寄稿 労働者の闘いで労働パッケージ撤回
二度のゼネストで闘う
ポルトガル国会で否決
本多洋介(現地在住)
昨年2025年7月下旬に政府が提案し、11カ月にわたって議論や交渉が続いてきた労働法改定提案(労働パッケージ)が6月19日、国会で否決された。
国会で審議と投票を傍聴していた労働組合ナショナルセンターのCGTP(ポルトガル労働者総同盟)のオリベイラ書記長は「この結果を生み出したのは労働者の闘い。労働者の動員が極右政党シェガの投票を左右した」と述べ、もう一つのナショナルセンターUGT(労働者総連合)は「労働者と労働組合運動の勝利」と述べた。
この11カ月の間、労働組合ナショナルセンターは二度のゼネスト(2025年12月と2026年6月)を行うなどして反対してきた。
投票で政府提案に賛成した政党は、政府与党のPSD(社会民主党)とCDS―PP(民主社会中道・人民党)、これに加えてIL(リベラル・イニシアティブ)で、その他の野党は反対票を投じた。
いくつかの修正案を提示していたシェガは、投票直前まで首相と交渉を続けたが、合意できなかったとして反対票を投じた。
モンテネグロ首相は提案が否決された後、退職年齢の引き下げという許容できない提案をしてきたとシェガを非難し、「ポルトガルの競争力を強化させる提案を諦めることはない」として、別の機会に再び提案すると述べた。
11カ月にわたる労働者の闘い
「労働パッケージ」と呼ばれているのは、ポルトガル政府が閣議承認したTrabalho XXI
(21世紀の労働)のことで、労働法の100を超える条項の改定を行おうとするもの。政府はこの案を2025年7月末に社会協議会に提示した。社会協議会とは、雇用者団体、労働組合、政府で構成される組織で、政府提案が国会に上程される前に利益者団体同士で交渉を行っていくもの。
二つの労働組合のうち、CGTPは提案当初からこの案の撤回を求めており、社会協議会での交渉をボイコットしたため、UGTのみが社会協議会の交渉に参加した。
夏から秋にかけて社会協議会は何度も開かれたが交渉は進展せず、11月に入ってCGTPとUGTが合同して「労働パッケージ撤回」のゼネストを行うことを決定、12月11日にゼネストが行われた。当日は300万人(CGTP発表)が参加し、交通機関、学校、病院、自動車・電機工場などがストップした。
2026年1月上旬から大統領選挙が始まり、第一回投票で1位と2位になった社会党系候補者とシェガ党首が第二回投票に進み、2月に行われた投票の結果、社会党系のセグロが圧勝した。セグロ新大統領は「社会協議会での合意がない限り、この法案を拒否する」と述べた。
この間、政府はCGTPを排除して社会協議会を開催。50件以上の修正が行われるなど政府はいくつか譲歩をしたものの、UGTは、このレベルでは7月の政府提案とほとんど変わらないので合意に至ることはないとした。
3月上旬、雇用者団体は、UGTが立場を変えない限り交渉を続ける価値がないとして交渉を終了することを決定。労働大臣も交渉を継続する意味がないことに同意し、社会協議会での合意は達成されなかった。
この一連の動きを受けてCGTPは5月1日のメーデー集会で、6月3日に再びゼネストを行うことを宣言。UGTは国会での採択を控えているのでゼネストには参加しないとしたが、UGT傘下の組合や労働者が参加することは認めると発表した。
政府は5月20日、社会協議会で合意できなかった提案を閣議承認し、国会に上程した。
これに対してシェガは、退職年齢の65歳への引き下げなどの要求を加えた上で、政府提案が変更されなければ国会で反対票を投じると述べた。
6月3日、2回目のゼネストが行われ交通機関や病院、学校などがストップ。UGTは参加しなかったが、傘下のいくつかの組合がゼネストに参加した。
6月18日、国会で上程された労働パッケージの議論が行われ、国会前ではCGTPによる抗議集会が行われた。
翌19日の投票当日、シェガは投票直前になって議事の30分停止を求め、その間に首相に対して退職年齢の引き下げなどを含めた提案の受け入れを求めたが、首相は「退職年齢は神聖なもので、引き下げは年金制度の持続可能性を損なう」として拒否。シェガとの交渉が決裂した結果、左派系野党6党と極右政党シェガの反対で「労働パッケージ」は否決された。
労働パッケージとは
政府が国会に上程した法案は、個人労働時間バンク制の再導入、12歳未満の子供を持つ親・祖父母の休憩時間の短縮により早退できる権利、短期契約の新たな制度導入、期間契約を2年から3年に延長、労働者解雇後に直ちにアウトソーシングできる制度、懲戒や解雇手続きを簡素化するなど。
政府はこの法案の目的として、生産性の向上、賃金の改善、デジタル経済への適応など、労働法の「近代化」を挙げたが、労働組合は、労働者の権利を奪い雇用を不安定化するだけでなく、解雇が簡単に行われるようになり、労働組合活動を制限することになるとして一貫して反対してきた。
シェガが投票直前までこだわった退職年齢の引き下げ要求は、過酷な労働を長年続けた労働者や肉体的限界に達した労働者が退職できる制度を求めている労働組合の立場とは異なっている。シェガの要求は交渉カードとして持ち出されたもので政治的なアピールの側面が強いものだが、このような要求をすること自体、二度のゼネストに見られる労働者の闘いに強く影響されたものだとも言えよう。
新たな攻撃 社会保険制度一元化
国会では現在、社会保険制度の一元化が議論されている。政府は、高齢化に対処し、窓口を一元化し、手続きを効率化するために、社会保険や国民健康保険、失業保険制度など、現在バラバラに行われている制度を一元化するための提案を行なっている。
シェガを含む野党は、社会福祉制度そのものを変えようとする提案で、年金や給付金の廃止・切り下げにとどまらず、地域格差を拡大し生活を破壊するものであるとして反対の立場をとっている。
次から次に押し寄せる生活を破壊する攻撃に、労働パッケージとの闘いの経験の下、ポルトガルの労働者や市民たちは、闘いの手を休めることはないだろう。
(2026年6月29日)
[参考] ポルトガル国会議席構成(定数230)
政府与党91議席
社会民主党 (PSD): 89
民主社会中道・人民党 (CDS-PP): 2
(PSDとCDS-PPでDA (民主同盟)を作り政府を組織)
与党系9議席
リベラル・イニシアティブ (IL): 9
野党130議席
シェガ (Chega): 60
社会党 (SP): 58
自由党 (Livre): 6
共産党 (PCP): 3
左翼ブロック (BE): 1
人々・動物・自然党 (PAN): 1
共に人々のために党 (JPP): 1

6月3日に行われたゼネストのデモの先頭(ポルト市中心部)
横断幕には「労働パッケージにノー」「もう一つの道は可能だ」「+賃金」「+権利」と書かれている
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