シリア イスラエルの暴虐

自由求める闘いには役立たない

むしろその逆だ

必要なのは植民地主義国家の暴力への抵抗だ

ジョセフ・ダヘル

 ジョセフ・ダヘルが、問題がアサド体制に反対するシリア人の闘いになる場合、イスラエルによるヒズボラのナスララ暗殺を褒め称えることは先が見えていないという理由を説明している。(IV編集者)

ヒズボラへの攻撃をめぐる論争


 レバノンにおけるイスラエルの暴力エスカレーション、およびヒズボラの軍事・政治指導者数人のイスラエルによる暗殺は、そしてそこには長きにわたる書記長のハッサン・ナスララが含まれるのだが、ヒズボラの性格と政治的軌跡に関する多くの論争に導いている。これはさらに、特に現在の全体的諸関係における抵抗の権利という、重要な問題をも提起する。
 ヒズボラに関する大きく広がる異なった観点が、ナスララ暗殺に続いた場面の中で赤裸々に映し出された。一方の側では、当の党員、支持者、また連携者が悲しみと悲嘆を表したが、他方同時に、祝って菓子を配る反アサド派が支配する北西地域からの映像が、シリア人のソーシャルメディア中で共有された。シリア革命の支持者何人かもまた、ダヒエ(ベイルート南部)に対するイスラエルの大規模爆撃に関し喜びを表した。
 これらの反応は、大きくは蜂起を粉砕する点でシリア政権を援助してきたヒズボラの役割に帰することができる。かれらは、マダヤのような都市を包囲し、市民を強制的に追い出し、非武装の住民に対する他のさまざまな人権侵害を行ったのだ。これに加えて、多くのシリア人は、2013年夏にダヒエで菓子を配ったのがヒズボラのメンバーとその支持者たちだった時のことも思い出した。それは、シリア人の反政府武装グループを敵とした、シリア軍とヒズボラによるホムス州のアル―クサイル市奪取の後のことだった。
 シリア政権に反対するシリア人によるこの暗殺への肯定的反応はヒズボラの共犯関係を理由とした復讐の一形態だと理解できるとしても、現在の動きを取り囲む全体的関係が重要だ。われわれは明確でなければならない。レバノンを敵とするイスラエルの戦争は、シリア人、あるいは権威主義国家に苦しむこの地域のいずれかの住民、これらの自由を助けるためのものではないのだ。

宗派的対立激化狙いの意図的攻撃

 米国に支援されたイスラエルのレバノンにおける近頃の空爆作戦は、ガザにおける継続的なジェノサイドおよび西岸の併合の最中に行われ続けてきた。そしてそれは無差別的だった。これまでに2千人以上が殺害され、数千人以上が負傷し、相当な破壊も引き起こされている。言うまでもないが、ひと月も経たずに120万人が避難させられている。地上攻撃を通したレバノン南部再占領という試みの中で、イスラエルの占領軍はさらに広範な規模の破壊をも引き起こしつつある。
 加えて、イスラエルの公職者たちは、ネタニヤフから、イスラエル占領軍アラビア語メディア担当トップとして従軍しているアヴィチャイ・アドライまで、内戦を潜在的可能性としてかき立てようと、レバノン民衆内部の宗派的緊張をつくり出し高めることをもくろんできた。たとえば、僅か2、3日前イスラエルは、圧倒的にキリスト教徒が暮らし、またシーア派多数派地域からの国内避難民が歓迎されていたアリトという村を攻撃した。この爆撃によって少なくとも22人が殺害された。これは、レバノン住民内部に宗派的緊張にもっと燃料を注ぐためのひとつの方法だった。

新たな中東がネタニヤフの計画


 もっと視野を広げれば、ネタニヤフの計画ははっきりする。つまり、激しい暴力の下に従うことを強制されるような、米国とイスラエルに屈服する新たな中東だ。この戦略は、シリア人あるいはもっと幅広いこの地域の民衆階級に対して民主主義と公正のいかなる見通しも含んでおらず、完全にその逆だ。
 現実にイスラエルは、シリア政権が打倒されることを好まなかった。そして2018年7月にネタニヤフは、国を取り戻し彼の権力を安定させつつあったアサドに何の異議も出さなかった。彼は、イランやヒズボラの諸勢力や影響力のような脅威と思われるものに対してのみ行動するだろうと語り、「40年間ゴラン高原に1発の銃弾も撃ち込まなかったアサド体制に関して問題は抱えていない」と説明した。
 その上でイスラエルは、ハマスやヒズボラのメンバーやインフラの存在を述べることで、ガザやレバノンにおけるこれらの無慈悲な空爆作戦を継続的に正当化してきた。しかしながらイスラエルの場合、これらの地域のあらゆる市民が支持者とみなされ、その延長で「テロリスト」のレッテルを貼られている。事実として、この戦争を助け、けしかけてきた西側メディアは、これらの地域をヒズボラやハマスの拠点と継続的に描くことで、イスラエルのプロパガンダをオウム返しにしている。
 同様にシリア政権は、人的犠牲を含む大量の破壊を引き起こす点まで反政権派が確保している地域を激しく爆撃し、かれらの支配下の地域に追い込む目的で、政権に反対する当地の住民を追い出した。かれらは、反政権派のインフラを破壊し、病院、学校、市場、また文民の意図的な標的化を通じることを含め、かれらのライフラインを切断した。
 人道援助を含む基本的な財やサービスの確保を妨げることは、強制的な追い出し、あるいは反政権派によるその後の領域と住民の明け渡しを保証するために、幅広く利用されたもうひとつの戦術だった。アサド体制はさらに、「ジハーディストのテロリスト」との戦闘としてもかれらの作戦を正当化した。

人民には抵抗する権利がある


 パレスチナとレバノンに対するイスラエルの戦争は、「和平」を推し進め、ヒズボラとハマスから当地住民を「解放する」ためのものではなく、継続されたナクバと米帝国主義の利益に奉仕する地域秩序を打ち固めることを通じた、パレスチナ人を排除するという入植者の植民地主義国家としてのその歴史的な目的をやり通すためのものなのだ。これらの目的は、一切の例外なく、この地域全体に対する生死に関わる脅威だ。
 これを心にとどめれば、パレスチナとレバノンの人民は、軍事的抵抗を通じることをふくめ、イスラエルのレイシスト的な、植民地主義的アパルトヘイト国家の暴力に抵抗する権利をもっている。これはヒズボラとハマスの権利を含む。それらは、抵抗するためのイスラエル占領軍との武装衝突に関与した主な主体なのだ。
 とにかくシリア人は2016年に、イランとヒズボラが率いた外国人兵士数千人に伴われ、ロシアの航空機が助けた、東部アレッポやその他を再占領するための親政権派が率いた軍事作戦と対決して自身を守る権利を、反政権派の武装グループのいくつかの部分の反動的な性格があろうと、もっていなかったのだろうか?
 しかしながら、抑圧に抵抗する人民の権利を擁護することは、ヒズボラやハマスの政治構想、あるいはこれらの政党がパレスチナ人に解放を届けることができるだろうとの信念への支持と混同されてはならない。それは、これらの政党に対するあらゆる批判がイスラエルのプロパガンダを「助けること」や米国の同盟者に味方することと混同されてはならないこと、とまさに同じだ。
 支持がもし無批判的ならば、それはヒズボラ、そしてその主な後援者であるイランを褒め称えることに限定された、連帯の受動的な形態になる。むしろそうした狭い考え方は、イスラエルのレバノンに対する戦争に反対するより幅広い抵抗の建設には、また地域的かつ国際的な連帯を確立する試みにはひとつの障害になる。
 実際に、ヒズボラの高まる孤立に対する理由のひとつは、レバノン内での宗派的で新自由主義的なシステムのその防衛、およびイランの利益への奉仕だ。そこには、シリア政権の生き残りを支援することを通じた奉仕が含まれる。
 最後に、ナスララ暗殺をめぐって分裂する観点がこの間見せつけてきたことは、イスラエルの戦争と西側帝国主義の利益にはっきり反対でき、組織化能力があり、その中であらゆる権威主義政権と政治的秩序に反対してこの地域内の被抑圧民衆すべてとの連帯をも断言する、そうした独立した民主的で進歩的なブロックのはっきり目立つ不在だ。

▼筆者は、シリア系スイス人の学者かつ活動家で、「シリアの自由永遠に」ブログの創設者。また「中東と北アフリカ社会主義者連合」の共同創設者でもある。中東関連の著作もある。(「インターナショナルビューポイント」2024年10月18日)

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