オーストリア 水平線上に姿見せた極右政権
オーストリア通信員
極右と保守派
の連立政府へ
昨年9月のオーストリア議会選では、ヘルベルト・キックル率いる極右のオーストリア自由党(FPO)が、得票率26・27%を得た右翼保守派のオーストリア国民党(OVP)を僅かに抑える得票率28・85%で最強政党として現れた。社会民主党は21・1%で3位になった。社会民主党が最初から連邦レベルでのFPOとの連立を除外していた以上、保守派に選択可能だったのは、社会民主党と、あるいはむしろキックルと統治に臨む、かのどちらかだった。
連立政権に向けた社会民主党と自由主義派のネオス(ニューオーストリア・自由主義フォーラム)との交渉は、ネオスと保守派によって終わらせられた。どちらも必要な財政再建への富裕層と超富裕層の参加(相続税や資産税の再導入)を、敢えて交渉しようとはしなかった。両ブルジョア政党に対する資本からの圧力はそれほどまで大きかった。
社会民主党はまた、銀行課税のような対案をも提案したが、そのすべては即座にはねのけられた。保守派の首相のカール・ネーハマーは、選挙キャンペーンの中で首相職へのキックルの踏み石になるようないかなる環境の下にもとどまらないだろうと明確にしていたが、1月4日に首相を、また党首としても辞任した。
その時以来保守派は、首相としてのキックルの下で極右と政府を作ることに同意してきた。キックルは、首相と重要な省庁を引き継ぐことができれば保守派の経済綱領を実行するだろうと経済団体に約束することで、下工作を上首尾に行った。保守派と自由主義派に対する資本の圧力は、社会民主党との交渉が破綻に行き着くほど明らかに圧倒的だった。その社会民主党は、必要不可欠な財政再編から帰結する重荷のより公正な再配分を、こうしてある種穏健な資本課税を要求していた。
予期できるのは
反民衆的諸政策
FPOとOVPは、上記した底辺から最上部への大規模な再配分の実行が世論内の変化に導くだろう、と分かっている。ちなみにその再配分がOVPの経済綱領に対応するものなのだ。
具体的には、公衆衛生システムの破壊、あるいは最低でも弱体化(病院部門だけでも20%のカット、およびさらなる私有化)、公共部門労働者に対する諸々の攻撃(教員、看護士、また警官の俸給凍結)、年金生活者への攻撃(年金凍結、および法定退職年齢の引き上げ)、「労働力市場改革」つまり諸給付の切り下げと雇用条件の締め付け、そして大衆課税の引き上げだ。そのような方策への反応として、人々はすぐさまOVPとFPOに背を向けるだろうと予想されてよい。
この理由から、またOVPとFPOの指導的代表者に対する訴訟手続きの進行を理由に、両党は民主的な統制と法の支配の弱体化に利益を見ている。たとえば、公共テレビとラジオの独立性は、弱められるか除かれるかする可能性があり、最も重要な印刷媒体には大きな圧力が加えられる可能性もある(広告の買収も含め)。
その会費の削減や廃止による「労働会議所」(その起源は1918―19年の革命にある)(訳注)の弱体化は、あるいはその破壊まで含んで、さらに進む出発点だ。
同じことは、司法の独立性にも当てはまる(訴訟手続きの終了、捜査取り止め、新たな訴訟手続きの創出)。それは、監査法廷、オーストリア公的統計研究所、また公的行政にもおよぶ。セバスチャン・クルツ政府下における全省庁への政治的総書記の指名は、取られる方向に対しひとつのしるしを与えている。
挑発的な若い政治家だったセバスチャン・クルツはかつて、2018/19年にいわゆる青緑連立(OVP―FPO)の首相として17ヵ月務めたことがある(現在政界を引退:訳者)。しかし当時は、保守派がそれでも少しばかり極右より強かった。
幅広い連合での
反撃が不可欠だ
外国人嫌悪と反マイノリティの方策をさらに強める目的は、スケープゴートとされる者たち(難民、移民、失業者、福祉受給者、LGBTIQ+の人々、あるいは社会的に批判的なアーティストまで)に不満をそらすことだ。その上FPOとOVPは、気候危機を促進するあらゆることを唱え、気候目標の放棄を唱えている。
「オルバン化」(オルバンは、欧州の極右潮流を代表するハンガリーの首相:訳者)に反対し、民主的、社会的諸権利を守る幅広い連合が今時代の指令だ。これらの防衛行動の成功は、それらの全力による防衛に社会民主党と労組が参加するかどうかに左右されるだろう(社会民主党の左に位置する諸組織はオーストリアでは極めて小さな役割しか果たせない)。
これは、何十年にもわたる社会的パートナーシップの点から見れば非常に大きな挑戦課題になるだろう。そのシステムの中では、年間ひとり当たり平均ストライキ時間が、秒単位とは言わないまでも、分単位で計られていたのだ!
同時にわれわれは、攻撃的な左翼綱領を発展させなければならず、FPOの右翼ポピュリズムだけではなく、ネオスの新自由主義イデオロギーに関してもその正体を暴露しなければならない。中・長期的には、青―黒ポピュリズムに立ち向かうことができる強力で急進的な社会的左翼と政治的左翼がオーストリアで現れてはじめて、右への移行を止めることが可能になるだろう。(2025年1月15日、ドイツ支部のISOのウェブサイトからIVが訳出)(「インターナショナルビューポイント」2025年1月18日)
(訳注)労働者と消費者の利益を代表する組織。賃金と物価の規制で大きな役割を果たしている。被雇用者全員に加入義務があり、会費は、社会保障拠出の一部として賃金から天引きされる。
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