レバノン戦線の緊張
トランプ再選に頼るネタニヤフ
ジルベール・アシュカル
この数週間、レバノン南部/イスラエル国北部におけるレバノンの抵抗とイスラエル軍間の急激な攻撃の応酬でエスカレーションが見られた。このエスカレーションは、ヒズボラが配置されている全領域での総力戦を始めるという、また破壊の激しさの点でガザ回廊の運命と似た運命をヒズボラに加えるという高まるイスラエルの脅しによる、両側間の諸声明と脅迫のエスカレーションを伴ってきた。
言葉の激しさ
と困難な内情
しかしながら、この戦争に取りかかる用意は十分あるというイスラエル軍情報筋の強調があるとしても、これらの強調は進行中の努力とは矛盾しているのだ。つまり、予備役解除年齢を引き上げる(兵士では40歳から41歳へ、士官では45歳から46歳へ、医師や航空機乗組員といった専門職では49歳から50歳へ)ことで、予備役動員数を30万人から35万人まで高めるという努力だ。
その上にこれらの努力は、ウルトラ正統派のイエシヴァ学生に対する徴兵除外を終わらせる必要に関するシオニスト軍司令部の主張とぶつかり続けている。ちなみにこれらの学生は、現在の新兵の家族と職に対する、したがってこの国の経済に対する重荷を増すことなく兵士の数を引き上げると思われる。
こうして、動員を強化しようとの努力は確かにレバノンでの総力戦準備を仕上げるための軍指導部の決意を指し示しているが、それらが同時に示していることは、イスラエル側からの脅迫エスカレーションは、現在の環境下でレバノンでの総力戦に乗り出すという本物の意図を映し出してはいない、ということだ。特に、シオニスト国家にとってのそのようなコストは、人的なコスト(たとえシオニスト軍がレバノン領土侵略を控え、自身を激しい爆撃に制限するとしても、ありそうなこととして、イスラエル国家内部の爆撃死傷者数はガザでの戦争におけるよりも不可避的にもっと大きくなるだろう)と軍事的なコスト(シオニスト軍がヒズボラに対し使用することが必要になる装備のタイプ)、あるいは経済的コストの点両者で、ガザ侵攻のコストよりはるかに高くなるだろう、と誰もが実感しているからだ。
この現実がイスラエルに対しひとつの深刻な問題をつくり出している。つまりイスラエルは、ガザで取りかかったジェノサイド戦争にワシントンからすでに提供された大きな援助との対比で、米国からの援助における巨大な上乗せなしには、レバノンでの総力戦に取りかかることができないのだ。
その上にヒズボラはテヘランに有機的に結びつき、レバノンに対するシオニスト軍による総力戦は、イランを含むものに拡大する可能性もある。そしてイランは、この4月に行ったように、イスラエル国内部にロケットやドローンを打ち込むこともできるだろう。
イスラエルの攻撃が抱える米国の援助へのこの依存に照らせば、近頃の日々におけるネタニヤフの突然のバイデン政権に対するレトリックのエスカレーションは、現在の環境下でレバノンでの総力戦に乗り出す点でのシオニスト政府の意志不在を示すさらなる証拠だ。ワシントンに向けたネタニヤフのふるまいは、これまでに受け取った以上の米国の支援を求める彼の軍の必要とは対立しているのだ。
こうして、ネタニヤフは11月はじめに予定されている米国の選挙でトランプが2期目を勝ち取ることに今賭けている、ということが明確になっている。彼は今、一か八かの勝負に出てテーブル上にすべてを投げ出すと決めたギャンブラーのように行動している。
タカとハゲワシ
による権力闘争
その上でネタニヤフは、彼とバイデン政権間の緊張の高まりから今政治的に利益を得ている。それは、もっとも困難な環境下であっても外国の圧力に立ち向かっているシオニスト支配者として彼を描くことで、彼の人気を高めている。彼は今、政治ゲームの新しい段階に向け準備中だ。それは、7月24日の米上下院合同会議で彼の4回目の演説を行うためにワシントンに向かう時、バイデン政権に反対する米議会内で彼が受け取る相当な政治的支援を示すことによってだ。
トランプが選挙に勝利すれば、ネタニヤフは、バイデン政権がこのところ彼に加えようとしてきた圧力と制限の類から解放された支援を求めるだろう。トランプが勝利できなければ、ネタニヤフは、バイデン政権およびシオニストの反対派と交渉しそうだ。それは、彼の政府内のシオニスト極右に対する彼の依存を断ち切る余地を与え、2026年の次の選挙まで彼が首座になる「挙国一致」内閣を形成することを可能にする保証を得るためだ。反対派は反対派で、クネセト内で彼の現政権が基礎を置いている連合を分裂させることで、また前倒し選挙を強いることで、確実に彼を取り除こうとするだろう。
しかしながら、シオニストの政治エリート内部の政治闘争がタカ派とハト派間のもの、と考えてはならない。それはむしろタカとハゲワシ間の争いなのだ。
ネタニヤフと反対派の両側とも、2006年の33日間戦争後に国連安全保障理事会が採択した決議1701号の実行として、ヒズボラが北部から撤退し黙って従うか、あるいはかれらが高いコストを払ってヒズボラに対する激しい戦争に取りかかるか、それ以外の第3の選択肢は全くない、と信じている。そしてそのコストをかれら全部が、10月7日以来レバノン戦線で相当に落ち込んだかれらの国家の抑止力を強化するために必要と理解している。(2024年6月25日)(「インターナショナルビューポイント」2024年6月25日)
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