前線の社会主義者が和平を考える(下)
戦争の敗北は極右のチャンスに
戦争の行末が多くのものごとを左右する
話し手:タラス・ビロウス 聞き手:サーシャ・タラヴェル
勝利のもっと早い機会
――ウクライナには戦争のもっと早い時期に勝利のより良好な機会があった、とあなたは考えますか?
確かに、2024年秋まで機会はあった。当時に戻ればロシアが喫した敗北と受けた損害が、エフゲニー・プリゴジンの反乱を促進した(注9)。ロシアの損害がさらにもっと大きかったとすれば、それがさらに体制を不安定化した可能性もある。残念ながら、部分的にウクライナ軍司令部の失策のおかげで、しかしはるかにもっと大きくはバイデン政権とEUの過剰な慎重さのおかげでこれは起こらなかった。かれらは、最初は一定のタイプの兵器の提供を拒否しつつ兵器輸送を間に合わないほど遅らせ、そしてそれらを最終的に提供した時は遅すぎた。戦争が消耗戦に変わるや、われわれの機会は劇的に縮小した。
選挙とゼレンスキーの将来
――クレムリンの要求のひとつはウクライナでの大統領選挙要求だ。ウクライナ当局は近頃これに関する立場を変えたようだが。
それは興味深い。なぜなら、プーチンはゼレンスキーを取り除くために選挙を求め続けているが、他方ゼレンスキーはそれとは違って権力にとどまるために選挙を欲しているからだ。
――彼には勝つチャンスがあるのだろうか?
戦時での彼のチャンスは選挙がその後になるより断然より大きい、まさに今彼には、現実の競争相手はヴァレリー・ザルジニー将軍ただひとりしかいない。戦争は政治闘争を抑止し、人々は自己検閲状況にある。今でさえ、外国のジャーナリストと話して私が受けた印象は、ウクライナ人と交流する時かれらはそのウクライナ人の自己検閲を理解しているが、しかし、ウクライナのメディア内やソーシャルネットワーク上で、当局に対する批判がどれほど多いかをかれらは理解していない、ということだ。しかし戦争後、これははるかにもっと人々に広まり、「われわれはこれほど重い損害をなぜ受けたのか」という疑問が、ロシア内だけではなくウクライナでも急速に高まるだろう。
私はゼレンスキーに戦争後は政治から離れて欲しいと思う。しかし、戦争の終わりまで彼が任期を更新できるなら、彼は確実にそうするのを拒否するだろう。民衆の不満がどんな形を取るかを予測するのは困難だ。
それ以上にこのすべては、政治的考えからだけではなく法的観点からもまずいように見える。憲法に従えば、戒厳令下の選挙は禁じられ、戒厳令期間中の改憲も許されていない。議会が現在準備中の戒厳令期中選挙に関する法案も、違憲と宣言されるかもしれない。さらにゼレンスキーは、法で禁じられている選挙と同時の国民投票を行いたがっている。中央選挙管理委員会は、選挙プロセスを組織するためだけで、戒厳令解除後6ヵ月必要になるだろう、と言明した。しかし政府は、はるかにもっと速度を上げてこのプロセスを実行すると計画中に見える。それでも私は。かれらがこれをどうやるつもりなのか理解できない。
――彼はなぜ国民投票が必要なのですか?
和平の取引に承認を得、責任を社会と共有するためだ。ウクライナがロシアの併合を法的に認めるよう万が一強いられた場合、国民投票が必要になるだろう。しかし、ウクライナ社会も政府もこれに同意していない。国民投票の必要は全くない。それはまさに、厳しい決定実行に対するゼレンスキーの逃げのもうひとつの事例だ。戦争中こうした事例は数多くあり、これが多くの問題を生み出してきた。政府は戦争はまもなく終わるだろうと期待し、そうして手遅れになるまで難しい問題を引き延ばした。わが軍の弱さは今、主要には、米国の軍事援助取り消しにではなく、内部の問題に結びついている。
戦争へのトランプの影響
――戦争の成り行きにトランプの政策はどんな影響を与えましたか?
私は軍事評論家ではない。ひとりの兵士として私が知っていることは前線での私の受け持ちの状況で、もっと全般的な問題は理解していないかもしれない。しかし一般論として、トランプの政策が最大に影響を与えたのは前線の情勢にではなく、後方のウクライナの諸都市にだ。
われわれの米国に対する最大の軍事的な依存は防空にある。われわれは、パトリオットシステムがなければ弾道ミサイルから後方を有効に守ることはできない。トランプの政策は、市民の死傷者における昨年の急激な上昇の理由のひとつだ。われわれのエネルギーにおける現在の悲惨な状況もまたこれに関連している。
前線の情勢の場合、その影響は同じほどではなかった。おそらくもっと大きな影響は、議会の共和党が6ヵ月間新たな軍事援助を妨げた2024年にあった。米国の軍事援助に対する依存は、相当に小さくなり、EUが部分的に埋め合わせることができた。たとえばハイマース(注10)は2022年には極めて重要だったが、今はそれほどでもない。最後にジャヴェリンについて聞いた時も思い出せない。戦場はドローンのために大きく変化している。
ウクライナの戦後政策
――もっと市民の問題に移りましょう。あなたの考えでは、ウクライナの戦後の政治はどうなりそうですか?
先ず、ウクライナの政治が存在するためにはウクライナはそのまま残らなければならない。第2に、答えは大きく戦争の結果、および和平協定の諸条件次第になるだろう。しかし確かに政治は相当に変わるだろう、と思う。
伝統的なウクライナ・オリガルヒは戦争のために大きなものを失った。経済的損失に加えて、かれらの多くは政治的圧力下にいる――最富裕ウクライナ・オリガルヒ10人のうち5人はゼレンスキーの制裁を受けている――。2019年にゼレンスキーの勝利を助けたイホル・コロモイスキーは2023年以後拘留センターにいる。オリガルヒが支配したTVに対する影響力は相当に減退した。同時に、新たな軍需工業複合体が登場し、確実に戦後そこから新たな政治的企業家が現れるだろう。
ウクライナの極右
――ウクライナの極右についてはどうですか?
またもすべては戦争の結果次第になるだろう。それが敗北と受け取られれば、極右は「われわれならもっとうまくやれていただろう」と主張でき、多くの民衆はかれらを信じるだろう。かれらは数年にわたってそうするための相当な象徴的な資本を得てきた。結果が勝利(完全ではないとしても)と受け取られれば、かれらが彼らの軍事的成功を政治的な資本に転換するのはもっと困難になるだろう。
全体とすれば、極右の影響力は戦前期との比較で強まりそうに見える。これは今世界のあらゆるところで起きている。しかし私はこれに100%の確信は置かないだろう。マイダンの後(注11)も、最初はわれわれが極右の台頭を前にしていたように見えた。スボボダは主要な3野党のひとつで、ポストマイダン新政権に入り、ライト・セクターはマイダンに関しもっとも有名な急進的な組織だった。
しかしそれに反して、マイダン後スボボダは退潮し始め、ライト・セクターもその成功を嵩上げできず、アゾフ運動は組織を建設し若者を引きつけるのに数年を要した。それは2019年に一時新しい好機を与えられたように見えたが、代わりに極右は新たな危機に直面した。
また「トランプ要素」もある。ウクライナ極右のある者は2025年までトランプを支持し、今それを理由に批判を受けている。これは、トランプの圧力が保守党の得票を掘り崩し代わって自由党に助けを与えたカナダと比べられてよい。しかし、この影響がウクライナの中でどれほどの意味をもつかを言うのは難しい。
ウクライナ左翼
――ウクライナの左翼についてはどうですか?
事実としてわれわれは全く弱い。他のポスト社会主義諸国同様、ウクライナの反スターリン主義左翼はゼロから始めなければならなかった。しかし、ポーランド、スロベニア、クロアチア、また他の国で新たな左翼が2014年以後一定の勝利を得てきた一方、ウクライナでは、クリミア併合とドンバスでの戦争が左翼を分裂させ弱体化してきた。
2022年の侵攻は異なった影響を及ぼした――再活性化があり、2023年には学生組合のプリマ・ディーア(直接行動)まで復活――(注12)。しかしわれわれの活動は、戒厳令、および多くの経験を積んだ活動家が従軍中という事実によって複雑になっている。何人かはまた前線で命を落とした。たとえば、アナーキストのアーティストのデイヴィド・チチカン、人類学者で雑誌「コモンズ」の寄稿家のエヴヘニー・オシエフスキーなどだ。わが同志で「コモンズ」寄稿家のロシア人アナーキストのドミトリー・ペトロフもまた、ウクライナ側で戦闘し命を落とした。
プリマ・ディーア学生組合の活動は今、極右の圧力のおかげでさらに難しくなっている。戦争の初期極右はわれわれに注意を払わなかったが、2024年に対立が再び起こり始めた。しかし今衝突の条件が変化した。たとえば2024年には、オデッサでの学生の展示を極右が妨害しようとしたものの、アナーキストの退役兵たちが学生の防衛に駆けつけた。昨年は、ウクライナ内ロシア人のネオファシスト指導者のデニス・カプスティンがデイヴィド・チチカンの葬儀に挑発を仕掛けたものの、彼はアナーキストの兵士たちに抑え込まれた。
将来に関する限り、あらためてすべては大いに戦争の結果次第だ。直感に反するように聞こえるかもしれないが、ウクライナが敗北すれば、極右はその影響力を強め、その場合にわれわれは、集団としてはほとんど消えることになりそうだ。左翼の次の世代は再度ゼロから始めることを迫られるだろう。
――いくつかの西側左翼は今なお、2022年に親ロシア諸政党と並んで非合法化されたウクライナ内のソビエト共産党を継承する「旧左翼」について話している。あなたはそれらの問題についてどう答えますか?
私は普通、ナタリア・ヴィルレンコによるレイシスト的広告ビデオを示すだけだ。その者の党はウクライナ進歩社会党と名のっている。経験が示してきたことだが、すべてを言葉で説明しようとするよりも、一度何か実例を見せる方がよい。
EU再軍拡とウクライナ譴責
――現在欧州左翼内部には、防衛と軍事化への政府支出拡大に関し多くの討論がある。あなたのこれに関する考えは?
私は欧州防衛に関する専門家ではなく、まさに今防衛支出が欧州内でどこに向かっているかを正確に理解するための時間も多くもてずにきた。われわれは、ノルディック諸国の左翼と協力している。私には、この話題に関しては彼らが多くの健全な考えをもっているように見える。たとえばかれらは、ウクライナを除くどこに対しても、欧州規模での兵器売却禁止――私の意見ではこれはすばらしい考えだった――を提案している。一般論として、国際的な安全保障は独自の長い話し合いを求める話題だ。
しかし私は、ひとつのことについてコメントしたいと思う。つまりソーシャルメディア上では、これを理由に「再軍拡に反対する欧州左翼のいくつかは、時にウクライナを責めている」と。しかしこれは、いわば犠牲者たたきの議論だ。新たな軍拡競争の理由は、ウクライナの抵抗ではなく、ロシアの侵略だ。ウクライナが敗北すれば、軍事化は強まるばかりになるのだ。
トランプの1年目からの教訓
――最後の質問です。トランプの就任1年目から、国際的に左翼が引きだすべき結論についてのあなたの考えは?
多くの結論があり得るだろう。私は、私にもっとも関係することだけを言いたい。昨年を通じて、反動的な米大統領は「反戦」左翼が求め続けてきたことを行ってきた。それは何に導いたのか? 強まる侵略、もっと多くの市民の死傷者、もっと多くの破壊だ。ものごとは悪化したにすぎない。この状況の中で私は、「反戦」の人々は一定の再考をしていなければならない、と考える。しかし私は今もかれらがそうするのを見ていない。
多くの「反戦」左翼の論理は私に、「われわれがこの戦争を挑発した、そうであれば今侵略の犠牲者をバスから投げ捨てよう」であるように見える。それはトランプ版では「犠牲者をバスから捨てよう、そしてかれらから奪い取ろう」になる。
人道主義的な言い回しにもかかわらず、あらゆる提案は事実上、帝国主義的侵略を前にウクライナを無防備のままに残すことと要約される。今やもう、これが間違ったアプローチであることが明白であるべきだ。1990年代、米国はウクライナを強制し核兵器のロシアへの引き渡しを強要し、われわれを脆弱にした。米国の責任は今、ウクライナを助けることであり、侵略者に報いることではない。(2026年2月24日、「ジャコバン」より)
(おわり)
(注9)エフゲニー・プリゴジンは私有軍事企業のワグネルのトップで、2023年6月にロシア軍司令部に対する短期的な軍事反乱を率い、2ヵ月後乗っていた航空機の墜落で殺害された。
(注10)ハイマースは、特に2022年、西側の対ウクライナ軍事支援の象徴となった多連装ロケット発射装置。その時それは、ウクライナ軍が前線の後方にあるロシアの兵站と指揮所に攻撃を加えるのを可能にした。
(注11)ユーロマイダン抗議(2013年11月~2024年2月)は、最初EUとの提携合意を棚上げするというヤヌコヴィッチ大統領の決定により引き金を引かれた大規模なデモの波。この抗議行動は、ヤヌコヴィッチの打倒と新政権形成で頂点に達した。
(注12)プリマ・ディーアはウクライナのアナルコサンジカリストの学生組合で、最初は2000年代と2010年代はじめに活動し、総力戦の中で2023年に再建された。(「インターナショナルビューポイント」2026年2月25日)
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