当地の左翼運動の中でのバングラデシュ共産党ML

運動と行動を通した民衆の対抗ヘゲモニー創造を追求

パサク・ラル・ゴルダー

 バングラデシュ共産党(ML)は、この間、第四インターナショナルとの連携を深め、二〇一〇年、一一年のIIREマニラ学校に代表を派遣した。同党は、一五〇万人の組合員を擁する農民組合を指導している。ヴィア・カンペシーナ(「農民の道」、国際的な農民運動組織)に加盟する同農民組合(バングラデシュ・クリショク連合、バングラデシュ・キシャニ・サバ)は昨年一一月、気候変動、ジェンダー公正、食糧主権を焦点に据えた全国キャラバンを行い、大きな成功を収めた。バングラデシュ共産党(ML)は、さる二月末にアムステルダムで開催された第四インターナショナル国際委員会にも参加し、同会議で第四インターナショナルの常任オブザーバー組織として承認された。以下に掲載するのは、昨年八月の仏NPA(反資本主義新党)夏季学校で同党のパサク・ラル・ゴルダーが行った発言である。(「かけはし」編集部)

革命的左翼の過
去と現在の概観


 バングラデシュ(以前の東パキスタン)は、インド亜大陸の革命運動の歴史において、とりわけ良く知られている。反英闘争の前線に立った多くの進歩的・革命的指導者たちがバングラデシュに住んでいた。一九六〇年代、七〇年代には強力な革命運動潮流が存在していた。この時代、左翼潮流はバングラデシュの全国政治に影響力を持つことができた。バングラデシュの社会的・経済的・文化的分野で、労働者、農民、勤労民衆を代表する左翼ヘゲモニーは注目すべきものだった。消費者的資本主義の精神に対抗する巨大な(批判的)献身を伴った共産主義イデオロギーは、大きな広がりを見せていた。多くの人びと――財産への愛着を放棄したきっすいの資本家家族の一員さえも――革命政治と運動に加わった。
 しかし現在、そのシナリオは全く別のものになってしまった。きわめて小さな左翼潮流を別にすれば、支配階級も野党勢力も、ブルジョア社会の消費者的資本主義の思考の遺物となっている。こうして左翼の革命的政治は、バングラデシュの主流派全国政治に後れをとっている。

バングラデシュ
共産党(ML)


 パキスタンの束縛から抜け出した独立バングラデシュは、多くの財政的困難とブルジョア指導部(内部)の危機を抱えて動き出した。解放戦争の精神はブルジョア指導部によっては実行されないことを理解していた東パキスタン共産党の指導グループは、新思考の路線と戦略をもって共産主義革命政党を形成するために努力することになった。こうして異なった思考を持つ独立した共産党として、一九七六年にバングラデシュ共産党(マルクス・レーニン主義)が結成された。
 党は、現存する他の左翼政党とは異なる思考と行動という意味で、「異なった思考」を掲げることになった。たとえばCPB―ML(バングラデシュ共産党[ML])は、党組織よりも大衆組織の建設に最高度の優先性を与えるよう強調する決定を行った。
 党指導部が建設した強力な大衆的基盤を持つ組織があれば、党指導部は革命的党活動を遂行することができるだろう。そこで、党は党としてではなく、党細胞として機能することになった。そこでこの目標の実行のためにバングラデシュ・クリショク連合(BKF)と呼ばれる農民組織を建設した。BKFが急速に拡大したために、党はいささかの成功を収めた。バングラデシュのさまざまなエリアと地域に基盤を持つ強力な組織が建設され、土地占拠運動を含むさまざまな要求を持つ運動が始まった。後には、連携しあう別の七つの組織が作られた。

ヘゲモニー思想
土台に路線設定


 CPB―MLが原則として保持しているのは、一九三〇年代におけるイタリア共産党の指導者だったアントニオ・グラムシのヘゲモニー思想である。党は、グラムシの思考はマルクス主義の創造的発展だと思っている。そこで党は、社会、経済、文化、心理の面でブルジョアヘゲモニーに抗する労働者・農民・勤労民衆の対抗ヘゲモニー創造のために、運動と行動を作り出している。

環境社会主義
概念を指針に


 CPB―MLは、ヘゲモニーを革命の前提条件と考えている。先住民族、有機的知識人、とりわけ農村知識人をふくむ勤労大衆に属するサバルタン階級(訳注:グラムシに発する概念で、ヘゲモニーを握る権力構造から排除された従属的社会集団の意)を組織することで、党は全国において諸権利のための闘争を強化する努力を行っている。また党は、党の指導的役割に加えて、ヘゲモニー的革命における触媒的役割を担う歴史的ブロックの建設にも力点を置いている。この闘いを通じて、すべての民衆運動と諸権利に根差した闘争の中で、革命的決起に向かって進むあらゆる多様な要素に単一の政綱をもたらす、献身的で有能・誠実で創造的な指導部を創造することは、革命党としてのCPB―MLの重要な任務である。
 CPB―MLは、環境社会主義の概念を原則として受け入れた。CPB―MLは、思想としての環境社会主義をマルクス主義の批判的・創造的発展だと考えている。地球の存在そのものが気候変動によって脅かされている時、温室効果ガス排出に反対しないような、また環境への危険や気候変動の困難性を避けて通るような思考では、社会主義や共産主義建設の道はない。CPB―MLは、炭素ガス生成の主要な要因である化石燃料の使用に反対し、太陽エネルギー、風力、バイオガスなどの再生可能エネルギーの使用を支持する。資本主義システムによって促進されているアグロ燃料の使用、REDD+(訳注:森林破壊と劣化に由来する排出削減――森林を伐採しCO2を吸収しやすい樹木を植林することなど)、CDM(クリーン開発メカニズム)といった解決策は、問題の解決にはならない。
 CPB―MLは、地球の自然災害の要因でもある、石油、石炭、天然ガス、そしてその他の鉱物資源の大規模な採掘のために、地球の内部的均衡が危機にさらされている、と考える。こうしたことを考慮した上で、CPB―MLは環境社会主義を確信している。

フェミニスト
・アプローチ


 CPB―MLは、男性と女性の平等に基づく社会を確信している。家父長制社会では、女性は男性よりもいっそう犠牲者となり、いっそう収奪されている。さらに気候変動の結果、女性は男性よりも多くの被害をこうむる。バングラデシュを襲ったサイクロン・シドルとアイラが引き起こした死者数の調査からわかるのは、女性の死者数は男性の二倍に達している、ということだ。
 CPB―MLは、抑圧され、弾圧され、収奪された女性たちは男性と平等な社会、政治、経済、文化の領域で、機会と権利を享受すべきだと判断している。

民衆の宗教的精
神は傷つけない


 CPB―MLは、労働者階級人民の心の奥底にある宗教への信条を考慮に入れている。それは、かれらの生き方、暮らしの一部である。いまなお、宗教に心を寄せる民衆は、宗教を生きていくよすがの一つと捉えている。したがってCPB―MLは、労働者階級人民の支えとなり、そこから心の平和を手に入れる宗教的精神を傷つけるべきではない、と考える。
 宗教は民衆自身の問題である。すべての人びとが宗教的儀式を行う権利があるのと同様に、行わない権利もあるべきなのだ。しかしCPB―MLは、ビジネスに転化した宗教、ファナティックな政治に基づく宗教、宗教的ファシズムや宗教的軍事主義に完全に反対する。

北京路線左翼
の破綻といま


 独立以前のバングラデシュには、二つの主流的政治路線があった。一つはモスクワ路線であり、もう一つは北京路線である。しかし解放戦争のなかで、北京路線は奇妙な状況にぶつかることになった。毛沢東主席は、バングラデシュ民衆の期待する解放に反対する立場をとり、米帝国主義が支援するパキスタン侵略者の側を擁護したのである。
 しかし毛沢東の立場が帝国主義の側に向かい、バングラデシュの独立に反対したにもかかわらず、北京派グループが解放戦争に反対する立場を取ることは不可能だった。かれらも解放戦争に参加し、それはきわめて論争を呼ぶ局面をもたらした。その結果、毛沢東派の政治グループは徐々に消え去っていくことになった。バングラデシュ独立後の左翼とは、マルクス・レーニン主義派の諸政党を意味している。しかしマルクス・レーニン主義者とされる人びとは、毛沢東の著作を理論としてではなく考え方として認めている。

非合法武装左翼
の孤立と裏切り


?左翼政治に基づいた、一九六〇年代と七〇年代の非合法で武装したカードルたちの主要部分は、実際上、わが国の左翼政治の一部である。しかし一九七〇年代の後半には、非合法の政治と党の武装部隊は、民衆から孤立することになった。CPB―MLは、はじめから、非合法政治と武器の使用はバングラデシュの社会・政治的状況の中では間違った路線であると認識した。CPB―MLは、民衆の民主主義革命のための開かれた政治を確認している。
?一方におけるブルジョアジーからする悪宣伝、他方における非合法左翼の不人気のために、多くの献身的で経験を積み、能力のあった指導者や活動家たちが、左翼を消滅させようとする支配階級のさまざまな物議をかもす措置のために死んでいった。その上さらに、政治的相違、指導部の問題、異なる諸政党の武装部隊の間の反目による内ゲバのために、多くの活動家が左翼によって殺される、ということさえ起こった。イデオロギー的堕落、逸脱、党からの分裂が、そうしたことをもたらした。
 さらに、多くの左翼の政治指導者が、閣僚の座や昇進機会と引き換えにブルジョア政党の側に寝返った。現在、与党ブロックにも野党ブロックにも、自らのイデオロギーを放棄した経歴を持つ、左翼出身の忠実な指導者たちがたくさんいる。多くが今では閣僚や、与党の国会議員になっている。元閣僚や元議員もたくさんいる。その結果、左翼政治のメルトダウンが、ずいぶん進んでいるのだ。

ブルジョア政治
の外部か内部か


 バングラデシュの左翼政治は、二大ブロックに分裂している。左翼の一部は、実践主義、追随主義に陥り、支配的ブルジョア政党と提携し、その権力を分かち持っている。別の一部は、真の意味での左翼潮流を作りだそうと試みている。
 この場合、バングラデシュ共産党(CPB)は、ブルジョアジーへの追随主義を実践する先頭にいた。しかし現政権の下でかれらは権力から離れ、今かれらのいたスペースを占めているのはバングラデシュ労働党と呼ばれる党である。他の一部の左翼政党も、かれらに同伴している。
 それとは異なり民主主義左翼連合は、超党派的ブルジョア政治サークルの外部に政治潮流を創設する固い決意をもって活動している。バングラデシュ共産党―ML(CPB―ML)は、この民主主義左翼連合の活発な構成要素である。民主主義左翼連合は、一〇の政党と組織によって構成されている。それは現在、ブルジョアサークルの外部にいる唯一の勢力である。
 民主主義左翼連合の構成組織の中でのさまざまな意見の相違にもかかわらず、運動は共通する最小限の課題を基礎にして進んでいる。運動の力と各組織の間の理解は、漸次的に増大している。
 CPB―MLは、統一した運動に確信を持っている。党は、左翼政治潮流の建設、さまざまな闘争の統一による革命の条件の形成、そしてバングラデシュにおける民衆の民主主義的革命に基礎を置いたヘゲモニーの保障を主導する決意を持っている。その革命の究極の目標は環境社会主義である。

▼パサク・ラル・ゴルダーはバングラデシュ・クリショク連合の本部書記。彼はバングラデシュ共産党MLの中央委員でもある。
(「インターナショナル・ビューポイント」二〇一二年三月号)

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