テロとの戦争 9・11から25年(下)
帝国主義の限界露呈下での闘い
新世代の活力と新たな闘争形態創出が鍵
ジルベール・アシュカル
ガザ:米国の利益と欧州の思惑
Q マルクス主義者にしては驚くほど理想主義的な主張ですね。これは物質的利益の問題ではなく、文化的な遺産の問題だと考えますか?
A 米国はイスラエルとの同盟関係に明確な物質的利害関係があります。イスラエルは中東地域における米国の覇権を執行する役割を与えられています。一方、欧州諸国がイスラエルを支持する理由として、物質的利害関係はそれほど重要ではありません。ガザに対する欧州諸国の姿勢の出発点はイデオロギー的なものです。「10月7日はホロコースト以来最大のユダヤ人虐殺」という表現が繰り返し流布され、イスラエルへの共感が煽られた結果、西側諸国はイスラエルの「自衛権」を支持しました。数カ月を経て、破壊の規模が無視できないほど大きくなり、イスラエルの対応がいかに不均衡であったかが明らかになってから、彼らは停戦を求める方向へと転換しはじめたのです。
物質的利益という観点から言えば、ネタニヤフのような政権がイスラエルで権力を握ることは、ヨーロッパのリベラル的な政権にとって利益にはならず、むしろ次々と難しい問題を引き起こします。ネタニヤフはヨーロッパのリベラル的な政権には敵対的で、そのことを常に公然と表現しています。今では英国でさえイスラエルと緊張関係にあります。ヨーロッパは地理的に米国よりも中東にずっと近いため、この地域で起こることはヨーロッパに即座に影響を及ぼします。この単純な事実から西側諸国の間でも利益関係に違いがあることがわかります。
しかしヨーロッパは米国に従属しています。そのことがヨーロッパ諸国の介入に非常に特殊な戦略的立場の選択を迫ります。スペインやアイルランドなどごく一部の政権はイスラエル政府の行動に反対の声を上げる勇気を持っています。そうすることで彼らは沈黙を守る国々よりもヨーロッパの利益をより忠実に代表していると言えるでしょう。
介入主義と孤立主義の分裂
Q ネオコンは米国の国益のみを追求し、他国の利益を考えないことで知られています。9・11同時多発テロの直後はネオコンが圧倒的な勢力を誇っていましたが、今ではほとんど誰も彼らのことを話題にしません。彼らは何を計画していたのですか? それは成功したのですか?
A ネオコンは「レジーム・チェンジ」(力による体制転換)というドクトリン、つまり米国は世界中に自由民主主義体制を強制する使命があるという考え方で記憶に残っています。西側モデルに基づいてイラク国家を再建するという幻想は、占領軍が既存の国家機構を完全に解体する結果をもたらしました。ここからカオスが始まります。レジーム・チェンジの試みは完全に失敗に終わりました。
その結果、米国は表向きは「民主的イラク」という構想(実際には親イラン勢力を勢いづかせていた)から、より現実的な部族社会への依存と軍隊の撤退へと方針を転換しました。占領が正式に終結する前から、イランはイラクにおいて米国よりも大きな影響力を持つようになっていました。ここからいわゆる「イラクの教訓」が導かれ、独裁国家を解体したことが誤りであり、今年初めにベネズエラで起こったように「体制はそのまま維持し、国家の方向性を変えるだけ」という戦略が採用されるようになりました。
Q 現在、米国の右派内部では介入主義者と孤立主義者の間で分裂が生じています。トランプ自身のアプローチは方法論と目的の両面において、どちらの陣営とも異なっているように見えます。この分裂をどのように特徴づけますか?
A 米国の極右勢力には常に孤立主義的な潮流とタカ派的な潮流が共存してきました。トランプは孤立主義者から陰謀論者まで、多様な潮流を一つにまとめようと試み、それぞれの支持層に同時に訴えかけてきました。彼の言動に多くの矛盾が見られるのは、まさにこのためです。トランプはさまざまな要素を寄せ集めて作られた「米国右派のフランケンシュタイン」のような存在と言えるでしょう。
しかし、一つ確かなことは、彼が民主主義を全く尊重しないということです。彼は米国の中で民主主義と戦っているのです! だから彼が民主主義を他国に輸出しようとしないのは当然のことです。
リベラル派の混迷と左派の動き
いずれにせよ議論を「介入か介入反対か」という単純な問題に限定すると帝国主義の政策の微妙な変化を見落としてしまいます。介入の形態が非常に重要なのです。現在では米国は反体制的とみなす体制を交代させるのではなく、体制は維持して、単に協調を強要するというやり方になっています。
トランプは就任前にイラクでの教訓を明確に受け入れ、 「体制転換」という幻想を公然と批判しています。ベネズエラに対する彼のアプローチはその立場と完全に一致しています。彼はマドゥロを排除し、それ以外の体制はそのまま残して、単に米国との協調を求めただけでした。民主的選挙の強要や自由主義的野党の復活などの画策は一切なかったです。
ルビオ国務長官が特に執着しているキューバについても、米国は政権内部の人物と交渉しています。ラウル・カストロの孫が主要な交渉相手の一人です! そして、トランプがイランで望んだこともまさにこれでした。彼はイスラム政権に協力を強要できると信じていましたが、実際には彼の行動は政権内の妥協派ではなく強硬派を強化する結果となりました。
Q そのように競合する両派の間で、米国のリベラル派にはどのような選択がありますか?
A リベラル派は完全に混乱しており、どの立場を取るべきか迷っています。まさにそれが米国左派の復活の背景です。人々は既成勢力が提供する中途半端な自由主義はもはや信用できないと認識しており、民主主義そのものを守るためにも社会、経済、政治に対するラディカルな解決策を求めています。
たとえばリベラル派は、キューバに対する封鎖の継続に反対するには臆病すぎることが証明されています。キューバへの数十年にわたる禁輸措置は犯罪的であり、今や国民に飢餓を強いる段階に達しています。制裁が実際には政権よりも国民を苦しめています。しかし国際社会の反応は、政府だけでなく、キューバ人民との連帯を強く表明すべき大衆運動の間でも圧倒的に弱いままです。
ウクライナをめぐる議論
Q あなたの23年の著書『新冷戦』では、ロシアによるウクライナ侵攻を取り上げています。ロシアの攻撃はテロとの戦いと新保守主義的な介入主義の長期的な結果だと考えますか?
A 03年のイラク侵攻は、米国がこれまでは積極的に主張してきた国際秩序のルールを今後は遵守しないとロシア、中国、そして世界中の人々に宣言したようなものです。
イラク侵攻は国際法に対する明白な違反でした。ソ連崩壊後、全く異なる選択も可能でした。「平和の配当」などの議論もありました。しかし、米国はロシアを敵に回すような意図的な政治的選択、特にNATOの拡大を進めました。これは意図的に行われたと私は考えています。米国はロシアがヨーロッパ諸国にとっての脅威であり続けることを望んでいました。そうすることで他のヨーロッパ諸国が米国と属国のような関係を維持するように仕向けたのです。
ドイツのコール首相も当初から「東方拡大」を支持しました。それは東欧における覇権確立というドイツ資本の利益にかなうものだったからです。しかし、ブッシュ(父)がグルジアとウクライナにNATO加盟を持ちかけた頃には、メルケルはこれに反対する立場を表明していました。ここにも米国の利益とドイツをはじめとするヨーロッパ諸国の利益との違いが見られます。
しかし、そのような事情はウクライナ侵攻という恐ろしい犯罪を正当化するものではありません。その代償をウクライナ国民だけでなくロシア国民も払わされています。この惨事に対する最大の責任はプーチンにあります。
希望は新しい世代の活力と
新たな闘争形態への試行錯誤
Q 四半世紀にわたる米国の帝国主義的介入と「テロとの戦争」を振り返って、今日の米国はどのような状況にあると考えますか?
A 9・11以降、米国が起こした戦争はすべて、ある意味で「敗北」だったと言えるでしょう。それでも米国はターゲットにした政権を崩壊させることには成功したので、「敗北」はカッコつきです。真の敗者は米国自身ではなく、それらの国の一般市民です。それでも米国はどの戦争においても掲げた目的を達成できなかったのです。
これは帝国主義の「広がりすぎた領地」の典型的な事例です。1980年代後半に英国の歴史家ポール・ケネディは「帝国は支配可能な範囲を超えて領土拡大を追求すると衰退する」という、ごくあたりまえの事実を指摘した本を書き、それがベストセラーになりました。しかし、レーガン時代についての彼の評価は間違っていました。レーガンは米国の経済と覇権の両方を立て直すことに成功したのです。
しかし、ソ連崩壊後、ブッシュ政権は傲慢さを隠そうともしませんでした。アフガニスタンとイラクでの戦争は、米国が実際に支配できる範囲をはるかに超えた「広がりすぎた領地」の典型例です。そしてその野望は両国で失敗に終わりました。
しかし、アメリカ帝国は終わったと考える人たちは夢を見ているだけです。米国は依然として非常に強力な国家であり、地球上で最も強力な国家であり、依然として甚大な破壊力を持っています。それでもその限界は03年当時よりもはるかに明白になっています。
Q この状況の中で、何か希望を与えてくれるものはありますか?
A もちろんです。私は希望を持ち続けています。その希望は新しい世代の活力と、彼ら彼女らが新たな闘争形態を生み出す可能性を根拠にしています。最近のモロッコのZ世代の運動を見ても、数千人の若者が決起し、現代のテクノロジーを使って行動を調整しています。驚くべき瞬間です。
私はオプティミズム(楽観主義)と希望をはっきり区別しています。オプティミズムとは最良の結果が起こると信じることです。希望とは、成功する保証はなくても、常により良い結果をめざすことは可能であると確信していることです。今日の状況はペシミズム(悲観主義)が強まる方向に大きく傾いていますが、私は希望を持ち続けることができます。
(了)
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