中国 習近平体制の困難
中国資本主義の危機と独自性
ピエール・ルッセ
世界に大きな影響を与える存在になった中国が、今大きな不透明性を抱えている。その根底にあるものに着目しつつ、地政学的諸関係も加味しルッセ同志が中国の今後について考察している。結論というよりも、更に分析を深めるべき論点の提示という性格であり紹介したい。(「かけはし」編集部)
体制の不透明性
前例のない深さ
中国の体制が今ほどはっきりしないことはこれまで一度もなかった。われわれは今、トランプが対中関係で彼のカードをどう切るかをまだ分かっていない中で、不確実性の時に生きている。気候危機と大混乱の脱グローバリゼーションの間で、これは前例のない時代だ。疑問符を外さずに、情勢の解説に挑戦しよう。
1月17日に公表された公式の数字によれば、中国の国内総生産(GDP)は2024年に5%成長した。そして習近平が設定した目標は(ほとんど?)いつも同様満たされたことになるだろう。
しかしながら12月、何人かの指導的中国人エコノミストは、この問題に関し深刻な疑いを明らかにした。そこには、成長を僅か2%と評価した――厳しい処罰を受ける前に――高善文が含まれている。
事実として、新型コロナ危機以来の刺激策は、消費の回復に失敗した。この国は、過剰生産の危機を通過中だ。弱い国内需要と輸出の急激な高まりの間のギャップはもっとさらに拡大中だ。
資本主義への
転換は失速し
中国は世界第2位の経済大国として、資本主義的国際秩序の主要な構成要素になった。しかしその社会的構成は、特殊な歴史で刻印され、高度に複雑なままだ。この国が西側の先進諸国と同じ行き詰まり(後述のゴディンの用語を使えば、工業の過剰能力、金融化の使い尽くし、技術的成長の諸限界)に今どのように直面しつつあるかを理解するには、筆者の友人である区龍宇、またロマリック・ゴディンが(9月24日にメディアパートで)指摘したように、われわれは中国資本主義の特殊な特性を考慮する必要がある。ちなみにその行き詰まりは、1986年の労働者、学生、民衆の運動の粉砕後に鄧小平が始めた転換を、中国が仕上げてはいないにもかかわらず現れているものだ。
この資本主義への転換の完成は、あらゆるレベルにおける官僚機構の重みによって、体系的な汚職によって、また習近平が終身的な国家主席になると決めた時に彼が導入した権力内の変更によって妨げられてきた。ちなみにこの最後の変更は、政府諸機構周辺化の強化、彼の分派だけを偏重する中国共産党(CCP)指導部における集団指導体制の終焉だ。集団指導体制は、冒険主義に対するあり得る安全装置、および連続性の保証だった。
世界市場へのロシアと中国の全面的な再統合の過程間にある大きな違いは、北京に航空機の実際的能力のある操縦士がひとりいたことだ。この成功は何よりも、習自身の成功というよりもむしろ、彼の3人の前任者の成功なのだ。
債務、汚職
そして停滞
巨人的な恒大集団の2021年の破綻による「資産バブル」の破裂は、中国資本主義システム内の公私部門間にあるつながりの、しばしば家族のつながりの重要性を例示している。この危機がそうした大きさを示すにいたったとすれば、その理由は、あらゆるレベルで権力の座にいる官僚と、私有部門にいるかれらの親類間に、投資を、合法的、非合法的両方の利益の源を増やすためのなれ合いがあった、ということだ。その結果は、蓄積された債務の重荷を理由にするばかりではなく、社会的結果によっても、遠くまでおよんでいる。
習近平は、社会的保護策の実行を拒否している。多くの低所得の中国人は、彼らの退職に準備する目的で、また医療ケア費用(かれらはその支払いを迫られるだろう)の計画を立てる目的で、全く建てられなかった計画の杜撰なアパートを購入していたか、大きくゴーストタウンのままになっている町の住宅に払い込んでいた。
親たちは今、かれらの子どもたちはかれらが過ごしているよりももっと悪い生活を過ごすことになる、と恐れている。若者の失業率は非常に高く、諸々の資格はもはやきちんとした仕事に就く保証にはならない。住民はより貧しくなりつつあり、極度に不確実な将来のために蓄えなければならない。ルモンドのジャーナリストは1月9日に掲載されたルモンドの記事の中で、「消費取り止め」によってさびれた商店やレストランを記述している。
習近平は今住民に、経済が回復するより早く回復力を示すよう促している。しかし企業は、すべてのものを切り詰めるよう彼らに今強いている猛烈な競争にさらされている。絶対的な権力を求める切望は、人を病的なほど疑い深くする。習近平は今、実業家を投獄し、金融を「懲戒し」、党の機構要員、軍の幕僚たち、また秘密警察要員を繰り返し粛清中だ。
中国は今も無視できない市場としてとどまっている。しかしそこへの投資は、国際資本を当惑させ、ある種危険を内包したゲームになっている。われわれは、予想ができない急激な揺れを伴う実体のある体制の危機について話すことができる。
脱グローバリゼ
ーションの危機
満足なグローバリゼーション(資本にとっては!)は遠い過去のものだ。それはすでに脱グローバリゼーションの危機で継承され、諸国家間の地政学的紛争と部分的な保護主義への後退に道を開いている。
しかしながら、単一世界市場の形成によって生み出された相互依存性と生産の連鎖の国際化から自身を自由にするのは容易ではない。それらの相互依存性は、戦争や地球温暖化といった他の問題が諸政府の配慮事項になっている丁度その時に、非常な強さで今なお生きている。
対米関係も
困難な選択
トランプの最初の合図は両義的だ。彼は、鍵を握るポストに北京に対する猛烈な敵対者を指名したが、ティックトックの禁止は棚上げしている。そしてわれわれは、台湾問題を北京の利益に合わせて解決するひとつの計画を提案したことがあり、習の支持者で主要な投資家である、「大統領Ⅱ」としてのイーロン・マスクの外見上の立場についてどう理解すべきなのだろうか(世界で最も裕福なこの男は自らに、介入するあらゆる権利を与えている)?
習近平は、一定の取引がトランプとの間で望ましいものになり、可能かどうか、を予想するのに苦労するに違いない。通貨の戦線で習の政策が今も慎重なのはひとつの合図だろうか? 時は、元の国際的な役割を強化する上で熟していた。しかし当面、その政策はこれを利用しようとしていない。
ふたつの大国間の技術的かつ商業的主導権争いは始まっている。そしてそれは、世界への中米二極の押しつけに、あるいは逆に軍事衝突に導く可能性も考えられる。
米国は、軍事分野で、また先進半導体分野で今なお優勢なままだ。米国は、AIチップに関するオランダの最優秀企業であるエヌヴィディアがその最先進製品を中国に渡すのを止めるよう要求し続けている。中国企業は、巨額の研究補助金にもかかわらず、この決定的な分野で追いつくことができていないように見える。結果として北京は、半導体生産に不可欠ないくつかの金属(ガリウム、ゲルマニウム、その他)の米国向け輸出を止めると脅し続けている。
西欧とプーチン
の間で舵取りは
中国の影響力は、アフリカからラテンアメリカまで遠く広く延びているが、しかしこれは、発展した資本主義諸国とのつながりの代役には全くならない。そして米国への接近は制限されそうな雲行きだ。結果として習近平は、西欧、オーストラリア、韓国に向かう可能性もある。しかしその時に、彼の相棒であるプーチンが取りかかっているウクライナでの戦争があるのだ。そしてプーチンは北朝鮮と連携している! この固い友情関係を犠牲にすべき時だろうか?
地球温暖化が極地域を利用と海上交通に開放していることを前提にすればそれは困難だ。北京は、北極に国境をもつ国ではなく、トランプがグリーンランドを所有したがっているその時に、この地域で勝負が行われる大きな戦略的ゲームに参加するにはモスクワを必要とする!
世界の運命は部分的にトランプや習近平のような指導者たちに依存している。それはほとんど安心感を与えない。上からの混沌に対し、下からの国際主義を対置しよう。(「インターナショナルビューポイント」2025年1月31日)
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