ファシズム:トランプ、プーチンそしてウクライナでの戦争

嘆くのではなく今こそ行動の時

ファシズム台頭への欧州の自覚は痛々しい

アンナ・ペレコーダ

 この2、3週、またさらにこの数日にはもっと、ある種の麻痺状態が欧州の政治光景を襲っているように見える。すでに、トランプ、プーチンまた他の極右指導者たちはかれらの野心を全く隠さないようになっている。かれらはそれらを、この何年か言い訳もなく開けっぴろげに述べてきた。かれらの構想はいわばファシズムのそれ、とはっきり言われなければならない。

ファシズムは面前まで来ている


 ファシスト体制は米国内で定着しようとしている。ロシアでは、それは3年間すでに定位置についている。それは、常態への順調な回帰という幻想に、ロシアの対ウクライナ戦争により一時的に混乱させられただけとして理解された現状は不変との感覚に執着しつつ、多くの者が否認する方を好んだ現実だ。
 同じ不変の現状観が、ロシアの安い炭化水素を輸入し続け、他方で中国と米国に最終製品を輸出し続けることを、EU――中でもドイツ――に可能とした。それは、頑強に抵抗しているウクライナ人が困り者にすぎない者になったほどの心地好い世界だ。かれらが大規模にレイプし、殺し、拷問する体制の占領下で生きることを受け入れてさえいれば、われわれは無期限に繁栄し続けられただろう……と。それは、冷笑的であると同じほどナイーブな幻想だ。
 西欧が防衛への投資を脇に置く中で、他方ロシアはそのエネルギー歳入を、その軍事機構を現代化するために利用した。2014年のクリミア併合と欧州中でのロシアの影響力を広げる数々の作戦――犯罪や殺人も含む――は事実上罪を問われることなく続いてきた。ロシアがウクライナに侵攻した2022年、道義的な腐敗の上に築かれた欧州の繁栄システムは崩壊した。 それでもEUの指導者たちは、迅速かつ実効的な対ロシア制裁を強要する自分たちの能力を限定しつつ、また決定的な時――戦場での力関係を動かす点で最良だった時――のウクライナ援助を遅らせつつ、先の幻想にしがみついた。このためらいが、ウクライナの反攻を相当程度さらに犠牲の多いものにし、ロシアに領土を奪取しその立場を強くする余地を与えた。
 現実から顔をそむけることへのわれわれの努力に焦点を当てた時、われわれは今、われわれの参照点がすべて僅か数週間のうちに崩壊してしまった状況に自身が呆然としているのに気づいている。ミュンヘンでのJ・D・ヴァンスの演説はそれを十分にはっきりさせた。つまり、彼の敵は現米政権がその者と多くのイデオロギー的好みを共有しているウラジーミル・プーチンではなく、彼の真の敵はEUの中にいる――それは、彼が押しつけようとしている秩序に抵抗する者すべてだ――、と。
 移民を外部にとどめるための壁建設を主唱する同じ男は同時に、EU内の反極右「障壁」を禁止したがっている。ガーディアン紙が適切に書いたように、それは、「町の新しい保安官」はそうするのを助けるだろうとの約束で、EUのいたるところで権力を奪取するようにとのポピュリスト極右に対する戦闘召集だった。かれらの勝利の行進の中では、何ごとも現状のままではあり得ない。

軍事支出増大は遺憾だが正しい


 それでもEUでのこれに対する防壁は存在している。防衛の第1線は、欧州の市民社会であり、その民主的な諸制度だ。しかし、もうひとつの防波堤がある。つまり、この3年間ロシアファシズムの台頭を止めるために戦闘し続けてきた何百万人というウクライナ人だ。この障壁はしかし、同じ濁った水がすでに内部から広がろうとしているのを理解できずに、EU諸国が受動的な事態受け入れとして会釈しつつ見守り続ける中では、いつでも崩壊する可能性もあるのだ。
 移民に対する弾圧、ミソジニーとホモ排撃の制度化、気候変動の否認、人民と自然に対する容赦のない搾取、ウクライナの清算、パレスチナ人の追放、これらが、すでに形をとって浮かび上がりつつある秩序の支柱の数々だ。
 今ではもうこれが白昼同様明確でなければならない。軍事侵攻の犠牲者を見捨てる――まさにわれわれがパレスチナ人にしているように、またウクライナ人に行おうと今準備中であるように――ことは、残忍な力を通したかれらの支配を押しつける自由を、専制者に与えることに帰着する。
 これは、理性的な人間ならつかむことができるはずの簡単な等式だ。そうであれば、トランプの諸行動と彼の政権のそれらが見たところでは欧州人にショックを与えたように見えたのは、なおのこと当惑させる。何といっても彼は、彼がどのように行動するつもりかを繰り返し明確にしてきたのだ。真の驚きはトランプそれ自身ではなく、むしろ欧州人側における準備と戦略的洞察の欠如だ。
 かれらの軍事支出を抜本的かつ急速に引き上げることのEU諸国にとっての差し迫った必要を強調する諸言明は、残念なことだが正しい。フィナンシャルタイムスによれば、ロシアの軍事支出は今や、全EU諸国を合わせた防衛予算を上回っている。モスクワは2025年までに、さらに多くの資金――国家予算の40%近くに当たるGDPの7・5%――を戦争に振り向けるつもりだ。
 これは、権威主義体制が民主主義を上回って保持している利点のひとつだ。かれらは、大規模な反対という怖れなしに威圧的な方策を押しつけて、戦争に向け人的なまた経済的な資源を急速に動員できるのだ。その住民がシニシズムと個人主義という後期資本主義イデオロギーに浸されてきた権威主義の一国家は――ロシアを例とするように――、この論理をさらに進めて利用できる。
 その上欧州は、権威主義体制のもうひとつの基本的な現実を見ていないように見える。つまり専制者が一旦戦争に乗り出した時には、彼はそれを簡単に止めることはできない、ということだ。その者の体制の延命は、権力の全構造をついには消費する戦争に、分かちがたく結びつけられるようになるのだ。
 今EUの防衛を強化するまさに実体的必要を語っているマクロンやショルツに例示されるEUの指導者たちは、この危機に道を清めた同じ者たちだ。かれらは、かれら自身の社会内部の社会ダーウィン主義的論理を容認しつつ――最も強大な力をもつ者たちが最もか弱い人々を支配し続けるシステムを維持しつつ――、国際舞台での力の乱用を糾弾している。この矛盾が、かれらの信用を弱め、民主的な諸制度に対する高まる一方の不信に油を注いでいるのだ。そのような一貫性の欠如が、幻滅を抱かされた有権者を動員するためにそれらの亀裂を利用するファシスト運動に、豊かな土壌を生み出している。
 広がる一方の不平等、高まる一方の不公正感、そして現実から切り離された政治的エリートの現状認識が彼らの正統性を弱めている。それでもかれらが権利や主権の防衛といった原則的な原理を支持するならば、見捨てられた、あるいは無視されていると感じる社会も国際的使命を支えるために闘うだろう。

不公正な和平強要こそ最も危険


 政府は今ウクライナ支援のような遠く離れた大義とされたものの方を選んで国民の利益を犠牲にしているとの考えに油を注ぐことで、ポピュリストは先の不満を利用している。フランスのジャン・リュク・メランションやドイツのザーラ・ヴァーゲンクネヒトのような政治的人物は、社会的不公正を糾弾するが、他方では、ロシアのような権威主義体制が犯した違背を正当化しつつ、国際的な舞台では最強な者の掟を奉じている。選挙に関する計算から動かされたかれらの日和見主義的位置取りは、かれらのレトリックからあらゆる信頼性をはぎ取っている。
 その上、一国の国際政策から国内の社会的公正を分け隔てることも不可能だ。世界的な舞台でシニシズムと支配を大目に見る、あるいは力づけまでする社会は、国内の社会関係でも同じ力学を不可避的に正規化する――逆も成り立つ――。
 より公正で結合した社会は、国際的約束と防衛予算――その必要性は今や否定できない――を支持する能力がもっと十分に身についている。効果的で急を要する再配分政策は市民の信頼を回復する上では必須だ。こうして、EU諸国がウクライナに提供できる支援は、軍事的援助や経済的援助に限られない。実際その援助はまた、正統性というかれら自身の危機の解決次第にもなっている。
 しかしながら、何度でも繰り返されなければならないことは、全ウクライナ人にとって真に大事な援助は軍事的援助だ、ということだ。それが、ひとつの社会としてのウクライナの生き残りにとって、同じくその人民の各自にとって、ただひとつの決定的な条件なのだ。
 多くが、特にドイツでは、ウクライナ内の極右の影響力に懸念を表明する。それでも、その意志に反して侵略の犠牲者に押しつけられる不公正な「和平協定」以上に過激派に油を注ぐものは皆無だ。系統的で残忍な抑圧と組になった軍事占領以上に急進化を進める情勢など一切ない。
 もしウクライナがロシアによって命じられた和平を受け容れるよう強要されるならば、蓄積された挫折感と不公正感が、急進的運動に対する燃料の役割を果たすだろう、そしてその運動は穏健勢力と進歩勢力を犠牲に生い茂るだろう。歴史は、怪物――絶望と憤怒から生まれた諸々のテロリスト組織――を誕生させるにいたったような和平協定強要の事例に事欠かないのだ。
 トランプは公然と、ウクライナ政府やその人民にはお構いなしに交渉する意志を言明している。そうすることで彼は、クレムリンの設定課題と全面的に連携しロシアの侵略を反動的に正統化する。もっと悪いことに彼は、この侵略を真実であること――国際法のとてつもない侵犯と確定された戦争犯罪を伴った違法な侵略戦争――で呼ぶことを拒否することで、深刻に危険なメッセージを送っている。
 彼は、そのような拡張主義政策は大目に見られるだけではなく報償までも受け取る、という考えを強めている。台湾、フィリピン、バルト諸国、モルドヴァ、またアルメニアは今、そのリスト上の次になることに覚悟を決めなければならない。この全体的な流れの中で必須になることは、確固とし曖昧さのない立場をとることだ。どんな交渉であれ、ウクライナ人民を犠牲に、またかれらの同意なしにはなおのこと、行われてはならない。
 嘆きの時は終わっている。今こそ行動の時だ。そうでなければ、塵が静まり、霧が晴れるある日、われわれは恐怖の中で自らに問うことになるだろう、この差し迫った惨事を前にわれわれはどれだけそれほど受動的で、それほど顔をそむけ、それほど無関心でいられていたのだろうか、と。(2025年2月23日)

▼筆者はウクライナのドネツク生まれで、現在はローザンヌ大学の学生。(「インターナショナルビューポイント」2025年2月27日)

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