米国 生涯で最も重大な選挙?
戦争が拡大一方の中の選択
国の基本骨格に関わる危機の潜在的可能性
アゲンスト・ザ・カレント編集部
米大統領選が決着した。1月20日の就任式まで、またその後、米国内を越えた激変と混乱が予想されている。以下は、投票前に書かれたものだが、今回の結果の評価、その後の情勢、特に民衆にとっての課題を考える上での基本的素材を提供している。(「かけはし」編集部)
戦争とパレスチナからレバノンやイランに広がるジェノサイド、米国史上最大の気候変動洪水ふたつで水浸しになったフロリダと南部諸州、そしてかれら自身と国の未来に関する人々の全般的不安を伴って、米国は、ほとんどあるいは何も解決しないかもしれない「われわれの生涯で最も重大な選挙」と呼ばれているものに向かって進んでいる。
11月5日の2週間前本誌が印刷に回されている中では結果は分からない。しかしそれは、本号が定期購読者の下に届く前後まもなくのことであり、その結果はおそらく、予想外の決定的なものでない限り、国の基本骨格に関わる危機と破局に向かう潜在的可能性が浮かび上がることを伴って、国の半分近くによって不正統として拒否されるかもしれない。
われわれは以下で、結果に対する推測よりもむしろ、米国政治のそうした不安定な時期を11月5日後に十分存続させる方に向かうような、国内と世界の諸要素の合流を検討する。
非民主的で欠陥の多い選挙制度
(1)2024年大統領選は、おそらくカミソリ――結果としてどちらにしても全国の1億5千万票か1億6千万票よりも数万票が優るような、7つかそこらの「激戦州」における僅かな差――に乗っている。それは、米国の比類がないほどに不条理な選挙人制度の産物だ。
後者は、異様なほどに非民主的であるだけではなく、州レベルにおけるあらゆる種類の有権者抑圧と他の方式に隙だらけでもある。これには、選挙結果が当地当局によって証明されないかもしれないという、あるいは官僚的妨害によって絶望的なほど遅らされる(たとえば投票箱の人力集計というジョージア州の新要件、有権者名簿からの除去、登録妨害)という怖れが含まれる。
特にMAGA(メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン:訳者)派が動かす共和党は、票集計と証明の戦闘――手続き的な、法的な、また物理的な――として展開されるはずの多方面的「大窃盗選挙」ゲームのための仕組みを公然と正規にしつつある。これらの動きがかなり十分に明らかにされている中で、民主党も、州の投票用紙から緑の党や他の選択肢を排除するさまざまな口実を通して、有権者抑圧にかれら自身加わっている。
ジェノサイドの兵器庫の余波
(2)米国の選挙は慣習的に国際問題では決まらない。しかしながら2024年では、中東での爆発を見逃すことは不可能だ。そこで米国は、ジェノサイドの兵器庫として中心的役割を果たしているのだ。イスラエルの戦争は今、南部レバノンの無人化、および当国の生き延びそのものへの潜在的な危険――ガザ北部がパレスチナ当局が「ジェノサイドの中のジェノサイド」と呼ぶものに耐えている中で――を必然的に伴っている。
ガザの1年も続く破壊の中ずっとバイデン政権は、それ自身の「絶え間ない」休戦と人質解放取引の交渉中だちに関し泣き言を言いながら、「自身を防衛する」イスラエルの権利についてもったいぶって話してきた。ベンジャミン・ネタニヤフの政府は、権力にとどまるための彼個人の必要、および戦争の継続と拡大というイデオロギー的目標の双方によって駆り立てられ、先の努力を公然と意図的に妨害してきた。この進展の中で、イスラエル政権は本質的に、ガザにとらわれたイスラエル人人質を見捨ててきた。
また完全にはっきりしていることだが、ネタニヤフは(ロシアのプーチン同様)、トランプのホワイトハウス帰還のチャンスを押し上げるつもりでいる。このネタニヤフの侮蔑を前にしても、米国大統領は、イスラエルへのどんどん多くなる兵器移送で応じている。それは、彼が消そうとしていると主張する火災にガソリンを注ぐ――予想可能な結果を伴って――ことに帰着している。
バイデンはイスラエルに限定のない――米国の法令が人権侵害者の武装を明示的に禁じている場合でさえも、何の制約もなく――兵器を送っている。その一方バイデンは、ウクライナの民衆とその決定的なインフラに奇襲爆撃を浴びせるロシアの基地を攻撃するための、米国供与兵器の利用に対しウクライナ人に許可を与えることを拒否している。
ガザの大量殺戮は継続している。それは今、実質の死者数が今ではほぼ確実に6桁の数字に入ろうとする形で、ただそれだけのための大量殺人になっている。その間、そしてほとんど日常のこととして白昼、イスラエル軍と重武装の入植者が西岸のパレスチナ人村落で、殺人の責任を問われることなく暴れ回っている。
この最中に、ハマス指導者のイスマイル・ハニエ――休戦と人質解放取引に向けたハマスの交渉者として任務に着いていた――のテヘランにおけるイスラエルによる暗殺から始まる、連続するできごとで気を失わせるような事態が現れた。前者の後には、ヒズボラのポケットベルとトランシーバーの爆発、その指導部の系統的な暗殺、そして密集した住宅街における市民の死や破壊をほとんど考慮しないような、米国が供与した兵器を使って実行された爆撃が続いた。
百万人の絶望したレバノン人は、国の南部からだけではなく、またベイルート周辺からも追い出されている。11月の選挙から将来に至るできごとまで、先のような悪逆がともかく米国政治にはね返ることはないだろう、などと考えることははなはだしい思い違いだ。
11月におけるアラブ系米国人の票に関する影響は手始めに過ぎない。追加的な要素には、民主党の進歩的有権者基盤部分の離反、大学キャンパスでの心の痛む二極化、そして親パレスチナ活動に対する懲罰的な抑圧が含まれる。
イランをめぐる危険な諸要素
レバノンへのイスラエルの襲撃は、分別のある者なら誰も「限定的」にとどまるとは予想しないような「侵入」だ。そしてネタニヤフの終局的な夢、イランとの戦争に米国を引き込むこと、はファンタジーから実体に変わりつつあるのかもしれない(そして、トランプが職務に戻るならばもっとありそうに)。
イスラエルの軍と情報機関が昨年10月7日の襲撃にたいして準備されていなかったとしても、それらはこの18年間、ヒズボラを破壊するための戦争を準備してきた――2006年の33日間戦争の決定的ではなかった終結以来常に――。これは不可避的に、その壊れやすい国家の全面的な崩壊に導きかねないレバノン自身を敵とする戦争にもなる。ネタニヤフ自身はレバノン住民に、「ヒズボラに反対して立ち上がる」かガザの運命を味あうか、と警告したことがある。
米国とおそらく他の同盟国の情報機関は疑いなく、ヒズボラの治安インフラに対する度胆を抜くような浸透の点でイスラエルを援助した。さらにヒズボラの指導者であるハッサン・ナスララは、ほとんどの評論家とおそらくワシントンと並んで、またテヘランも、イスラエルとのミサイル相互攻撃は全面的な総力戦にはならず「限定内」にとどまるだろう、と信じていた。それは致命的な計算違いであり、イスラエルの意図ではなかった。
次に何が起こるとしても、イスラエルは、「抵抗の枢軸」と呼ばれるものの恐ろしいイメージと戦略的な能力に、巨大な穴を切り広げた。この「枢軸」に含まれるのは、ヒズボラとイエメンのフーチ運動、またイラク内のイランと連携する諸勢力だ。
右翼とイスラエルのプロパガンダとは逆に、これらの諸勢力はイランの命令に応じる傀儡ではない。それらは、それらの現場の利益と独創力をもつ――そしてそれらのレトリックや何人かの活動家の幻想にもかかわらず、パレスチナ人の自由はそれら各々の設定課題の最高位にはない――主体だ。しかしそれら――特にヒズボラ――は、イスラエル―米国の直接攻撃の脅威に対するイランにとっての一種の保険政策であり、あるいは少なくともそうなってきた。
その楯がたとえまだあるとしても大きく弱体化される中で、それ以前にそれ自身の住民との戦争に、また弱い経済に直面しているイランの支配者は、ロシアと中国とのより緊密な防衛的関係追求を強いられるかもしれない。
イランを攻撃することは、他の紛争に対する潜在的な含みをもち、そこにはイラン政権も支援してきた、また予想が難しいロシアの併合主義的なウクライナ侵略が含まれる。米国帝国主義は、「より広がった戦争を防止する」とのバイデンチームの言葉上の姿勢がこれまでどうあったとしても、これらのできごとは抜け出すことができないような前線であり中心なのだ。
11月5日の選挙と1月20日の大統領就任の間にある移行期は、世界的にまた本国でも、もっと不吉になる可能性もあるだろう。結局のところ、「ジェノサイド・ジョー」バイデンの大統領の遺産は、ガザの破壊と新しい中東の破局だ。それがまたトランプの復帰も含むかどうかはこれから決定される。
政治システムは一層腐食し……
(3)本国の戦線では、最終結果がどうあれ、米国の選挙期間は、この国の神聖な諸制度と思われたものにおける腐食の悪臭を露わにしてきた。それは、われわれが最初にまたその後概括した形の、選挙制度が有権者抑圧と操作に隙だらけというだけではない。
民主的ではない――不条理に代表性を欠く上院、諸州に割り当てられた自治的権力、その統制不可能に近い多数派が白人至上主義者と半ば王制派の両者になっている最高裁の党派性超越という想定――としても「安定性」の安全装置と思われたものは今や、不安定性と混沌の潜在的な可能性を容易にするものだ。
それ以上に、われわれの政治におけるあらゆる意味のある運動資金規制の廃絶が、共和党と民主党の二組をマネーを吸い込む機構に変えている。企業権力と大金拠出者以外の誰に対しても説明責任はまったくない(それらの政党の「党員資格」の不存在は言わないまでも)。その支配は次いで、ブルジョア政党と政治システムを、民衆の意志あるいは社会に悪影響を及ぼしている大量の危機に対し、大きく無感覚にしている。
部分的な対抗力は、いくつかの州における、特に今右翼からの悪意ある攻撃と対決して中絶の権利と性と生殖の権利を守るための媒介物として、住民投票イニシアチブの形態は利用可能だ。中絶に対する女性の権利はもちろん、民主党が大統領職にしがみつくのを期待する中心的で決定的な問題だ。
しかし政治討論の核心になければならない基本的諸問題は無視されている。われわれは、米国における富と機会の実に不愉快な不平等がインフレ、医療ケア利用可能性の貧弱さ、悲惨な住宅と労働条件が何百万人もの米国人を苦しめているストレスの中心にある、と繰り返し強調してきた。
どちらの資本家政党もこの核心的問題とその結果に取り組まないために、経済政策に関するかれらの口論は、主に空虚な騒音であり、あるいは公衆衛生ケアに関するトランプの場合、「考え」にすぎない。
次の数年の中で、全世界と並んで米国も、われわれが今辛うじて想像できるに過ぎないような威力の気候変動災害に向き合うだろう。上陸から数百マイル奥まった、ハリケーンのヘレナに見舞われた南部諸州の信じ難い荒廃、またミルトンがフロリダを襲う前ですら千億ドルかそれ以上と見積もられたそれは、単なる前触れにすぎないのだ。アマゾンの熱帯雨林は死につつあり、ブラジルからエクアドルそしてコロンビアまで、南米中で今燃えている。……その中で闘いが続いている。
持続する抵抗運動と左翼の任務
(4)米国の左翼は選挙の結果に意味のある形で影響を与えていない。しかしもっと重要なこととして、社会運動と労働者階級の闘争は、この長い選挙シーズンの間中断することがなかった。
東海岸の港湾ストライキは、巨額の賃上げを勝ち取ったとはいえ、自動化をめぐって続いている話し合いを伴って1月半ばまで留保されている。ボーイングの機械工は5週間のストライキの後、4年間を通じた34%賃上げ契約を否決した。それが年金の回復に失敗したからだ。その間全米自動車労組は、同労組が昨年勝ち取った歴史的な契約の諸条項をステランティスが実行できないことをめぐって同社をストライキで脅している。
選挙がどのような結果になろうが、パレスチナ支持のキャンパスとコミュニティの運動は、特にイスラエルのレバノン侵略エスカレートによって、刷新されたエネルギーで続くだろう。寄付拠出者と下院委員会の圧力を受けた大学当局は、親パレスチナの学生と教授団に対し、キャンパスでの発言と学問的自由の基礎そのものを脅かすような、懲罰的で抑圧的なキャンペーンに乗りだした。
同時に、労組と市議会内部にはパレスチナの権利を求めるイニシアチブがある。これらは、イスラエルに結びついた企業と兵器供給業者からの投資引き上げを訴え、米国に武器禁輸を要求し、バイデン政権のイスラエルに対する新たな2百億ドルの武器移送を阻止するためにバーニー・サンダース上院議員がイニシアチブをとった決議案を支持している。ここは、左翼の活動がかなりの役割を果たすことができるところだ。
白紙の問題は、中東の殺戮における「ジェノサイド・ジョー」バイデンの役割をめぐる進歩的な反感を起点に、また資本家政党の破壊的な二党政治に発するもっと幅広い不満を起点に、意味のある独立的な政治(特に緑の党)の始まりが出現できるかどうかだ。緑の党が最高位の全国選挙の中でだけでなく、一定のかなりの影響力をもって地方選挙の中でもキャンペーンを行っていることを心にとどめることが重要だ。
まさに今、左翼勢力はどれも大衆的基盤のようなものを選挙の分野では確保していないが、しかし各々は、政治的オルタナティブを探しているさまざまな層に話しかけている。
ひとつの差し迫った任務は、選挙の分野でより幅広い民衆層に達することができるまじめで真の政治的オルタナティブの建設に向けて、諸々の運動内部での共通の土台を探し続けることだ。その見通しは、決してすぐのことでもやさしくもないが、11月5日の先と今後の時期には、それが差し迫った進行中の討論の一部になるだろう。いつものように、抵抗運動の建設が――トランプのもとであれハリスの下であれ――中心として残っている。(「インターナショナルビューポイント」2024年10月31日)
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社