フランス 深刻化する情勢

社会から制度まで危機が貫徹

左翼には文化革命必要

NFPの統一に有利な条件をどう生かすか

ピエール・ルッセ

首相の選択が極右の善意で!

 以下は第4インターナショナルおよび同フランス支部の古参指導者のルッセ同志が、外国の読者向けにフランスの現政治情勢の性格を解説したものだ。極めて簡明な分かりやすい解説であり紹介する。(「かけはし」編集部)


 6月9日、エマニュエル・マクロンは、国民連合(マリーヌ・ルペンの極右政党)が勢いを得つつあった中で、国民議会の解散という想定外の決定を行った。3週間後、第1回投票結果は紛れのないものだった。つまり、大統領ブロックは粉砕され、国民連合は第2回投票で議会内絶対多数を、最低でも最大政党を獲得すると期待できた(フランスの選挙制度は、2回投票制度を使用している。1回目で絶対多数を得る候補者が誰もいなければ、先頭の候補者数名が2回目に進む。そして2回目の最多得票者が勝利する)。
 これらの期待は打ち砕かれた。2回目の後、極右は新人民戦線(幅広い左翼の諸政党から形成された)と大統領与党に続く3位に終わった。
 有権者は権力の回廊内にマクロン派も国民連合も欲しなかったのだ。しかし今日、マクロンのおかげでそこには両者が共にいる。ひとりの首相、僅か5%しか得票しなかった共和党の一員のミシェル・バルニエを選ぶためにマクロンは3週間を要した。その前に彼は、この指名をマリーヌ・ルペンと交渉していた。彼に対し彼女がすぐには不信任決議案を上程しないだろう、との点を確実にするためだ。この女性主人は同意した……条件付きで。
 今や首相の選択は極右の善意にかかっている!

不安定さ克服不能な政府と議会


 新議会(577議席)は、以前のもの以上といってよいほど断片化している。まず、新人民戦線(NFP)がおよそ193議席により僅かの差で先頭に来た。そこには主要4政党、つまり緑、不服従のフランス(LFI)、共産党(PCF)、社会党(PS)、そして連携者たちが含まれている。しかしNFPは、諸労組と諸市民団体の広大な動員によっても支援された。
 慣例によって大統領は、首相候補者の提案を最大議員グループに依頼する。マクロンはこれを、NFP政府は不信任投票によって打倒されるだろうとふんで、安心して尊重することもできたと思われる。しかし彼は代わりに、次の政治的メッセージを送る方を好んだ。つまり、マクロンの新自由主義方策に対するNFPの問題視は問題外だ、と。
 「大統領陣営」は以前の250議席以下の168議席を得た。この「大統領多数派」は選挙で大敗北を喫した。次期大統領選が視野に入る中で、不団結と競合的な野心が標準状態になろうとしている(マクロンは3期目に立候補できない)。
 伝統的右翼の元執政政党、共和党は、今5番目の政党(43議席)に過ぎない。しかしマクロンが選んだ(そして国民連合が黙認している)首相がかれらの党に属している今、何とかれらはかれらの綱領の全面的な実行を求めている!
 しかしミシェル・バルニエは首相として、マクロンの党と協力せざるを得ず、共和党からは何ほどかの独立を力説せざるを得ないだろう。
 143議席をもつ国民連合が得た結果は混じり合っていた。それが期待していたものとはかけ離れていたとはいえ、それはほぼ議席数を2倍化した。これは、その資金源を、さらにさまざまな議会の特権を2倍化している。
 視界にあるのは安定した多数派が全くないということだ。新たな議会選は2025年6月以前には行うことができない。

民主主義破壊:権威主義の行進


 第五共和制の憲法は、西欧でもっとも非民主的なもののひとつだ。しかしこれでも、マクロンと新自由主義の主唱者にとっては十分でない。前政権はすでに、ひとつの法を票決なしに通すことを許している憲法の一条文(49条3項)を、年金改革を法制化するために歪め、悪用していた。これは、現役労働者の90%によって、全労組によって、また議会によっても拒絶された。それに反対して、数百万人が街頭に繰り出した。しかし政府は、意志を曲げずにとどまり、抵抗意志を打ち砕くことを期待した。
 民主主義に対するこの否認は、今や資本の直接的社会支配の確保を自らに引き受けている「社会的エリート」全体にとっては、当然なことに、既知の事実になっている。それは、第二次世界大戦の余波の中で、また1968年5月の後達成された社会的成果を解体しようとしている。それは、利益にならないものを公的部門に残しつつ、利益になる活動すべてを私的部門に移そうとしている。そしてそれは、「中間諸機関」(労組……)、対抗力とそれ以上のものの場を周縁化しようとしている。
 フランスの監視社会は西欧でもっとも発展させられたもののひとつだ。治安機関の権力は強化されてきた。警察は軍隊化されている。軍はこの国内部で高まる一方の役割を演じ続けている。統治では影のセンターが設立されてきた。環境運動は犯罪にされた。優性イデオロギーの影響力が成長し続けている。市民の、社会的な、また環境の諸権利は切り縮められつつある。予防内戦機構が正規にされようとしている。

体制の危機:社会通念の終わり


 憲法は、あらゆる社会的な、あるいは政治的な混乱から権力内にいる者たちを守るために設計された。それは、エマニュエル・マクロンが動かしている超大統領システムに向け枠組みを提供している。彼はその歩みの中で、この体制が持ちこたえることを可能にしてきた均衡を今壊しつつある。それは、大統領職と議会の間の、国家と資本の間の、抑圧と改良の間……の均衡であり、その下では慣例が、数百万人が抗議したとすれば、議会が、たとえドゴール派の議会であっても、見返りに何かを与えるだろう、と要求するのだ。その理解は今や終わっている。
 われわれは諸制度を変えつつある。マクロンは、多くの評論家がいわば「保守革命」と呼ぶものに乗り出しているが、しかし無秩序なやり方でだ。国民連合はこの同じ動力と調和している。つまり、今われわれが目撃中の「衝突―協力」の組み合わせは偶然ではないのだ。

左翼にとっての新たな好機?

 NFP形成とその選挙キャンペーンの予想外の成功は希望を再燃させた。しかしわれわれは、これが一時の猶予に過ぎない、と分かっている。国民連合の伸長は続いている。そして民衆的な決起の動力は脆いままだ。
 しかし得られた時間は好適に使われることが可能だ。夏休みとオリンピックの後、フランスのこの秋は、9月7日、バルニエ指名に反対する数々のデモ(パリではほとんどが若い闘士の約3万人)で始まった。もっと多くが予想されている。
 NFPの統一は、危機や紛争はあってもこれまで維持されてきた。ちなみにこの紛争は、6月に草の根の活動家たちを、9月には再度、LFIを離脱したフランソワ・ラフィンとジャン・リュク・メランションのスタッフ間の乱暴な論争により士気阻喪させた。そうした姿勢は歓迎されない。統一は闘いだが、しかしそれがどう遂行されるかが重要なのだ。
 NFPの当初の成功は、部分的に以下の4つの要素の結果だった。すなわち、国民連合の脅威が引き起こした非常事態。統一に関する左翼の歴史。政治的統一を支持する諸労組と民衆諸組織の決起から発する断固とした圧力。そして議会解散が選挙区をめぐる係争がほとんどなかったことを意味した、という事実だ。
 NFPの政治的な広がりは幅広かった。極左の非セクト主義的な部分すべてが加わりキャンペーンを行うことができた。右派の側では、元大統領のフランソワ・オーランドが自ら選挙に押しかけ、NFPの旗の下で選出された。
 PS、緑、PCFはすべて選挙で顕著な敗北を喫したが、それでもかれらは「左翼」の相貌を見せることでいくらかの勢いを取り戻した。反対にLFIのイメージは、その指導者のメランションが大きすぎる独立性を示したことがある数人の現職議員を排除した時、曇らされた。これにもかかわらず、彼らのうち3人はメランション派候補者を相手にNFPの旗の下で再選された。この粛清は、左翼の活動家世界の中に深い怒りを引き起こし、その敗北はメランションに対するひとつの警報を鳴らしている。
 数人のよく知られたLFI議員は、LFI内の民主主義欠如を非難してきた。そしてLFIは、この問題に関する内部的な批判に直面し続けている。この運動は、棄権常習者(しばしばムスリム)を投票所に連れ出すことによって、民衆の居住地域と郊外で選挙基盤を何とか築くことができてきた。それは一貫して新自由主義の指令と決裂する綱領を唱えてきた(他方で国際的な分野では国家の地政学を優先しつつ)。
 それは、その永久的な展望としての大統領選挙に基づき、ひとつの選挙機構として建設されてきた。それは、正式の党員名簿や内部的なルールのない、「固まっていない」運動だ。
 ひとつの限界に来ているのかもしれない。LFIは、その政治主張と組織機能の枠組みを豊かにすることなく、その基盤的範囲を広げることができるだろうか? それは、自身内部で民主主義を実行できないままで、社会内で民主主義を唱えることができるだろうか? それは、女性に対する暴力に反対することが、残念ながら内部的にそれを安易に包み隠すことができるだろうか? LFIに起きていることは、左翼のあらゆる部分には重要なことだ。
 現在の諸条件はNFPの統一に有利だ。これは今後の数週間で決定されるだろう。地方委員会の浸透は、利用可能な草の根の諸勢力すべてを統合する余地をそれに与えるだろうか?
 若者の新しい世代は今連帯(パレスチナの人々との、移民との、またレイシズムに直面している人々との)への献身をかれらと共にもたらしつつ、舞台への歩みを進めている。社会的不安定さと気候―環境危機の影響が、抵抗の多様な形態に豊かな土壌を提供している。
 それらの合流を力づけるためにあらゆることが行われなければならない。しかしこれを達成するためには、左翼はその大統領的行動への執念を断ち切らなければならない。実体的な文化革命が必要なのだ。(2024年9月13日、初出は「アマンドラ」と「ニューポリティックス」)(「インターナショナルビューポイント」2024年10月4日)

(訳注)「アマンドラ」は南アフリカの進歩的新聞、「ニューポリティックス」は米国誌。 

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