南米 地域政治情勢ノート(上)

基本傾向は慢性的な不安定情勢
強まり永続化する衝突状況

アナ・C・カルバルハエス/イスラエル・ドゥトラ

(1)南米とUSA新たな緊張

 トランプ指導の下に、米帝国主義は大陸全体を、単なる影響圏としてよりむしろ直接支配のその領域として見ている――その後退局面の中で、一層猛々しくかつ予想不可能な形で――。ネオファシスト政府の国家安全保障戦略(NSS)の中で数え切れないほど定義された「西半球」は挑発的に、伝統的な帝国主義パートナーだったカナダ、そして何よりもラテンアメリカの全部を含んでいる。それは集団的に裏庭とみなされ、そこから今も支配的影響力をもつ帝国主義は、技術的、経済的かつ地政学的優位を求めて中国ともっと良好に競争するために、自身を政治的かつ軍事的に権利主張するのだ。
 カリブ海への海事関係、海軍、地上兵力の前例がない展開、キューバ封鎖、麻薬密輸という口実の下でのメキシコとコロンビアへの脅迫と圧力(それらが「進歩的」政府に統治されているのはたまたまではない)、そして、大統領夫妻の拉致と前「マドゥロ派」政府との戦略的な石油合意を通した、事実上のベネズエラにおける権力強奪は、トランプ政権下の帝国主義がもつ植民地主義の、およびけんか腰のあからさまに介入主義的な本性を照らし出している。
 われわれはこの覚え書きで南米に取り組む。そこでは、社会の複雑さ、たちの悪い社会経済的不平等、この地域にそれ自身の影響力をもついわゆる「中間的」経済の存在感(ブラジル)、左翼による闘争と組織化の伝統、自由主義右翼よりも卑屈さが少ない政府(たとえば、コロンビア、ブラジル、ウルグアイのそれ)など、帝国主義の介入主義はより多くの障害に直面し、その攻撃をつつましくするよう迫られている。
 チリ、アルゼンチン、ボリビア、さらにエクアドルの政府といった極右と右翼の諸政府により提起される階級闘争の中でのテストと重要な選挙プロセスに照らして、この地域のこれからの数ヵ月における国内的流れを貫く共通性を考えることには価値がある。

(2)力関係の今後示す闘いが今

 米国の現在の世界的状況は、その戦略にいくつもの困難を生み出している。中東戦線(それはNSSが優先と考えていないが、米国外での最強の軍事的攻撃の標的だった)では、米国はイラン体制打倒の目標を、それが想像していたような簡単さではまだ達成していない。
 この行き詰まり(今のところ)、トランプの場合敗北のように感じられているそれは、米国それ自身内部の反民主主義的計画に反対する成長一途の波に加わり、トランプの支配継続に対する危険な組み合わせをつくり出している。さらなる、選挙プロセスに対する米国の介入(アルゼンチンやホンジュラスで起きたような)、クーデター支援、侵略、また新たな反乱―――突如の反転を伴う―を除外はできない。
 今日、キューバはそのもっとも直接的な標的になっている。米国にとっての理想的なシナリオは、ディアス・カネル政権との合意(ラウル・カストロを場外に出すことを意味すると思われる)だ。それを、国際的勝利として国内の有権者に示すためだ。米国に強いられた不足と飢餓を前に、キューバ政府はそうするのだろうか? 答えは空白のままだ。ペルーの決選投票に続く今年のコロンビアとブラジルの選挙もまた、力関係を示すことになるだろう。

(3)永続化する一方の衝突

 南米の政治的光景は強まる(そしてあらゆる指標によれば永続化する)衝突からなるひとつの光景だ。それは、極右政府および米国と連携した諸運動――アルゼンチン、チリ、パラグアイ、およびエクアドルで権力を握り、ペルー。ベネズエラ、コロンビア、さらにブラジルで強力な――と自由民主主義的政治勢力と左翼政治勢力との間での衝突だ。
 南米のネオファシストは、かれらの権威主義的野心とアンクル・サムへの服従を超えて、労働、農業、公衆衛生、環境さらに社会保障の政策における親金融の反改良からなる、超自由主義かつ略奪的な設定課題のもっとも首尾一貫した主唱者だ。こうして、それらが今後、労働者階級、女性、黒人コミュニティ、農民、先住民衆、またLGBTQIAP+コミュニティの全体的利益と衝突することになるのは避けがたい。ビッグテックとそのネットワークのおかげによる文化戦争での強みをもってしても、もっともありそうなことは、この地域の極右による安定化はない、ということだ。
 この亜大陸は、長続きするヘゲモニーの新たなサイクルを確立できないネオファシスト、そしてその「黄金の日々」をよみがえらせることができない「進歩主義」という形で、慢性的な不安定状態にとどまりそうに見える。
 世界的な経済危機の現局面では、天然資源輸出を通してブルジョアジーと諸国家によってつくられた大きな利得――それが、かれらの最初の数任期中南米諸国の異質的なブロックの協調を追求したルラとPTという形で、2000年代と2010年代における「ピンクの潮」の成功の基礎を形成した――が繰り返すことはないだろう。逆に前途に控えているのは、定まった結果にならない結末、相当な2極化、また政治光景における急速な移行に向かう傾向を伴った、とてつもない戦闘だ。

(4)右翼の強化と頑強な対抗力

 社会的闘争の長い歴史があるアンデス地域では、政治的かつ社会的諸矛盾の悪化に向かう傾向がこびりついている。今のところ、力関係は右翼と帝国主義に大きく傾いている。米国の植民地に転換したベネズエラ、フジモリ主義がリードしている選挙プロセスの中のペルー、右翼のノボア支配下のエクアドル、ピノチェト派政権下のチリとの関係では、MAS(社会主義のための運動)の先頃の選挙敗北(2025年)にもかかわらず、ロドリゴ・パス政権に対するボリビアの労働者と農民の反乱は、ネオファシストの波に対する相当な対抗力を表した。
 チリでは、カスト政権の政治的強さはあるものの、学生が早くも大規模な抗議行動を決行した。反政府派は、ネオファシスト政権の緊縮計画と打ち固めへの挑戦に向け再編の途上にある。

(5)ボリビアでは衝突が進行中

 ボリビアのロドリゴ・パス大統領は、着任の僅か数ヵ月後、政府退陣を求める労働者と農民部分と連合の分裂により、5月には守勢に立たされていることに気づいた(MASの選挙敗北を大衆運動にとっての歴史的敗北と見た一部左翼の見方とは逆に、社会運動はその時点で歴史的に敗北していたわけではなかった――とはいえ、16年間いわゆる「変革過程」を率いたMASの断片化は、底辺の者たちにとっては大きな後退だった)。
 大衆はパスに「ハネムーン」を与えなかった。最初の波では、ガソリン値上げ、補助金廃止、大資産課税廃止、公衆衛生と教育の切り下げ、天然資源略奪拡大、という指令に対する驚きがあった。しかし、憎悪の的となった「最強閣僚」のブランコ・マリンコヴィッチが決めた諸方策は議会を通過しなかった。
 民衆的蜂起の現在と第2の波の中で、4月後半の指令が決定的な役割を演じた。それは、1952年革命から引き継いだ農地革命を逆転しようとしたのだ! そしてそれが農民を憤激させた。これに、賃上げ交渉に対する政権の拒絶に関する賃金労働者の不満が加わった。5月16日の死者4人を出した残忍な弾圧は労働者と農民の怒りにエネルギーを与えただけだった。70個所以上の道路封鎖があり、COB(ボリビア労働者組合)と農民組合が組織した行進によるラパズ占拠があった。
 農民、教員、運転手、鉱山労働者(賃金労働者と協同組合メンバー)、学生、そして下水設備労働者を動員する都市の闘争と農民反乱の組み合わせは、前世紀の大蜂起――1952年の革命から2000年代始めのガス蜂起まで――の諸特性をそっくり再現した。その期間の中では、1970―同71年の人民総会、1980年代の反独裁闘争、シレス・スアソの年月(1982年―同85年)における政府・COBの二重権力、1985年の鉱山労働者蜂起、エボ・モラレスの早期(2006年―同10年)における多民族国家を確立した憲法制定会議を守る闘いがあった。
 帝国主義と当地ブルジョアジーはこの歴史を知っている。そしてこれこそが、運動の幅と急進主義を懸念した理由だ。
 反応は迅速だった。米国務長官のマルコ・ルビオは反パスクーデターについて発言し、サンタ・クルスの右翼は「市民行進」を呼びかけ、OAS(米州機構)に民主的な法の支配(要するにパス政権)を防衛する声明を出すよう圧力をかけた。そして政府は、対立の調停を申し出ていたペトロのコロンビアと関係を断った。
 この進行の結果は、流血の犠牲を払っても反動的な解決を追い求める動きの中での指導者に対する暴力的弾圧を付随して今も進展中だ。いずれにしろこの国の歴史は、「歴史的な」敗北を早まって宣言することに忠告を発している。(訳注)

(6)ペルーで長引く国民的な危機

 ペルーでは、ブルジョア政治システムが、この間の相対的な経済的安定にもかかわらず、少なくとも30年だらだら長引いてきた「国民的危機」(レーニン的な意味で)のさらにもう一つの章を経験中だ。6月7日に予定された今年の大統領選決選投票は2極化するだろう。最初の頃の世論調査は、元独裁者の娘でペルー右翼の最強の代表者であるケイコ・フジモリと、元大統領のカスティジョと中道左派の伝統につながるロベルト・サンチェスの事実上の拮抗を示している。両者共に約38%を確保している模様だ。
 第1回投票の結果は、投票集計から1ヵ月後まで確定されなかった。古典的な極右候補者が票の集計に異議を出し、それが、極度に接近した二位の結果に照らし不正を言い立てる中何週間も長引いてきた。棄権、白票、また無効票の全体が有権者の39%を占め、単一の政党が得たもののすべてをしのいでいた。
 ケイコは有効票の17%で決選投票に進み、サンチェスは約12%を確保した。諸政党の断片化(大統領候補者は何と37人!)は、カスティジョの転落と投獄後の政治的ヘゲモニー確立の困難さを映し出している。
 深刻に腐敗した資本家統治、故アルベルト・フジモリと自死したアラン・ガルシアを含んで、投獄を宣告された7人の元大統領(内4人は今も収監中)を前提に、近頃の地域平均よりも相対的に高い経済的成長も、国の安定化には不十分になっている。
 2023年の反乱は、ボルアルテ(ペドロ・カスティジョに対するクーデター作戦の指導者)政府による弾圧を通して「解決された」。しかしながら混乱に終わりの保証もはないままだ。この全体の流れの中で、決選投票は国を地域的にも分断して高度に国民投票的な性格を帯びるだろう。
 問題になるのは、彼が受けた迫害にもかかわらずカスティジョの強さ――「ディープ」ペルーと教育を求める闘いを代表する――が散り散りになっていないシナリオの中で、フジモリの記憶になるだろう。ケイコの勝利を阻止するために、特に若者内の民主勢力が十分に決起するか否か、をよく見ることが必要だろう。この章の結果は、この国と地域の民衆的抵抗と、信用を失った1993年憲法に謳われたフジモリ主義を完全には克服していない体制間の、もっと大きな戦闘の一部だ。
(つづく)
【訳注】現在進行中のボリビア民衆の闘いへの第四インターナショナル執行ビューローによる連帯声明は本紙HPに掲載。

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