反ファシズム NATO派自由主義の転落

ファシズム反対のご都合主義

ジルベール・アシュカル

―こうしてスターリニズムは、独裁制の最高段階、全体主義との共通の系統関係におけるナチズムの双子から、その大敵――ファシスト枢軸の完璧な敗北に続く10年にスターリニズムをその思想的影響力の頂点に達するのを可能にしたイメージの変化――へと変じた。反ファシズムは、ソビエトイデオロギーで中心的な役割を果たし続けたが、しかしそれも、世界大戦直後からの数十年における相対的なファシズムの周縁化のおかげで、ソビエト体制がその死の苦悶に入る時までの影響力縮小を伴って、のことだ―

 NATO派
 の自由主義

 ソビエトイデオロギーの運命に関するこの解釈は、ナチズムを打ち破る上でのソ連邦の役割が、実際に第二次世界大戦後の共産主義運動では、ロシア革命のボルシェビキの遺産に対する言及をはるかにしのいで最強のイデオロギー的論点だった以上、疑いなく正しい。
 しかしながら、フュレ(フランスの歴史学者:訳者)と他の反共主義者が見落としたことは、スターリニストがマルクス主義に属すると主張するのとまさに同じように、かれらが属すると主張する自由主義もまた、反ファシズムを基礎にしていたことであり、違いは、それが全体主義という範疇の下でスターリニズムをファシズムと組にしていることだ。
 これは、第二次世界大戦での連携を固めるために1941年に米国と英国がまとめた大西洋憲章を画期とするNATO派タイプの自由主義ではかつても今も中心的主張だった。そしてそれは、冷戦期にソ連邦に対し設立された大西洋連合(NATO)の基礎になった。
 しかしながらこのNATO派イデオロギーは、NATOメンバー国がグローバルサウス中でなおも植民地帝国を支配していた中でNATOが設立されたという明白な理由から、偉大なドイツ系米国人ユダヤ人の思想家、ハンナ・アーレントによって分析されたような、ファシズムの根っことしての帝国主義的な植民地主義、を無視していた。それは、ポルトガルという戦後植民地主義ファシスト体制自身がNATO創立国のひとつになったほどまでの無視だった。
 世界が脱植民地の時代に入る中で、NATO派イデオロギーは、ファシズムへのその反対を放棄しないまま、しかしそれをもっぱらナチズムとそれが犯した欧州ユダヤ人に対するジェノサイドに限定しつつ、ソビエト共産主義への反対に焦点を絞った。こうしてNATO派イデオロギーは、一方で歴史的な自由主義が掲げた政治的自由と民主主義というまさにその価値をグローバルサウスで踏みにじった一方で、またそれを残したまま、それらの価値を代表する点での独占権を主張できた。

 頂点における
 歴史的転換点

 われわれは今日、歴史的転換点に達している。その中で、NATOがひとつの仮面として身につけてきた自由主義の主張は、ロシアのウクライナ侵略へのこの連合の反対によって、またウラジーミル・プーチンのネオファシスト的支配と対決する自由の価値を代表するというその主張で、その主張が新たな頂点に達したまさにその時に、転落することになった。この主張は、NATOそれ自身の隊列内でのネオファシズム台頭、またドナルド・トランプの大統領任期下の米国も含んだ、そのメンバー諸国のいくつかにおけるネオファシストの権力到達にもかかわらず行われたのだ。
 そうであってもNATO派の自由主義者は、自身のイデオロギーの基礎として、ファシズムとネオファシズムへの反対を含む反全体主義を使い続けている。そしてそれらの闘争を、グローバルノースの様々な国で起きたような、1930年代の反ファシズム(帝国主義者の)自由主義の闘争の現代版と描いている。
 この自由主義の仮面は今日、ネオファシストとシオニストの植民地主義運動のネオナチ分派が支配するイスラエル国との、NATO指導者が明らかにした連帯と共謀を通して、NATO派イデオロギーから完全にはげ落ちている。そのイスラエル国は、ガザ回廊で、ひとつの工業化した国家が取りかかったナチスのジェノサイド以後ではもっとも極悪な意図的ジェノサイド戦争を、またそれと並んで西岸とイスラエル刑務所内のパレスチナ民衆に対し犯罪的な現在進行形の迫害を今も犯し続け、こうしてナチスがユダヤ人に対し行ったような、人間以下の存在という位置に格下げされたパレスチナ民衆に向け暴力的な敵意を露わにしている国なのだ。

 白人至上主義
 の抜きがたさ

 NATO派のこの立場に照らせば、ロシアのウクライナ侵略に反対する中でのかれらの自由主義の主張は、ファシズムとジェノサイドに反対するという彼らの自由主義の主張とまさに同じく、あらゆる信用を失っている。そして、第二次世界大戦後にかれらの先人により定式化され、1945年国連憲章内に定められたイデオロギーの他の支柱も無価値になっている。
 この歴史的な移行における大きな一見正しく見える矛盾は、かれらの立場を正当化するための口実として、NATO派がナチスのユダヤ人犠牲者への気遣いを今も利用していることだ。かれらは、ナチスに対する闘いの歴史から、レイシスト的な植民地主義の論理が染み込んだ教訓を引き出し、かれら自らがジェノサイドの犯罪的な加害者になっている場合でさえも、その非「白人」の犠牲者との連帯以上に、全ユダヤ人を代表していると主張する者たち、またNATO派がかれらの「白人」世界の一部と見るにいたった者たち、との連帯を選択しているのだ。
 こうして、全体主義の起源に関するハンナ・アーレントの理論は、正しさが明らかになっている。と言うのも、ナチズムが犯した犯罪に劣らず恐ろしい植民地主義の遺産を無視しながら、悪の根源としてユダヤ人への反ユダヤ主義的敵意を見るだけの反全体主義というような不完全な反全体主義は、崩壊を運命づけられているからだ。それは、ナチがかれらの北欧白人の「生活空間」への非白人侵入者と見た欧州ユダヤ人に対するナチの根絶を含んで、現代の最大の犯罪に責任を負っている白人至上主義複合体を克服する点での無能力によって台無しにされているのだ。(「インターナショナルビューポイント」2024年8月26日)  

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