トルコ　期待ついえた大統領選

深い失望が若者内部に広がる
対西側のエルドアンの立場は強化

　ＣＨＰ（その象徴的な人物がケマル・アタチュルクである社会民主主義政党）の大統領選候補者、ケマル・クルチダルオールはしばらくの間、西側メディアのお気に入りとなってきた。トルコに関わるきな臭い結びつきが全くなく親西洋かつ新自由主義の彼は、お気に入りになるすべてのものをもっていた。あらゆる世論調査は５月14日に最低でも強力なリードを、あるいはレセプ・エルドアンを相手に第１回投票での勝利すら予想した。そのエルドアンは、深刻な経済危機に巻き込まれ、今年２月にトルコを襲った２回の地震に関する悲惨な処置で批判を受けていた。
　選挙の朝、トルコのクルド地域の首都であるディアルバクルでは、通りすがりのあらゆる人びとが興奮の面持ちだった。56歳のゼリアは私に「もちろんわれわれは勝つつもりだ！　われわれはエルドアンに飽き飽きしている。われわれはわれわれの政治犯に、またわれわれに自由が欲しい。ここでは誰もエルドアンに投票するつもりはない！　若者たちはすべて彼に退陣して欲しいと思っている」と語った。少し先では若者たちが、ＨＤＰ（人民民主主義党、クルドを主体としつつ左翼をも含む:訳者）に対する解散の脅迫後に創立された新緑の党イエシル・ソルの旗を振っている。かれらは20代であり、大統領としてはエルドアンしか知らない。
　反対側の歩道では、73歳のハディ・アブドル・カデルが日向で友人たちとお茶を飲みながら「クルドにとっては、大統領選ではケマル・クルチダルオールに投票する以外の選択肢は全くなかった。もし他の選択肢があったとすれば私はそうしていただろう。クルドは、生まれた瞬間から抑圧され続け始めるのだ。そして、専制の倒壊へのかれらの確信を断言するような他の多くの自然発生的な証拠となるものがある」と語る。
　しかし最初の結果が画面上に表れ始める夜には、イエシル・ソルの建物になっていたＨＤＰ活動家が群がった建物の中で、いくつもの表情は固まった。エルドアンのリードは大きく、イスタンブール、アンカラ、イズミルといったＣＨＰ支持の大都市の結果がまだ分かっていないとしても、第１回投票でのエルドアン敗北という期待は崩れ去る。ＣＨＰの事務所では午後10時以後、活動家たちはもはや勝利を確信せず、かれらが勝利の夜と考えたものを見捨てた。
　深夜、厳重な警察の保護下に置かれた裁判所前には、際限のない再集計のために票のつまった箱が到着し続けるが、門の陰に集まったＨＤＰの若い活動家にとって、その心はもはやそこにはない。「もし彼が再選されるのであれば、われわれは国を離れる！　欧州に、どこにでも！　われわれはもはやそれを甘受できない！」と。
　それでは、多くの世論調査に関連したこの最後の瞬間での逆転をどう説明できるだろうか。ある者たちは、ＣＨＰ支持者の一部から支持を引きはがしたのはクルドとの協定だった、と信じている。他の者は、圧倒的なスンニ有権者の意欲を減退させたのはケマル・クルチダルオールのアレヴィ派という宗教だった、と考え、あるいは他に不正選挙と操作をもち出す者もいる。
　確かにエルドアンは、選挙委員会から裁判所や議会を含む国家機構に至るあらゆる権力を保持している。しかし、数百万票という規模の不正は信じ難く見える。しかしながらあり得る操作は、第２回投票を引き起こすに十分な票を故意に無効にすることだと思われる。ＡＫＰ（エルドアンの公正発展党）は、ウルトラ民族主義のシマン・オアン支持の５・３％というかなりの支持の予備を確保している。ちなみにこの人物はシリア難民すべての排除を主張している。そしてエルドアンが勝利すると思われる第２回投票は、不正の噂を黙らせ、何よりも彼を見捨てた西側の面前で、彼の選出を正統化する、という利点があるのだ。
　第２回投票に関する限り、それは確かに、イエシル・ソルの指導部に対してもほとんど希望を提供しない。
　党指導部の１員であるセラ・ブカクは第１回投票の翌日朝、次のように私に語った。「今回が容易な選挙でなかったということは分かっていた。第１回での勝利は難しいとは分かっていたが、しかしわれわれは、エルドアンが特に地震被災地であれ程多くを得票するとは分からなかった。私の希望は、ＣＨＰがこの２週間をうまく使い、彼に獲得されているクルドに向けてではなく、トルコの残り向けの新しい戦略を見つけ出すことだ」と。（２０２３年５月15日）

▼筆者はフランスＮＰＡメンバー。（「インターナショナルビューポイント」２０２３年５月16日）　