寄稿 住宅の権利求める市民運動
こんな生活 耐えられない
ポルトガル全土に広がる抗議
本多洋介(ポルトガル在住)
ポルトガルのポルトで10月10日に始まった住宅の権利を求める抗議運動は、瞬く間にポルトガル全土に広がった。9月末に国会で議論されたばかりの新賃貸法をめぐって、苦しい生活や不平等を強いられている人々の声が、ポルトガルを揺るがしている。
住むための
家こそ大事
10月10日、住宅の権利を求める運動や社会運動団体、労働組合などで2023年4月に作られた「住むための家を」運動の呼びかけで、ポルト中心部にあるドン・ジョアン一世広場に1500人ほどが集まり、「こんな生活はもう耐えられない!」と題した集会を行い、住宅の権利を求める抗議のキャンプが始まった。
国会で新賃貸法の詳細審議に入ることが投票で決定された10日後のことで、隣国のスペインのマドリードで、家賃の大幅値上げで住むことができなくなり長年住んだ家から強制排除されたマリカルメン・アバスカルさんが亡くなった2日後のことだ。
ポルト市はキャンプ開始から3日後の10月13日、公共のスペースが不適切に占有が行われているとして市警察がテントを撤去したが、グループは広場にとどまり、テントなしで抗議の行動を続けた。
ポルト市は14日、広場でのテント設営を絶対に認めないと述べ、翌15日の早朝午前3時前、メディアが広場から立ち去った直後に武装したPSP(公共治安警察)がテントを強制撤去した。この混乱の中で参加者37人が負傷、うち2人が入院するという警察による暴行が行われた。
この出来事に首相は「エゴイストにならずに公共の秩序を守れ」と発言、内務大臣は警察の行動を正当化する発言を行った一方で、大統領は「抗議している人々の懸念をよく理解している」と述べ、すべてが法を尊重して行われるようにと呼びかけた。
その日の夜、キャンプを支持する2500人を超える人々が広場に集まり、住宅の権利問題は一気にポルトガルの最大の社会問題となった。
16日夜、グループは参加者の投票で再び広場にテントを設営することを決めたが、ナイフを隠し持った右翼組織の構成員とみられる人物が複数紛れ込んでいることが確認されたためにテントを撤去してこの日は解散、翌日から再びキャンプを続けることを決めた。
17日の土曜日には全国三カ所でCGTP(ポルトガル労働者総同盟)による、生活費の高騰に抗議する行動が行われ、ポルトではこのCGTPのデモに「住宅のためのキャンプ」グループも参加。デモの解散地点に設定されたキャンプ地の広場にグループが到着すると、すでに集会を行っていた参加者から大きな拍手が送られた。CGTPの集会後、グループは再び広場でキャンプを行うことを決め、テントが設営された。
また、首都リスボンでもCGTPの抗議デモ終了後、住宅の権利を求めるキャンプが中心部のロッシオ広場で始まった。
18日はポルトとリスボンで抗議のキャンプが続けられた。またポルトのグループは、スペインの住宅の権利を求めてキャンプを続けているグループが11月11日に計画しているゼネストを共同で、イベリア・ゼネストとして行うことを決めた。
19日、ポルトのグループは12月31日まで抗議行動を続けることを市に通知、リスボンのグループも行動を続けることを決めた。
国会では、与党系の政党が住宅問題に関する緊急討論を要請したが、議長はこの要請を無視。また内務大臣は、警察は法の範囲内で行動するが、誰も法に違反してはならないと強調する発言を行った。
20日早朝の午前6時、PSPはポルトとリスボンでキャンプを再び襲った。リスボンでは参加者が55人逮捕された一方で、ポルトでは混乱を避けるためにテントを自主的に撤去。これを受けてポルト市長は「市内の民主的正常化が行われた」と述べた。
この事態を知った数千の人々が、その日の夜7時、ポルトとリスボンのそれぞれの広場に集まり警察の介入に抗議、ポルトでは「テントがあろうとなかろうと、ここで抗議を続ける」とし、リスボンでは再びテントを設営してキャンプを継続することを決めた。
また各地でも多くの人々が集まってポルトとリスボンの運動に連帯して、それぞれの地で運動を始めることを表明、北部のブラガ、中部のコインブラとレイリア、南部のエボラ、ファロなどでも住宅の権利を求める行動が始まった。
24日土曜日、全国各地で住宅の権利を求める抗議行動が行われた。ポルトではこの運動が始まって以来最大規模のデモと集会が行われ、年齢を超えた多くの人がデモに参加。夜7時過ぎから広場で行われた民衆集会で、広場に再びテントを設営して抗議を続けることを決め、直ちにテントが設営された。
リスボンでも2万5000人がデモに参加し、市内中心部の広場にテントを設営してキャンプを続けることを決めた。
そして25日早朝午前2時、再び武装PSP部隊が広場に展開し、キャンプを防衛するために平和的にピケットを張っていた1000人を超える人々を強制的に広場から排除した。この混乱の中で6人が逮捕され多くの負傷者が出た。リスボンでも同時刻にPSPがキャンプを襲い、多くの逮捕者と負傷者が出た。
ポルトのグループは25日の夜、再び広場に集まって抗議の行動を続けることを決め、夜7時からの民衆集会で今後の方針について討議して決定することにしている。
あふれる観光客と
家賃の高とう
ポルトガルは今、欧米の人々の観光目的地の一つとして注目を浴びており、一年中観光客で溢れかえっている。彼らの多くは民泊に泊まっており、市内中心部のアパートの多くが短期賃貸物件として利用されている。そのためリスボンやポルトなどの都市部のアパートの家賃は高騰し、平均収入を超える事態となっている。
また、政府が優遇する投機ファンドや非居住者による投機目的の住宅建設や購入の結果、2015年から2024年にかけて住宅価格は124%上昇(EU平均の2倍)、今年は対前年比で住宅価格が16・5%上昇、アパート価格は21%上昇しており、中間層の人々は住宅を購入することが難しくなっている。
ポルトガル銀行によると現在30万戸の住宅が不足しているが、統計によるとポルトガルには72万3000戸の空き家があるという。そのうち、住む人の受け入れ準備ができている住宅はほとんどなく、これら住宅の所有者たちは私有権を主張し、貸し出そうとしていないケースが多いという。また公共住宅も建設が進んでいない。
特に若者は、住む家を借りたり購入できず、ポルトガルでは平均28歳まで親と同居しているという。EUの他の国と比較すると2年以上長いという。
新賃貸法
案の内容
そういう状況の中で、政府は9月30日に新賃貸法案(新都市賃貸借制度)を国会に提出、投票の結果、第一野党の極右政党シェガの棄権により、立法化のための審議に入ることが決まった。賛成したのは政府与党(社会民主党、 民主社会中道・人民党)とIL(リベラル・イニシアチブ)。その他の野党は反対票を投じた。
この政府提案は、年2%までに制限されていた家賃引き上げ制限を撤廃して無制限の引き上げ、家賃未払い時の立ち退きの手続き期間を2カ月に短縮、家主は入居時に家賃3カ月分まで請求できるように増額し保証金の制限を撤廃、家主の物件再投資への税制を優遇など、家主に有利な内容になっている。議論されていた空き家の強制賃貸化は盛り込まれていない。
住宅の権利
を求める
住宅の権利を求める運動は、このような状況の中で始まった。
運動が要求しているのは、
1 新賃貸法の撤回
2 代替住居のない人々に対する立ち退きの停止
3 不動産ファンドによる住宅取得の停止
4 公営住宅の増設
5 居住目的で空き物件を再生する公的取り組み
6 家賃の上限設定
の6項目。
市民立法
イニシアティブ
ポルトのグループは現在、憲法で定められている「市民立法イニシアチブ」を利用して、これらの要求を立法化する運動を開始し、人々の声や提案を受け付け始めている。
また国会では、極右政党シェガを除く全野党が、新賃貸法の撤回を求めるための議論を始めている。
まだ未確定だが、11月にはゼネストを含めた様々な抗議行動が行われることになっている。 (26年10月25日)

10月24日ポルトで行われたデモ:様々な年齢の人々が繁華街をデモ

10月24日ポルトで行われたデモ:様々な年齢の人々が繁華街をデモ

10月24日のデモ終了後、ドン・ジョアン1世広場に溢れる人々

10月24日、再びテントを設営することを決めた民衆会議

10月24日、再び設営されたテント

10月25日午前1時、武装警察の介入を阻止するためのピケット
The KAKEHASHI
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