チリ 極右大統領の出現
新たな政治の展開と極右の台頭
オスカル・メンドーサ
チリ大統領選決選投票によって、ホセ・アントニオ・カストが進歩派候補者のジャネット・ジャラに決定的勝利を収めた(58%対42%)。今年3月11日にカストが大統領として宣誓すれば、彼は1990年以後最初の極右大統領になるだろう。
起点はボリッチ政権の改憲失敗
カストの驚くような勝利演説は、政敵たちへの攻撃を控え、「極めて困難な試練……に立ち向かう中での彼女の勇気……そして最後までの戦い」としてジャラを賞讃までして、国民の団結を訴える穏健な調子を印象づけた。彼はまた、現政権の政策からの大きな離脱をほのめかしつつ、人々は変化を求めて票を投じた、とも述べた。
彼は彼の勝利に関し、アルゼンチン大統領のハビエル・ミレイを含む一定数の極右の人物たちから祝辞を受けた。ミレイはXに、右翼が統治するアルゼンチン、ボリビア、エクアドル、パラグアイ、またペルーにチリを加えたラテンアメリカの地図を投稿した。
チリは、カストに対しほぼ10%の差をつけた2021年のガブリエル・ボリッチの勝利から極右の勝利へと、どのようにして動いたのだろうか?
先ずわれわれは、新憲法を保証するためのボリッチ大統領政治の敗北を指摘できる。その憲法は、1990年後の「民主主義のための政党連合」(CPPD)期におけるいくつかの修正を付随したピノチェト独裁に由来する憲法(1980年)を置き換える可能性をもっていた。
ボリッチの勝利に導いた社会的反乱はすでに改憲に向けた国民投票を承認していた。所得配分、医療、教育、また年金の不平等に対する障壁を克服すると思われた新憲法の保証は、改憲の主な任務だった。
しかし最終草案が2022年9月4日に国民投票に付された時、それは62%対38%で完璧に拒絶された。
変わることなく存在した右翼は新憲法反対で懸命に運動した。そしてその勝利は、多数派の右翼代議員にその提案を練り上げることを可能にした。しかしそれもまた2023年12月の国民投票で圧倒的に打ち負かされた。
その時点までにチリ人は、憲法への関心からパンとバター、雇用、インフレ、大量移民、そして公衆の安全というポストパンデミックの諸問題へと動いていた。もちろん、背景で沸騰する不平等、医療ケア、教育、また年金の問題は、常に存在している。変化した政治の空気が、楽観主義とボリッチ政権への信頼の多くを消し去っていたのだ。
そしてその人気も、鍵になる諸問題に取り組む政権の挑戦にもかかわらず、じりじりと下落した。それは、インフレが十分な統制下にある中で着実に成長中である経済の点におけるボリッチの相対的な成功、そしてジャラ労働相の達成成果――最低賃金引き上げ、労働時間短縮、年金改革の実行――をもってしても起きたことだ。
人々は右へと移ったのか?
多数派の右翼メディアによって、「バラバラになっている」チリ、という右翼の物語が毎日押し出された。それは、経済的能力に関する引き続いた攻撃、および「不法移民」と犯罪、主として暴力的犯罪の抑制の失敗によって強さを増した。
2点目は、2025年の選挙に向け、投票が義務化されたことだった。ほとんどの評論家が一致していることとして、普通は政治に無関心、あるいは政治にかかわらないこれらの「強制された有権者」は、たいてい政府に対する不満を表し、ボリッチ政権内労働相で共産党員であるジャラの政敵に票を投じた。
これらの有権者は左翼でも右翼でもなく、かれらのポケットにもっと多くのカネと街頭や屋内での安全を届ける解決策を差し出す政治家を探し続けている。
11月16日に行われた8人の候補者による第1回投票で、ジャネット・ジャラは26・58%を獲得したが、右翼政党の上位3人が過半数を獲得した。うち、59歳の弁護士で極右ポピュリスト政党である共和党指導者のホセ・アントニオ・カストは23・92%を獲得した。カストを含む上位3人の右翼候補者の得票が50%を超えた一方で、人民党の候補者はほぼ20%を獲得した。そしてジャラが人民党支持者を獲得しようと奮闘したものの、そのほとんどは決選投票でカストに投票した。
今回は大統領選に対するカストの3回目の立候補だった。前回は、ボリッチが約10%差で彼を打ち破った。カストの父親は、軍の将校でナチ党員だったドイツから1951年にチリにやってきた。彼の兄弟はピノチェト政権で鍵を握る閣僚だった。
カストは、ピノチェトはもし今も生きていれば彼に投票したはず、と主張したことがある。しかしながら彼は、中絶に対する完全な反対のような彼の非常に極右的な社会的観点に立ってではなく、効率的に統治する準備ができている者として立候補した。事実としてカストの選出は、必ずしもチリ政治における何らかの大きな右移行の印ではない。
カストに立ちふさがる多くの壁
この国は、ボリッチという進歩的大統領からカストという極右過激派へと進むだろう。しかしチリは絶対的に断固として「バラバラになって」いない。そしてその強力な諸制度は公正にいつも通り機能し続けるだろう。
上院での同数、また下院での右翼単純多数であるように、極右の議会を支配する上での失敗は、立法の場合交渉を迫られることになることを意味している。人民党の強力な代表度(14の下院議席)、およびその精力的野党になるという計画は、カストの綱領のより過激な諸方策は進みそうにないことを意味している。
何人かの評論家は、一定数の理由からカスト政権は破綻を運命づけられている、と感じている。犯罪に終止符を打ち、33万人の非正規移民を国外追放するというようなキャンペーンの公約は、実現不可能に見える。他は、勝利の夜に彼がほのめかしたような実利重視のやり方で行動し、犯罪、移民、経済に焦点を絞り、ボリッチ政権が実現した安定性と成長を拡大すれば、彼は好機を得ると信じている。
カストは、彼の選出と3月の就任の間に資格のない移民は自ら国外に出る、という要求を出していた。それは、オーバーステイになっている、あるいは北部国境を越えてきた、ベネズエラ人、ペルー人、コロンビア人、ハイチ人、またボリビア人やアルゼンチン人までに対するものだ。
チリは、その相対的に安定した経済を理由にいわば磁石になっている。これら近年の移民は、この国に家族や友人をもっている。カストは壁を築くつもりと言うが、通りやすく長いボリビアおよびペルーとの国境に沿っては容易ではないと分かるだろう。
ラテンアメリカ中で広がっている組織犯罪との関係では、チリの暴力犯罪率はこれまで、すでに下降しているように見えるとはいえ、上昇してきた。しかしながらチリ人は安全度がより低いと感じ、カストの「容赦のない計画」はある種の鉄拳政策を概括している。
2025年12月13日付けニューヨークタイムズの、エマ・ブロアによる特集「犯罪の波がラテンアメリカ政治を再形成」によれば、カストは先月、エルサルバドル大統領のナジブ・ブケレの治安相と会った。カストと彼のチームには政府の経験がほとんど全くない。そして、より伝統的な右翼政党の著名なメンバーが内閣に加わることに合意しなければ、技術的かつ政治的な過ちはほとんど避けがたい。
カスト自身は妥協に対する乗り気のなさと無注力を売りものにしている。政府内の政治がすべて合意達成に関わっていることを前提にしたとき、大統領としてのカストが、長い間の候補者からどのように違うかを知ることは不可能だ。
極右の台頭を語るのはまだ早い
しかしながら、カストと彼にもっとも近い顧問から、また伝統的右翼の諸個人と前政権の閣僚やその顧問との進行中の会談から、益々はっきりしているように見えることは、1月に公表予定の彼の第1期内閣が右翼の範囲全体から集められるだろう、ということだ。
トランプが立法と執行の「三権」、および共和党のほとんど全面的な忠誠を授けられている米国とは異なり、カストにはそのように贅沢なものはまったくないだろう。彼に忠誠心をもたず、また彼の成功を見ることにも興味がない政治的主体が議会内で相当な影響力を支配し、彼は辛い旅路に直面しそうだ。
何人かの評論家は、今年3月の大統領就任から僅か数ヵ月での大衆的抵抗の復活を予想さえした。筆者は、これには納得していない。ジャラと彼女のキャンペーンを支えた諸勢力の全体が、チリの制度的な枠組み内での、また法の枠内全体での責任ある野党を訴えてきたからだ。
地方自治体と知事を対象とした次の選挙期間が2028年10月に予定されている中で彼の政権は、彼の実績が選挙で公衆の精密検査を受けるまでに30ヵ月を確保することになる。
それまでは、圧倒的な数のチリ人は待機し、彼の成功に全面的に注力した信頼できるカスト支持者が全有権者の4分の1しかいない中で何が展開するかを見守るだろう。私の考えでは、その時はじめてわれわれは決定的で明確な極右の台頭について語ることができるだろう。(出所は「アゲンスト・ザ・カレント」240号、2026年1・2月号)
▼筆者は、社会学者で国際開発・協力の専門家、1973年9月から1975年5月までの元政治犯、1975年以来スコットランドに滞在(最初1987年までは難民として)。(「インターナショナルビューポイント」2025年12月31日)
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