ポルトガル:労働法改悪に反対三百万人決起

成功したゼネスト

本多洋介(同国在住)

 ポルトガルで2025年12月11日、政府が提案している労働法改定案の撤回を求めたゼネラルストライキが行われた。
 労働組合のナショナルセンターのCGTP(ポルトガル労働者総同盟)によると全国で300万人が参加し、もう一つのナショナルセンターUGT(労働者総連合)は組合員の80%以上が参加したという。ポルトガル統計局によると総人口は1075万人で雇用者数が約530万人とのことなので、CGTPの言うように300万人が参加したのなら、労働者の半数以上がゼネストに参加したことになる。

大通り埋めた
老若男女の波


 ポルトガル北部にある第二の都市ポルトでは朝から鉄道やメトロ、市内バスの多くが運休し、役所や病院などの多くが影響を受けていたが、観光都市でもあるポルト市内中心部にある店舗やショッピングモールは、観光客相手に概ね通常通りの営業が行われていた。午後3時から市内中心部の大通りでゼネスト集会が行われ、労働組合だけでなく、多くの労働組合に属していないと思われる人々も集まり、歩道を含めると幅100メートルはある大通りは一万人近くの人で溢れていた。参加者は学生を含めた若い人たちから年配の人たちまで年齢層は幅広く、子どもがプラカードを持った家族連れの姿も目立った。この12年ぶりのゼネストは、政府が今年7月終わりに提案した労働法改定案の撤回を求めたものだ。
ちなみに現在の政府は、今年初めに行われた総選挙で成立した社民党を中心とした右派政権。最大野党は、2年前まで政権の座にあった社会党と、この総選挙で勢力を大幅に拡大した極右政党シェガが国会議席の同数を占めている。

百超える
規制外し


 政府の提案は100を超える改定案からなっており、「労働パッケージ」と呼ばれている。
その主な内容は、
1.アウトソーシング規制の撤廃=現在は労働者を解雇した後12ヶ月間はその労働者が行なっていた業務をアウトソーシングすることを禁止しているが、それを廃止する
2.有期労働契約の期間の延長=現在は長期失業者だけが有期契約をすることが認められているが、企業は短期契約だけをすることが可能になり、就労経験のない若者などの労働者は無期契約を得る機会が少なくなる
3.企業による解雇を簡素化=解雇をめぐって争っていても裁判の手続きを経ることなく企業が解雇を進めることができるようになり、また未払い賃金などの権利の放棄を署名だけで行えるようにする
4.レイオフした労働者の再雇用を義務化しない=企業は賠償金の支払いだけで済み、実質的に自由解雇を認めることになる

5.個人労働時間バンク制の復活=現在採用されているグループ労働時間バンク制は、企業の労働者が蓄積した労働時間を他の労働者と共有して企業や労働者がこれを必要に応じて利用することで、企業は労働時間を繁忙期対策などに柔軟に調整でき、労働者は長期休暇など必要に応じて休暇を取りやすくなる制度だが、これを2019年以前の個人バンク制に戻すことで、企業は残業代を払わずに残業させることができるようになる
6.親の権利を制限する=子どものいる労働者でも夜間や週末の勤務を強制できるようにし、とりわけ現在認められている「授乳期間中」という産休条件を「子どもが2歳にまるまで」に変更することで、親の労働契約が不安定になる
 こういった提案が100以上行われ、議会に提出する前に労働組合などとの協議が行われてきた。共産党系と言われるCGTPはこの労働パッケージそのものの提案の撤回を求めた一方で、社会党系と言われるUGTは政府との協議を何度か行い、その中で政府は提案の一部の変更も行なった。しかし白紙撤回は絶対にしないという強硬な立場を政府が崩さなかったため、UGTは交渉が進展しないのに抗議することを含め、CGTPと合意して労働法改定提案の撤回を求めるゼネストを行われることになった。

極右政党に
大きな圧力


 ゼネストはこの二つのナショナルセンター以外にも多くの独立労働組合が参加した。ポルトガルの憲法によると、ゼネストが宣言された場合、労働者は組合員でなくても職場に宣言したり報告することなしに自らの意思でストライキに参加することが認められている。企業はその日の賃金を支払わないこと以外、ストライキに参加したことを理由に不利益な扱いをすることが禁止されている。
 ゼネスト前に行われた新聞の調査によると、ポルトガル国民の69%がゼネストに賛成。若い人ほど賛成が多く、65歳以上の賛成は半分以下。シェガ支持者の67%がゼネストに賛成だが、32%が何が問題なのかわからないと答えたという。この極右政党はゼネスト前には労働法改定提案に賛成する態度を表明していたが、ゼネストが近づくにつれその立場が二転三転し、ゼネスト後の12月中旬現在、場合によっては議会に提出された場合は反対票を投じるかもしれないとすら言い始めている。

否定できない
社会への影響


 今回のゼネストの規模について政府やビジネス界は、民間部門のほとんどが通常通り業務を行なっていて、公共交通機関や役所、一部の企業が止まっただけのストライキにすぎなかったとしている。公式の統計が出てない以上、実際の影響はどうだったか判断することは難しいが、ポルトガルはヨーロッパの中では組合組織率が15%前後と非常に低い上に、労働力人口の12%ほどが外国人労働者であることを考えると、このゼネストは社会にインパクトを与えたことは間違いないだろう。
 ポルトガルでは2026年1月18日に大統領選挙が行われる。ゼネストはその選挙戦の真っ最中に行われた。12月中旬の新聞の調査によると、大統領選挙第一次投票では政府与党系候補者、社会党系候補者と争っている極右政党党首が首位になる可能性が高いという。ゼネストで示された社会的な動きは、これからのポルトガル社会にどのような影響を与えるのだろう。
(2025年12月21日)

非労組員を含め労働者が大挙決起した(12.11ポルト)

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