所属として立候補した候補者たちがこうしたことを完全に崩壊させた。われわれは、今回の選挙でパレスチナ人の声を聞こえるものにすることに成功したこれらの活動家すべての仕事に敬意を表する。

10.ACRは労働党の社会自由主義に対する抵抗構築に役立つ活動に取りかかるだろう。われわれは、トランスや女性の権利と民主的な権利を擁護し、労働者の生活水準、公共サービスを擁護し、グリーンな仕事への公正な移行と並んで環境と気候の危機に取り組む強力な方策を強要するような、そのためのあらゆるキャンペーンを支援するだろう。われわれは、幅広い運動の中で、労働党主義への戦略的なオルタナティブに向けた基盤を提供できるような、反資本主義的なエコ社会主義潮流の必要を支持する主張を行うだろう。(2024年7月5日)(「インターナショナルビューポイント」2024年7月6日) 

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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