セルビア:民衆に敵対するEU
学生の自転車キャラバン
他方マクロンは独裁者迎える
ジャン・アルノー・デレンス
セルビア民衆に対する挑発
前例のない規模の社会運動から挑戦されたセルビア大統領のアレクサンドル・ヴチッチが、4月9日エマニュエル・マクロンとのワーキングランチのためにパリに招き入れられた。これは、百人の学生がストラスブールに向け自転車で向かっている中で、セルビア内で挑発と受け取られた姿勢だった。
ヴチッチは、「セルビアを好んでいない少しばかり多い人々を悩ませる」ために、「2、3日中にエリゼ宮に」向かっているだろう、と4月6日に公表した時笑みを浮かべていた。彼は、彼が好んでいる際限のない国民向けテレビ演説のひとつで、ジュロ・マカット博士(内分泌学者:訳者)という全く無名の名前を手品のように取り出すことによって、早期選挙の可能性を除外したばかりだった。ちなみにその者は、1月末に辞任した首相が「犠牲」にされたことを受けて新政府形成の任務を与えられたが、この国を今揺るがし続けている抗議の波を静めていない。
マクロンの招待は、3月30日の二人の男の間で行われた電話会談の中で出されたと伝えられている。しかしそれは、およそ百人の学生がストラスブールまでノヴィ・サドから自転車で向かうため4月3日に出発した時、本物の挑発として現れた。ちなみにその到着地にかれらは、かれらの要求をEU諸機関に提出するために4月15日に到着予定だ。
民衆の支持とEUの冷淡さ
「欧州を目覚めさせるための」この1400㎞になる長い行路の中で、かれらはブダペストおよびウィーンでヒーローとして歓待された。ヴィクトル・オルバン(極右のハンガリー現首相:訳者)の政敵であるハンガリーの首都の市長は、セルビア人国外離散者に合流した。オーストリアの首都では、あらゆるバルカン諸国の国外離散者が学生の自転車乗りを励まそうとマリー・テレーズ広場に集まり、かれらの国すべてで「腐敗が人を殺している」ことを思い起こさせた。
昨年11月1日のノヴィ・サド鉄道駅における天蓋崩落の悲劇で火が着いた運動の始まり以来、セルビアの市民社会は繰り返しその沈黙を理由にEUを批判してきた。3月20日、ベオグラードで組織され、警察による極めて強力な武器の使用を特徴としたこれまでで最大のデモの5日後、拡大担当のEUコミッショナーであるスロベニアのマルタ・コスがブリュッセルでヴチッチを迎え入れ、会談は「建設的」になったと言明したことで、ひとつのスキャンダルが引き起こされた。市民の意見がセルビアの学生に対し極めて支持的なスロベニアとセルビア両国における怒りの高まりにを前に、当のコミッショナーは、彼女の役割では当局者以外の「誰か別の者と話すわけにはいかなかった」、と説明しただけだった。
現実にEUは、「暴力の回避」という僅かの言葉上の呼びかけを別にして、危機の始まり以来沈黙を守ってきた。2、3ヵ月前のジョージアに払われた注目と対照的なこの沈黙は、セルビアの体制に対する支持に等しい。しかし、そのような独りよがりはなぜか?
バルカンに提供する実のある拡大の見通しをもはやまったくもっていないEUは、ただひとつこの地域の「安定」に今は賭けている。そしてその安定をEUは、セルビアの体制のような権威主義体制に対する不変の妥協によっての方がうまく保障される、と信じている。そしてドイツはドイツで、セルビアのリチウム埋蔵を切望している。しかしながら、今住民から強く異議を唱えられているその採掘を保障できるのはヴチッチの体制だけなのだ。
経済的利害と古い友好関係
フランスはフランスで、昨年8月末、僅かな30億ユーロで最新鋭ジェット戦闘機のラファールをセルビアに売却する契約に署名した。この航空機はまだ届けられていず、支払いもない。そして、ベオグラードがそうした総額を見つけられるかがはっきりしていない以上、それらの契約が今後実行されるかも不確かだ。その時点でエリゼ宮が説明した議論を裏づける要点は、セルビアを西側陣営につなぎ止め、ロシアから距離を取らせる必要がある……、ということだった。
これは、2022年の大規模な対ウクライナ侵略の始まり以来フランスが強くこだわって追及してきた戦略だ。セルビアは対ロシア制裁を行っていない唯一の候補国(EU加盟の:訳者)だが、彼の最良の友人は西側にいるだろう、と彼を説き伏せようとするためには、その悪賢い指導者に「あらゆるものを与える」ことが必要になると思われる。現実に、売却の約束はその現実性を信じたがっている者たちに委ねているだけであり、これらの実現していないラファールのおかげで、パリを束縛下に置いているのはベルグラードなのだ。
経済的利害は戦闘機に限られているわけではない。この何年か、フランスはセルビア内で相対的に意欲的な経済外交を行い続けてきた。たとえばヴァンシ(世界百ヵ国に進出しているフランスの建設会社:訳者)は、ベルグラード空港を獲得し、パリはその獲得を夢見ているセルビアへの原発売却を夢見ている。またフランスの技術コンサルタントのエジス社は、予備的調査を行うことを、セルビアの鉱業・エネルギー省からすでに委託されている。ところがこの同じ企業は公式に、ノヴィサド鉄道駅建設では技術監督に関与していたのだ。
マクロンは、パリでヴチッチを迎え入れることで、住民に圧倒的に拒絶されている体制を支持する点で、他のEU諸国すべてよりももっと先に進もうとしている。それは、経済的利害や安定性への強迫観念によっては説明され得ない。
マクロンは、2019年と2024年の僅かのセルビア語を時折言い間違えさえした2回のセルビア公式訪問以来、彼の相手であるヴチッチおよびフランス―セルビア友好関係という昔の幽霊に熱を上げるにいたったように見える。後者は、第一次世界大戦に遡り、何よりも一定の極右界隈で磨かれてきた。
セルビアの学生たちはこの歴史をよく知っている。しかし、かれらが「タモ・ダレコ」という古い歌(第一次世界大戦中、非常な打撃を受けながらアルバニア経由でセルビア軍が撤退したことを記念して、2016年に作曲されたセルビア民謡)を歌うとしても、そしてそれは今回の紛争から始まっているのだが、公正と真実を求めるためなのだ。(フランスのウェブニュースである「メディアパート」からIVが訳出)
▼筆者は「メディアパート」のジャーナリスト。(「インターナショナルビューポイント」2025年4月14日)
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
・購読料 1部400円+郵送料
・申込先 新時代社 東京都渋谷区初台1-50-4-103
TEL 03-3372-9401/FAX 03-3372-9402
振替口座 00290─6─64430 青年戦線代と明記してください。


