米国 ワシントンDCへの軍展開

次を狙うトランプの小手調べ

マリク・ミオー

首都の治安を政府権限下に

 トランプは、8月10日の記者会見における長ったらしい大言壮語の中で、この国の首都であるワシントンDCは「暴力的なギャングども、血に飢えた犯罪者、無法な若者たちのうろつき回る暴徒たち、麻薬漬けの者たち、さらにホームレスにのっとられている。しかしわれわれは、これ以上これを甘受するつもりはない」と主張した。
 彼が「無法な若者」と言葉を選ぶ時、彼がそれで黒人の若者を指していることは誰もが分かっている。「高度な犯罪地区」によって彼は黒人コミュニティを指している。
 次いでトランプは、首都への州兵派遣という形で、米国の都市に対する異常な連邦権限行使を命じた。彼は、この市の警察を連邦の支配下に置き、150人のFBi要員、50人の連邦執行官副官、さらに麻薬捜査局とアルコール・タバコ・火器・爆発物局の要員を含む、5百人の連邦執行官を配置した。
 ある者はパトロールの任務に着き、他の者は、「高い犯罪」かつ高い不正取引の地域で誰にも見える存在になるだろう。かれらは最初の晩に23人の住民を検挙し、その週末の夜には68人を逮捕した。連邦法の下ではこの行動が議会の承認がなければ30日間しか続かないため、トランプは、議会がそれを延長しなければ国家非常事態を宣言するつもりだ、と豪語した。
 トランプは、この派遣をこの都市を「解放」し、それを「再び偉大に」するためのもっと幅広い努力の一部だと説明した。実際彼は、この都市を再び「美しく」つくり変えるつもりだと主張している。

首都市長による反撃の呼びかけ


 驚きではないが、彼は他の都市への部隊派遣を約束し、特にシカゴ、ニューヨーク、ボルチモア、オークランド、カリフォルニアを挙げた。これらの都市のすべては、黒人市長を選出し、大きな部分になるアフリカ系米国人住民を抱えてきた。
 かつて「チョコレート・シティ」として知られたワシントンDCは、何十年もの間黒人政治家によって運営されてきた。ここでは、29万772人の住民をもつアフリカ系米国人は最大の人種グループで43%になり、この市の白人住民を約4%上回る(別の15%はさまざまな民族的背景をもつ非白人の民衆だ)。
 DCの市長であるムリエル・ボウザーや他の当地の職員たちは、今回の接収について告げられることはなかった。彼らはそれがテレビで発表されるのを聞き、見守った。
 ボウザー市長は、ソーシャルメディア上のリアルタイム市役所で演説し、コミュニティのメンバーに「われわれの市を守ること、われわれの自治を守ること、われわれの本拠のルールを守り、この男の別の側を支え、民主党下院を確実に選出させ、その結果としてこの権威主義者を押しのけるための支えをもてるようにすること」を強く促した。
 さらに彼女は「われわれは70万人の人間のクズ袋でも役立たずでもない」「われわれはブルドーザーで潰されなければならないような居住区を抱えてはいない。われわれは、われわれが何者か、この市のために何を欲しているか、われわれの物語について明確でなければならない」と付け加えた。
 米司法長官のパム・ボンディは先頭で突き進み、麻薬取締局長官のテリー・コールを「非常警察長官」に据えた。市は告訴した。管区裁判所判事のアナ・レイエスは、諸々の関係者――トランプ、ボンディ、また司法省を含む――に、DCの役人たちとひとつの計画を練り上げるよう命じた。トランプ政権はその後、ボンディの指令を無効にした。

黒人攻撃を前に自己統治が必要に


 これは、「大都会の警察を連邦化する」ために、ひとりの大統領がコロンビア特別自治法――DCは州ではない――740条を使用した最初の例だ、イースト・カロライナ大学の刑事司法・犯罪学学科長のハイジ・ボナーはこう語った。
 DC住民はかれら自身の政治家を選出し、かれら自身のマネーを調達しているとはいえ、それでも議会が市が頻繁に使っているこの市の政策に対する権力をもっている(DCの民衆は下院には投票権のない代表をもっているが、上院では発言権が一切ない)。
 DCの状況は比類がない。この市――州の地位をもたない――が連邦の介入に例がないほど脆弱だからだ。しかしそれはトランプに、権威主義に向かう道筋上での小手調べの機会を与えている。そして国中の民主党市長は、彼の法と秩序の権力強奪拡大に反対しすでに警告を発している。
 シカゴ市長のブランドン・ジョンソンはひとつの声明の中で「州兵の派遣はただわれわれの市を不安定化し、われわれの公衆の安全に関する努力を掘り崩すことにのみ役立つだろう」と語った。
 ボルチモア市長のブランドン・スコットは「問題がボルチモアにおける公衆の安全になる場合、彼は右翼的プロパガンダを止め、事実をよく見なければならない。ボルチモアは、50年以上そうであったように最も安全だ」と反撃した。
 長期にわたるアフリカ系米国人の元議員で新たにオークランド市長に選出されたバーバラ・リーは「オークランドに対するトランプ大統領の特徴付けは間違っている。そして安っぽい政治的得点稼ぎのもくろみとしての恐怖ばらまきに基づいている」、とX上に書いた。
 影響力のあるホワイトハウススタッフ幹部でよく知られた白人至上主義者のステファン・ミラーは4月11日、証拠もなくツイートし、「青の大都市(青は民主党のシンボルカラー:訳者)の犯罪統計はフェイクだ。真の犯罪、混乱、機能不全の比率はもっと高い水準だ。この地域に暮らす誰もがこれを知っている。かれらは、その中で全生活を計画している。民主党は文明をバラバラにしようとしている。トランプ大統領はそれを救うつもりだ」とレトリックの度を高めた。

次は白人共和国への回帰に?


 批判者は、特にいかなる非常事態もないのだから、トランプの動きを「厚かましい権力強奪」と呼んでいる。事実、DCの犯罪は減少中なのだ。
 トランプは、国家安全保障への懸念を理由に執行部局が大統領が好むままに行動する権限をもっていると固執している。そして彼に反対する判事たちを攻撃している。
 それ以前にトランプは、知事の反対を押し切ってロスアンゼルスにカリフォルニア州兵を展開した。ニューサム知事は、命令に異議を突き付け、それは憲法修正10条と連邦法に違反していると強調した。1878年に採択されたポッセ・コミタトゥス法は、市民に対する法執行への軍の関与を制限しているのだ。サンフランシスコの裁判所が今この件を審理中だ。
 連邦のこの権力逆転パターンにおける度の高まりは、執行、立法、司法の三権間の権力バランスを永久に変える可能性もある。それはまた、地方の法執行に対する連邦の統制に向け危険な前例を作ってもいる。

草の根の非暴力抵抗組織化を


 トランプが白人至上主義者かつ民族主義者だ、ということが真実だ。彼は、黒人と他の被抑圧民族的マイノリティ、また女性が劣位に置かれるような白人共和国への回帰を追求している。これこそが、「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」に込められた彼の意味だ。
 DCの接収は、トランプのゲリマンダー化や多様性・平等・包摂(DEI)への攻撃同様、この国の住民としての黒人と他の人種的なマイノリティの代表権を一掃することを狙いにしている。彼が国は1776年に、つまり米国先住民が殺戮され、黒人が奴隷だった時に戻らなければならないと言う時、彼は、学校や大学や博物館にかれらに関する肯定的な言及があってはならない、と言っているのだ。
 トランプが州兵を送った後、ロスアンゼルスでは移民の権利活動家たちが先導するコミュニティグループが反攻を組織し始め、今もそうし続けている。
 かれらは今、マスクで顔を隠したICE(移民・関税執行局)移民警官やその相棒たちと衝突したり、かれらをビデオで撮影したり、行方不明になっている移民を助ける弁護士を確保したりを含むさまざまな戦術を使っている。かれらは、民主党の既成エリートや被選出の公職者たちを当てにしていない。
 アフリカ系米国人は、住民のいかなる他の部分よりもこれをもっとうまくいかにやるかを理解している。投票権を勝ち取るためには何年もの大規模な公民権運動を必要としたのだ。
 ロスアンゼルスのモデルはわれわれにその道を示している。市民的不服従の利用をも含む、組織された非暴力の大衆的抗議活動が計画されなければならない。(2025年8月19日、「ソリダリティ」より)
▼筆者は退職航空整備士で、労組とアンティレイシストの活動家。アゲンスト・ザ・カレント誌編集顧問でもある。(「IV」2025年8月23日)

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