米国 不気味に迫りくる選挙

渦巻く不確実さの中での争い

動く方向が決まらない情勢を選挙は変えない

「アゲンスト・ザ・カレント」

 現職大統領の政党がどれほどの敗北を喫することになるかが主要な問題になる米国の中間選挙は伝統的に、予想通りには予測できない。慣例通りならこの11月、それは共和党に2倍あるいは3倍当てはまるはずだ。
 しかし今年11月の選挙は、深刻に不人気な破滅的な戦争、またかれらの将来を恐れている何千万人という米国人のぞっとするような不安感の真ん中で、予想を許さないほどに予測できない。問題は、民主党が――どちらの民主党が――共和党のきわどい下院過半数をひっくり返す可能性があるかどうか、をはるかに超えている。
 8月4日のミシガン州上院予備選、また進歩的反乱派候補者の医師、アブドゥル・エル・サイードの勝利には、国民的な注目が、また国際的な注目も――そして6100万ドルの後ろ暗いカネも――、引きつけられた。その意味と含みについては後でもっと多く語るつもりだ。

あまりに多くの不確定要素


 この論説の記述から選挙までの間では、おそらくもっと多くが変化するだろう。渦巻くような多様な不確実さには以下のことが含まれる。
(1)米国のイランとの戦争状態がどうなるか? 再度の休戦、および交渉と石油価格の安定化、あるいは1バレル150ドルかそれ以上の石油を伴った大規模エスカレーションと地域中への戦争拡大、あるいは――おそらくもっともありそうな――もっと面倒だがその間の何かか?
(2)燃料価格の上下動、やったり止めたりというトランプの関税、さらに移民の大量拘留と追放により潜在的にそこなわれている医療ケアや建設や農業によって、米国経済はどうなりそうか?
 特に毎日の半ば混乱した「トゥルース・ソーシャル」投稿によってトランプ自身の政策が移り変わっている時、先のどれひとつとして知ることは不可能だ。
(3)トランプと共和党カルト集団は、彼らの権力を守るためどこまで進むのか? それは、連邦レベルではないとしてもいくつかの州で採用される条件での、トランプの大規模な有権者抑圧「米国救出法」を通して打ち固めるための、あるいは郵便投票を阻止するための、死力を尽くした動きだろうか? それとも、おおっぴらに議論されている恐ろしいシナリオの中で、投票所へのICEと国境パトロール要員の配置だろうか? 果ては、投票箱押収の試み、あるいは違憲の政府命令に従うのを拒否する州の選挙公職者を起訴するもくろみだろうか?
 またインチキ「非常事態」の大統領宣言か? あるいは得票集計阻止に向けた右翼暴徒の解き放しだろうか? さらに郵便投票郵送のサボタージュだろうか?
 今のところ、そのような極端でリスクの高いできごとの蓋然性は相対的に低いと見えるかもしれない。しかしながらその結果は、政府の正統性に関わる、また憲法プロセスの中で残っているものに関わる、原理的な危機をもたらす可能性があるだろう。

民衆の怒りの中で右と左の反乱


 当面純粋に「正常な」選挙プロセスを当然と考えつつもわれわれが分かっていることだが、トランプ2政権は月毎に一層不人気になり、鍵になる下院選挙区と上院の争いで共和党の現職は深刻な問題を抱えているように見える。それでも民主党は、比較してよければ、トランプ・カルトと化した共和党よりもむしろ不人気だ。
 疑いなく、民衆の怒りを駆りたてている予備選の直接の要因は経済だ。つまり、食品と燃料の価格インフレ、数百万人に対し医療ケアを利用できなくしている健康保険費用、流行のAIがかれらの現職および将来の雇用機会を一掃するかもしれないとの、テクノ労働者内部の怖れだ。
 両資本家政党内部にいくつもの反乱がある。もっとも明白には、民主党内とその支持者基盤の左傾化している部分に。しかしまた、「経済を立て直し」「永久に戦争を終わらせる」という約束をトランプが破ったことをめぐって幻想を壊されたMAGA内部にも。
 トランプはMAGA共和党側で、「急進左翼の民主党」に関するわめき立て、またキューバが推し進める「共産主義の脅威」というおとぎ話的妖怪によって注意を逸らし、他方で、彼の関税のめざましい成功を吹聴している。しかしそれを人々は、自身の暮らしの中で悲惨だと益々理解できている。ゴロツキ的な政府は、サディスティックな移民の拘留と追放によりその効果を二重に引き下げている。
 何人かの元忠義者たちが(かつて以上に)反合理主義かつ反ユダヤ主義の過激派に向かってはがれ落ちているように、トランプの奇策は恐ろしいほど機能していない。政権自身は、たとえば故リンゼイ・グラハム上院議員(つい先頃死亡:訳者)やマルコ・ルビオの伝統的軍国主義――ベネズエラを管理するためのトランプの勝利――と、J・D・ヴァンスの間で分裂している。そして後者の新孤立主義傾向は、欧州極右への公然とした賞讃、およびプーチンのロシアとの緊密な関係と組になっている。
 そうであっても、企業のカネと後ろ暗いカネからなる底知れない財源、今も強力なトランプ・カルトの崇拝者、さらに最高裁の極右過半数が可能にした党略的であからさまにレイシズム的なゲリマンダーの力を抱える共和党の機構は、手強さを保っている。その敗北は決して確実ではない。ほとんどの計算によれば、大規模な「波」になる選挙を除けば、下院選挙区総数435の内、真に競争になるのは20かそこらしかないのだ。
 勝利しない場合は選挙結果を拒絶するという共和党の公然とした意図は、政治的空気の中に、より高いレベルの移り変わりやすさ、怖れ、またいつも通りの予測の不可能さ、を持ち込んでいる。

民主党内部で高まる主流派嫌悪


 われわれはふたつの点で明確である必要がある。
(1)資本家政党の民主党は、何らかの進歩的なあるいは民主的な上げ潮によって変革される、というようなことはないだろう。
(2)しかし、全国的に実行可能な自立した政治の不在の中で予備選で起きていることは、民衆的な怒りと政治的な変わりやすさを反映しているが、また無視されてよいものでもない。
 膠着し柔軟性を失った党指導部に対する公然たる反乱は、民主党指導層が失敗し、後退し、あるいは崩壊した一連の問題が重なった結果を表している。恐れをなした党主流派(エスタブリッシュメント)による反発がすでに表面化している。
 2028年大統領選の有力候補者とみなされ、オバマの恩師であるとともに首席補佐官でもあり、シカゴ教職員組合を解体しようとする苦い戦いに挑んだ末に敗北した元シカゴ市長のラーム・エマニュエルは、進歩派や民主的社会主義左翼は民主党の見通しを「台無し」にするだろう、とウォールストリートジャーナルに書いている。
 党の進歩派活動家たちが、人々の暮らしと希望を今潰しつつある諸々の危機に対する実際的な回答を求めているその時、党主流派の大企業寄りの中道派は、「現実主義」や漸進主義の訴えで、また諸々の選挙を何度も何度も敗退させた、コンサルタントが推す生気のないキャンペーン戦術の訴えで応じている。中道派の「第三の道」は、民主的社会主義攻撃のための1500万ドル募金運動を約束している。
 分かれ目になる問題には以下の問題が含まれている。すなわち、企業のPAC(政治行動委員会、会員から選挙資金を募り、非課税で候補者に寄付する組織)や億万長者のカネによる政治腐敗。全国一律の「メディケイド・フォー・オール」医療扶助制度が差し迫って必要なこと。頂点への全く不愉快な富の集中。北米と欧州が文字通り燃えている中での、トランプ派ゴロツキ集団の規制解体浮かれ騒ぎと「掘って掘って掘れまくれ」の愚行。そして反ICEの大衆的抵抗に火を着けた反移民のテロ、などだ。
 ガザでのイスラエル国家によるジェノサイド、占領下の西岸地区での殺戮的民族浄化、そしてレバノン南部への併合を目指す侵攻に対する激しい怒りの高まりも、決して軽視できない。
 注目に値し前例がないことだが、米国人多数――高齢の共和党員を除くあらゆる層の中の――は、パレスチナをイスラエルよりもっと共感をもって見ているのだ。ラーム・エマニュエルですら、シオニストに対する彼の不朽の忠誠にもかかわらず、イスラエルの振る舞いによって米国内の支持が急速に失われていると、イスラエルの聴衆に警告を発した。
 「平和を求めるユダヤ人の声(JVP)」の時事通信である「ワイア―」は、ゾーラン・マムダニの選出以後「6人の下院議員候補者を含む11人のJVPアクションが支持した候補者が予備選でこれまでに勝利した――パレスチナ人の自由に対するかれらの揺るぎない支持にもかかわらずではなくそれを理由に」、と伝えている。
 バイデン―ハリス政権は、最初から殺戮の激しさを分かっていたにもかかわらずガザでのジェノサイドを可能にしたことから、まったく正当にも嫌われている。イスラエルのネタニヤフ首相は、お世辞と「対イラン戦における迅速で世界を変えるような勝利」という見通しでトランプを唆したとして、幅広い層から嫌われている。

進歩派の前に困難に満ちた戦場


 これらの組になった諸要素がいわば反乱を引き起こしてきた。そしてその反乱が、ニューヨークシティでマムダニの市長選出や何人かの注目に値する民主党予備選挑戦者を生み出した。とはいえもちろん、ミズーリでのコリ・ブッシュ(DSAの元下院議員:訳者)の敗北や、フランチェスカ・ホンのウィスコンシン州知事予備選における0・5%足らずの差による敗北、のような敗北もある。
 米民主的社会主義者(DSA)は、メディアの記事とトランプのこきおろしの中で、反既成エリートの盛り上がりを支える推進力と見られている。DSAは疑いなく、先に挙げた闘いのいくつかで(マムダニの勝利におけるように、またたとえば2028年大統領選へのアレクサンドリア・オカシオ・コルテス立候補というアドバルーン的考えの押し出しの中で)意味のある役割を果たしている。しかしDSAが唯一の要素ということではない。
 全国的脚光を浴びたミシガンにおける上院選では、公衆衛生専門家のアブドゥル・エル・サイード医師が、8月4日の予備選で確定と見られたAIPAC(米・イスラエル公共委員会)中道派民主党のヘイリー・スティーヴンスに闘いを挑んだ。社会主義者としてではなく「メディケイド・フォー・オール」の、また対イスラエル援助の終了の声を大にする主唱者として名乗りを上げた彼は、「親イスラエル」派や大企業系PACの標的となり、それらの資金の一部は悪質なテレビ広告やダイレクトメールに充てられた。
 エル・サイードのキャンペーンは、アラブ人コミュニティ、「アブドゥル支持のユダヤ人」や「アブドゥル支持の女性」の形成を含む、進歩的で親パレスチナの組織的活動を、対抗攻撃に向け活性化した。
 その間AIPAC(概して本選よりも予備選にその財源を投じる)は、その努力をエル・サイードを敗北させるために続けるつもりだ、とあけすけに語っている。その広告は疑いなく、予備選中にかれらが広めた毒を含んだ嘘に基づいて、特にユダヤ人、黒人、女性の支持者に的を絞るだろう。
 民主党の「統一」に関する重要なテストは、ミシガンの有力者と全国的な人物――現知事のグレッチェン・ウィトマーからオバマ元大統領までの――が、右翼トランプ派共和党のマイク・ロジャースの対立候補としてエル・サイードが立候補する中で彼を力を込めて支持するかどうか、になるだろう。そしてそれは、米国上院をどの党が支配するかを決める可能性があるものとして、例外的に費用がかかり汚いものになる、と見られる争いの中でのことなのだ。
 にもかかわらずそれとは真逆に、もっとも楽観的なシナリオの下で――もしかしたら民主党が上院を支配し、おそらく信用を失ったチャック・シューマー(現民主党院内総務)をクリス・ヴァン・ホレンのような上院議員に置き換えることまでするようなことがあれば、というような――、いくつかの進歩派の空想がある。民主党がほとんど中味のない話よりもむしろ行動で真のリベラルな野党になるかもしれない、として。
 それは大きな改善になる――そして疑いなく民主党に関する昏睡状態にある幻想を生き返させる――可能性もあるが、しかし社会民主主義の夢に基づく変容とは大違いだろう。率直に言って、この結果は全国レベルで、選挙で達成されるかもしれない可能性のほとんど上限だ。
 下院では、民主党過半数への変更は、議長職をハキーム・ジェフリー(現下院民主党院内総務)の支配下に置くと思われる。しかし彼は、確信犯的中道派でAIPACの支援では党内随一の受益者だ。

社会の鍵を握る層との結合が要


 共産主義者という脅しに関するトランプのたわごとは言うまでもなく、民主党既成エリートの反攻に加えて、進歩派民主党の成功には、あるいはついでながら活動家運動には、もっと深い障害がある。社会の鍵を握るほとんどの諸層に対する運動の接触度合いは依然限られたままなのだ。
 これは、この2年のノー・キングス・デ―決起――大規模で創造的、またエネルギーにあふれていたが、その圧倒的多数はもっぱら白人――の中で見えただけではない。黒人コミュニティは政治的に関与しているが、しかしそれ自身の差し迫った懸念に基づくものだ。
 特に南部を含む多くの州で民主党の背骨になっているアフリカ系米国人の支持者はこれまで、戦略的な重要局面で党指導部の堤防になってきた。これは特に、サウスカロライナの2020年大統領選予備選で示された。そこでは、指導的な黒人下院議員のジム・クライバーンがジョー・バイデン支持票を結集し、バーニー・サンダース立候補への高まりを沈めた。
 デトロイトの票もまた、ミシガンでのアブドゥル・サイードの薄氷の勝利の、世論調査の予想よりもまさに厳しい接戦になった理由の大きな部分にもなった。実際、クライバーンはスティーヴンス支持のため予備選最終版にやってきた。そして彼のキャンペーンは、アフリカ系米国人コミュニティ、特に黒人女性に対するスティーヴンスの広められたつながり、および彼女が黒人公職者(またもちろんだが、著名な白人のミシガン既成エリート)から受けた承認を重点的に売り込んだ。
 警察の暴力やアフリカ系米国人コミュニティメンバーの殺害の数知れない事例をめぐる、強力な黒人主導のまた人種横断の抵抗がある。困難は、コミュニティの多くが、「選出可能性がより大きい」と思われている民主党主流派を、黒人民衆のいのちと権利を破壊するような、トランプ・共和党の乱暴狼藉に対する唯一の堅固な防衛として見ていることから生まれている。
 独立した政治が米国における実行可能な要素になるためには、黒人とラティーノの運動が最初から中心の勢力でなければならない。それは、特に右翼からの実体のある極度の脅しを前にした時、途方もない挑戦だ。
 危機に瀕したアメリカにおいて、現時点で唯一予測可能なことは、迫りくる中間選挙に限らず、どれほど多くのものが危うい均衡にあるかということだけなのである。こうして選挙は、将来を決めるものではなく、今後の闘いの領域を生み出すのを助けるものなのだ。(2026年9・10月号)

▼「アゲンスト・ザ・カレント」は第4インターナショナルの支部である米国のソリダリティが発行している。(「インターナショナルビューポイント」2026年8月25日)   

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