移民 地中海の沈没事故

著しく不平等な海難死の扱い

デイヴ・ケラウェイ

 先週を通じて、ハイテク業界の大物、マイク・リンチ(英国のビル・ゲイツの異名をもつ富豪:訳者)所有のヨットの悲劇的な沈没が、英国とイタリア双方で毎日、紙とTVにおける一面を飾るニュースになってきた。われわれは今はもう、旅客全員の命と背景について知っている。たとえばわれわれは、命を落としたもっとも若い人物であるリンチの娘は、オックスフォードに行くことがすっかり決まっていたこと、またリンチが、スナクとの関係で行ったように、スターマー政権でハイテクの顧問という似たような役割を果たす準備を整えていたこと、を知っている。ヒューレットパッカードと争った訴訟を首尾良く勝ち取った彼の弁護士も死亡した。モルガンスタンレーの国際的な首脳であるジョナサン・ブルーマーも命を落とした。これらは、資本主義社会の最高位で行動し、政府の諸閣僚に言い分を聞いてもらえた。

マスメディアの
大量報道と無視


 現実の沈没はビデオで際限なく繰り返し映されてきた。事故の力学を説明する詳細な図解があり、新聞の中側のページは、悲劇に関する特集で埋められてきた。専門家が何人も、船の設計、さらにそれが沈む前の決定的な数分における能力の質、について詳しく語るために参加を依頼された。このヨットに投じられた数千万ポンドがわれわれのために表にされた。
 イタリアと英国両国の当局は、直ちに助力するためにその特別部隊を動員した。英国の外交官は現場に急行した。ありそうなこととして、沈没の原因、また船長が異なったことを行えたかどうか、についての訴訟がある。もっとかなり小さいながら、一隻のヨットは何らかの大きな困難もなく水上竜巻を生き延びたように見える。このヨットと死亡した者たちの富が表す資産を条件に、今後数年にはならないとしても数ヵ月間、保険会社を巻き込んだ法的なプロセスも起こるだろう。
 さてそこで、ベイエジアンで悲劇的に命を落とした7人の恐ろしい結果についてではなく、ほんの数週間前、そこから離れていないところで溺れた、26人の女性と子どもを含む66人について考えよう。ほとんどの人々は、報道でそれがまさに僅かな扱いしか受けなかったがゆえに、それが起きたことさえ知っていないと思われる。2014年以来、2万人の難民申請者と移民が、安全な国にたどり着こうとして、あるいはわれわれが享受していると同じ種類の生活と安全の保証を見つけ出そうとして地中海で溺死した、と見積もられてきた。

難民の死への
冷淡視と歪曲


 われわれはこれらの溺死したほとんどの人々について、その名前を知らない。いくつかのリストが難民団体や慈善団体によって保持されている。しかしそれもマスメディアによって大部分無視されている。これらの団体ですら、多くを不明として記録することで終わらざるを得ない。ランペドゥサ(シシリー島南方にある移民の到着地になっているイタリアの島:訳者)や他のところで、片付けられた遺体は多くの無名の墓に収められている。これらの溺死した人々は、もっとよい暮らしを求めて努力し、かれらの夢を満たすという、リンチの娘とまさに同じ欲求と動機をもっていた、とわれわれは知っている。これらの話に込められた何らかの意味を得るためには、われわれは、マスメディアに載っている僅かな生き残りの記事や、ある映画のような小説化された説明に頼らざるを得ない。
 諸個人の純資産を争う、あるいはかれらの死の原因をはっきりさせる、そうした保険会社や弁護士のチームも全く現れないだろう。かれらや彼らの家族に対する補償も全く行われないだろう。
 その代わりにかれらは、国際法の下で確立されたような難民権、あるいは労働のための移動権――リンチが制限なく世界中を移動したような資本には存在するような――、を行使したことを理由に、「不法な者たち」として扱われるだろう。かれらの運命は、これらのウブな人々を「巧みに操っている」ひどくたちが悪い人身売買人に責任があるとされるだろう。次のような事実を広めるのはほんのわずかな人々だろう。つまり、主に英国のような政府が難民申請者に安全で合法的なルートの提供を拒否し、国境の安全に巨額の財源を費やしているために、小舟の取引が存在している、という事実だ。
 政府に代わって、小舟の沈没現場にそのハイテクと専門家の資源を急派する中で、われわれは、ギリシャとイタリアの沿岸警備隊が緊急行動をとるのを回避しようと精力的に務めている証拠を得ている。それらは、かれらの職務を実行し命を実際に救うことよりもむしろ、悲劇はそれらの管轄内では起きていないと論じることに、もっと多くの時間を費やしている。

政府の共謀
は隠せない


 まさに今週、労働党の内相、イヴェット・クーパーが国外送還を促進し、拘留センター数を引き上げた。人々は、英国とフランスの当局が御都合主義的に互いを責め合っている中で、英仏海峡で今溺れ続けている。戦争で彼らが使う軍事技術は、相対的に小さな海でのあらゆる溺死を防止する仕事には全く適用できないように見える。
 ここイタリアでは今週、多くの国の例のようにイタリアで生まれたか育てられた移民の子どもは自動的に市民権を確保すべきか、それとも否か、に関し大論争が起きた。強硬右翼政府の連立与党のひとつであるフォルッツァイタリア(ベルルスコーニが創立した政党)は隊列が割れ、その指導者のタイヤーニは、そうした最小限の進歩的な方策は支持する、と示した。連立パートナーであるレガのレイシスト指導者、サルヴィニはこのタイヤーニの新路線に特に腹を立てている。サルヴィニの新たな最良の友のヴァンナッチ、反動的な元将軍は、今回のEU議会選に向けたレガの名簿の先頭にあった。
 彼は、パリで金メダルを獲得したイタリア女子バレーチームのスター選手であるエゴヌについて、本当にどれほど「イタリア人」か、とこの間しきりに疑問を投げ続けてきた。パオラ・エゴヌはナイジェリア人の両親からイタリアで生まれ、たまたま黒人だ。
 さらにほんの少し前、別の移民労働者がラティナ(イタリア半島中央部の西海岸の都市:訳者)のアグリビジネス地域の農場で暑さが原因で死亡した。彼は、この3ヵ月に死亡したふたりめだ。
 もちろんわれわれは、リンチと彼の友人たちの悲劇的な死を、数千人もの移民に粗野に対置してもち出しているわけではない。地球温暖化が引き起こした異常な気象条件や人為的な間違いを通してであろうが、あるいはEU諸国の移民政策により助長されてであろうが、そのような不必要な死はすべて悼まれなければならない。
 ソーシャルメディア上で何人かの愚か者は、思うに左翼の証明を示そうと、これらの「ブルジョアジーの代表」の死を大いに楽しもうとした。無味乾燥なジョークや陰謀論を突き出そうとの試みもこれまでにあった。社会主義者は人道に反し子供じみたくだらない考えを拒否しなければならない。
 われわれの焦点は、これらの組になったふたつのできごとをマスメディアがどう解釈し、描いているか、に当てられている。われわれは、小舟のために溺れている移民の悲劇を、沈みゆくベイエジアンを扱ったと同じ熱量と詳しさでマスメディアに伝えさせたい。われわれは、小舟の現象を引き起こしているものが何かに関する正直な分析、および数週間の中で起きた溺死を止めることができると思われる政策が討論され提案されること、を強く求めている。われわれが求めていることは、海での死が平等に扱われることなのだ。

▼筆者は、アンティキャピタリスト・レジスタンス内のソーシャリスト・レジスタンスと第4インターナショナルの支持者。(「インターナショナルビューポイント」2024年8月28日)   

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