トランプ政権と民衆

既知と未知の混沌が渦巻く

統一による抵抗強化が事態に違いを生み出す

「アゲンスト・ザ・カレント」編集委員会

トランプ2・0の到来を前に

 トランプ2・0の到来は、米国内でまた世界にも、また確実に社会運動と社会主義的左翼に対し、諸々の危険と挑戦課題を――環境上の破局を生き延びるという全く些細ではない問題を含んで――持ち出している。われわれは以下で、相当によく知られている渦巻く混沌の諸要素を区分けし、不確実性がどこにあり得るかを示すつもりだ。
 われわれが確実に知っていることは、われわれの運動がすべて攻撃されるだろう、そして共に立ち上がり、威圧されたり分断されたりするのを拒否することが絶対的に基本だ、ということだ。攻撃がどれほど激しくなり得るかは確かでなく、すぐさまの抵抗の強さが大きな違いをつくる可能性がある。
 大統領選における民主党の挫折の背後にある諸要素は、本誌今号でキム・ムーディにより徹底的に検討されている。われわれはそれらをここでくどくど述べるつもりはない。ただ、次のことは言っておきたい。つまり、激戦州の票差が予想されたような僅差であったとすれば、イスラエルによるガザのジェノサイドをバイデンが明白に可能にしたこと、そしてその政策からカマラ・ハリスに距離を取らせることを彼女のキャンペーンが拒否したこと、それだけでもミシガン州を、またおそらく大統領職をもトランプの隊列に傾けることを可能にしただろう。ということだ。
 選挙は最終的に、中核的な経済問題、特にインフレの影響に、また「安全性」――トランプの怖れを誘う反移民レトリック、また職と地位の喪失の(主に男の)怖れに対する右翼の訴えによって巧妙に利用された――と言われるものに左右された。彼が1月6日の襲撃で有罪宣告された暴徒を特赦する場合われわれは、かれらが知られないまま消えるか、将来の利用に向けかれらの雇われ暴力団を再形成するか、を知ることになるだろう。
 いずれにしろ、ガザの破壊という長く続く遺産と共にジェノサイド・ジョーはやっかい払いでありさようならだ。そして2025年とその先には何があるか?

ステロイドが増強する貪欲
 われわれは、トランプの内閣指名者の多くを構成している、性犯罪者、変人、さらに白人民族主義者の沼出身のゴロツキ的人物について長々語るつもりはない。トランプのもっともぞっとするような選択――ピート・ヘグセス(国防長官に指名)、カシュ・ペテル(FBi長官に指名)、タルシ・ギャバード(国家情報局長官に指名)――の結末から彼を救い出す、また公衆衛生を担当するロバート・ケネディ・ジュニアによる新たなパンデミック勃発を絶対許さないような、そうしたことに足るだけの共和党上院議員はいる可能性はあるだろう。
 先ず大事なことから始めよう。
 明確なことだが、トランプの核心的な設定課題は「伝統的な」共和党政策に沿っているが、今回はそれがステロイドで駆動されている。つまり、企業の富裕化と規制解体、富裕層に対する減税、基本的なサービスと社会的な安全保護の切り下げ、労組の団結権における近年のもっともささやかな成果の逆転だ。警察の殺人的なレイシスト的残忍さを抑制する可能性もあった連邦の監視を除くようなことも、その範囲に入る。
 このすべては予想できることだ。しかし右翼のサディスティックな残忍さの完全な程度――SMAP(補足的栄養)手当の根底的な切り下げやそれに対する達成不可能な「労働要件、のようなものごと」――は、検証されるべきこととして、また闘われるべきこととして残っている。

無謀な反社会政策の行方も未知
 すでにバイデンの下で、新型コロナ非常事態期に子どもの貧困を立派に半数化した児童税手当拡張の終了は、それらの比率が2023年時点でみじめな13・7%に戻るという結果に終わった。
 もうひとつの事例の場合、われわれもそれを予想することはできない。つまり、患者全員を破滅的な「差違付メディケア(メディケア自体は老人医療保障制度:訳者)」制に追い込むという、メーメト・オズ博士(心臓外科医)が心に描いているメディケア私有化が、それが巻き起こすと思われる民衆的かつ制度的大火事に刃向かって実際にもくろまれることになるかどうか、だ(近頃の一定のできごとは、米国の医療ケアと保険業界に対する民衆の姿勢にぞっとするような脚光を当てている)。
 貪欲と強硬右翼のイデオロギーの毒々しい組み合わせが税制と切り下げ計画の攻撃を推進しているが、もっと過激な諸方策がこの構想全体を不安定化するよう脅かしている。第一に、最大の経済的かつ金融的な「未知」には、トランプの「全輸入品」への関税という公約の程度と結果が含まれる。
 トランプに近づくことができる経済的に博識な専門家たちは、25%の関税がカナダとメキシコの経済をどれほど打ち砕くことになるかを、そしてその経済が、欧州やアジアの諸国の経済は言うまでもなく、米国にまた米国経済自身の高インフレに解きがたく結びつけられているということを、説明する可能性もあるだろう、とひとは当然視している。
 中でも直接に厳しい打撃を受ける人々は、インフレへの憤りからトランプに票を投じた同じ米国の中間階級と労働者階級の人びとの多くになると思われる。自滅的な結果だ。しかし、トロンプが愛する「強さ」の類の表示として、関税の脅しは、米国の相手国から彼が求めている譲歩を引き出すためのテコにされるのかもしれない。
 国境パトロール要員増員、監視、またドローン技術にかかる10億ドルを理由に、与党の自由党からだけではなく保守党と左翼の新民主党をも含む抗議の叫びを証拠とするような、カナダの政治的既成エリート内にはパニックがある。トランプは表面上、米国領へと国境を越えている「ドラッグと不法移民」をカナダが取り締まるよう、要求し続けている。しかしこれらの問題は、事実上存在しないほどの周辺的なことなのだ。彼の本当の目標はおそらく、オタワからの貿易と他の譲歩であり、カナダの諸州との別々の取引だ。
 関税はまた、二党共通の大義である中国との高まる経済的(そして潜在的に軍事的な)対立においても、それ自身の使い道がある。その共有された対立こそ、バイデンがトランプの当初の反中国方策を維持した理由だ。

テロ支配下の移民
 われわれは、到来しようとしているものが移民と難民のコミュニティが前にする文字通りのテロ支配であること、を分かっている。これは直ちに、多様なレベルの抵抗に向けた準備を求める危機だ。移民と市民権の諸組織は今、さまざまな法的、政治的方策、避難策を準備中だ。
 たとえばミシガン州で活動家たちは、運転免許取得権を採択するよう、レイムダック化した民主党多数派に今圧力をかけている。そしてこの免許は、身分証のない人々に少なくとも、人種的な容貌による通行停止で追い出されることから守る方策を与えると思われるのだ。
 「今すぐ大量追放」は、共和党大会の中での標示物上に目立った合い言葉だった。新政権は「何百万人」単位でそうすると約束している。そうした作戦を見事にやり遂げるための能力、要員、兵站、さらに資金は早々に疑問視されているものの、ほとんど疑いがないこととして、恫喝と明確な態度の広がりは少なくともテレビ映像化された効果へと向かいつつある。そして、それらがつくり出す恐怖は、多くの人々を陰に、他の者を「自らの出国」(確固とした既成エリートであるミット・ロムニー〈2012年大統領選の共和党候補者〉が巧妙に唱えるために使ったような)へと追いやるだろう。
 約束された「われわれの史上最大の国外追放」は、バイデンと「追放長官」のオバマが見えない形で行う方を好んだものの、主により高度化された宣伝版、ということが判明するかもしれない。バイデンの下で2023年に110万人が、2024年前半に41万千人が「本国送還」された、ということを心にとどめよう。
 それは、もちろん十分に悪質になると思われるが、しかし潜在的な可能性として、警察国家の手法に向けても大いに拡張された規模で存在している。いくつかの記事によれば、身分証をもたない人々数万人内外が刑務所と地方の牢獄にいる――多くは、無免許運転のような微罪で――。かれらは、ICE(移民・関税執行局)がかれらを管轄下に置けば、一掃され即座に国外追放されるほど危うい人々だ。
 それこそが、自治体と州の公職者が、進んでか強制によってか、ICEがかれらを逮捕できるよう勾留延長を実行するかどうか、がひとつの対立点になる理由だ。移民や難民の尋問を待っている人びとの運命もまたぎょっとさせるものだ。これらの人びとは、スティーブン・ミラー(トランプの上級顧問)が計画した私立大量拘留センターへと追い出される可能性があるのだ。そしてこれは、それを建設し運営する請負契約者にとってはいわば利益がうなる大浮かれになる。

大量移民追放をめぐる未知
 職場への大規模手入れはあるのだろうか? 移民コミュニティの一掃はあるのだろうか? 米国内で合法的に働き暮らしている、16ヵ国(つまり、ハイチ、ベネズエラ、ウクライナ)出身の人々向けの一時的保護資格の即刻取り消しはあるのだろうか――トランプ・ヴァンスのキャンペーンにより残忍にスケープゴートにされた、オハイオ州スプリングフィールドの大きなハイチ人コミュニティのように――? 拘留センターに今収容されている人々の有無を言わさない追放はあるのだろうか? トランプの第一期にまさに悪名をはせた家族分断(子どもの引きはがし:訳者)の新版はあるのだろうか?
 テキサス州は、適切な手続きが最低限か全くないままの移民一掃を促進するための、拘留―追放集中キャンプに対する供給地だ。トランプの意図する人道に反する犯罪向けのそうした施設を一杯にするやり方やそこへの資金調達法は、はっきりしていない。そして、十分に報道されていないとしても、本当に大量追放が行われた場合の帰結は、激しい経済的混乱になる可能性もあるのだ――特にたとえば、農業、建設、食肉梱包で――。
 帰化市民からかれらの資格をはぎ取る可能性を「調査する」計画も進行中のように見える。トランプと彼のもっとも攻撃的な身内的ファシストのスティーブン・ミラーは、極度の過激な策として、出生地主義の市民権を終わりにすることを唱えてきた。それは米国憲法修正14条の取り消しを必然的に伴うと思われる以上、そのような方策は「正規の」手段で仕上げられる可能性はなく、法と政府の制度的構造全体を揺るがしかねないような、ある種の行政と司法のクーデターを必要とするだろう。
 米国資本主義は客観的に、そのような安定を壊す危機をどのようなものでも必要とはしていない。またついでながら「数百万人」単位の追放も必要としていない。人は、正常な環境ではそれ自身の利害関心から資本はいくつかの制約を押しつけるだろう、と期待している。しかし今日の政治的空気の中では、何が「正常」かを当然視してはならない。われわれは確かに、民主党の政治自身が可能にしてきたような極右の攻撃に有効に抵抗する点で、この党を頼りにすることはできない。

標的確実なパレスチナ連帯運動
 他のどれよりも中心的なひとつの標的が抑圧を狙う十字線に当てられているすれば、それはパレスチナ連帯運動だ――それが表す大義のゆえに、また国境を越える進歩的な社会活動に対する系統的な攻撃に向けた楔として、その両者の点から――。その上、親パレスチナの鼓吹に対するこの攻撃は、二大政党共通であり、レイシスト右翼と「パレスチナ以外は進歩的な」リベラルの双方からのものだ。われわれは、対イスラエルの総力を挙げた支援が、民主党指導部がそれと絶縁するよりもむしろ選挙の敗北に向かうほどまで、米国政治内に深く埋め込まれているのを見てきた。
 これは、イスラエル国の米国が可能にし武装したガザでのジェノサイド、および西岸での軍と入植者による暴力が、終わっていないだけではなくエスカレートを続けているまさにその時に起きている。恐ろしい過去1年に起きてきたことは、民族浄化の長い歴史における、数万人単位の大量殺戮だけではなく、ジャーナリストおよび医療と支援の労働者の意図的殺害(前者の場合、192人かつなおも集計中)、さらにガザ北部を無住地にする攻撃までも必然的に伴うような、質と量両者の飛躍なのだ。
 一日毎の毎日が、その社会を破壊するという明確な意図を伴って新たな世界級の戦争犯罪をつくり出している。そして今、レバノンの都市全体と首都ベイルートの街区が荒廃の中に置かれ、2006年のイスラエル―ヒズボラ戦争における破壊をはるかに超えてそこなわれている。そして、ハマスとヒズボラ両者がパレスチナとレバノンで政治勢力としてとどまっているとしても、「抵抗の枢軸」内の戦略的な軍事要素としてのそれらの破壊は米帝国主義に、中東における高められた力を与え、イラン攻撃に関する可能性をより高く引き上げている。

分裂を避け共に立ち上がろう!
 われわれの運動に対する脅しは移民コミュニティを犠牲にすることからトランスジェンダーの権利、中絶の利用、また人種的公正への攻撃まで、さらに読む権利への監視から労働者の団結権の無力化まで、「プロジェクト・エステル」までずっと広がっている。ちなみに最後のものは、「プロジェクト2025」の同じ著者によりわれわれにもたらされたもので、パレスチナ連帯とあらゆる進歩的な主張を標的にし資金を断つという、ヘリテージ財団の計画だ。
 「プロジェクト・エステル」という槍の先端は下院で発動された(HR9495および上院の仲間関係法令)。信じ難いことにこれは財務省長官に、あらゆる組織を「テロの物質的支持者」と指名し、その課税免除資格を取り上げることを認めると思われる。
 この全体構図における「テロの物質的支持者」は、被抑圧民衆の抵抗権という原理を表現することを含め、あらゆることを意味することができる。それがたとえば、その「植樹」が直接にイスラエルのアパルトヘイトと民族浄化に資金を提供しているユダヤ人全国基金に、あるいは暴力的な西岸入植者向け募金諸組織に適用されることはありそうにない。
 消えつつあるバイデン政権のレイムダック化した議会会期内では、何人かの臆病な民主党議員の支持があっても通りそうにないとしても、このあからさまに反憲法的なもくろみは、1月20日に共和党がトリフェクタ(競馬用語から転じて、今は大統領、上院、下院からなる統治の三権を指して使用されている:訳者)を引き継ぐ時試されることになる。
 このすべて――そして今後もっと多く――は、新たな政治的時期にわれわれのコミュニティと運動が直面する、既知と未知からなる混沌のいくつかを簡単に見たものだ。悪意に満ち力を得た右翼を前に、はじめからの統一が決定的だ。分裂は致命的になるだろう。(2024年12月22日、「アゲンスト・ザ・カレント」234号、2025年1・2月号)(「インターナショナルビューポイント」2024年12月25日)       

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