シリア ジョセフ・ダヘルへのインタビュー
矛盾抱えつつ空間は開けた
民主的主体間の社会貫く協力必要
シリア、レバノン、パレスチナ、またこの地域の情勢に関し幅広く書いてきたシリア系スイス人活動家のジョセフ・ダヘルが「ランティカピタリスト」に以下のように語った。
アラブの春との
つながりは明確
――バシャル・アルアサドの転落はアラブの春にどれほどつながっているのか?
バシャル・アルアサドの転落は2011年に中東と北アフリカで始まった革命的な運動の継続の一部だ。シリアの独裁体制がこの地域の他の権威主義国家と同じ特性の多くを、つまり民主的な枠組みの欠如、腐敗の空気と社会的不平等の進行の中での、大衆の貧困化の進行に導いた新自由主義的政治経済、をもっているからだ。シリアの住民の90%以上は、貧困線以下で暮らし、シリアの富は大統領官邸とバシャル・アルアサドおよび彼の一族に連なるビジネスマンに集中された。
シリアで思い起こされることとして、住民の大きな諸層は、2011年に他の反乱で掲げられたものと同じ要求、すなわち自由、社会的公正、そして平等、に基づいて街頭に繰り出した。シリアにおける2011年3月の民衆的蜂起の背後にあった民主的組織と社会的勢力の広大な多数派は、流血の中で弾圧された。何よりもまずシリアの体制によって、それだけではなくさまざまなイスラム原理主義武装組織によってだ。
同じことは、デモ参加者により設立された現地のオルタナティブ的政治諸機関や事業にも当てはまる。それはたとえば、当地住民に諸々のサービスを提供するような、調整委員会や現地評議会だ。
そうであってもシリア中に、また特に北西部に、ほとんどがNGO型組織に結びついているとはいえ、市民グループがわずかある。しかしそれらの原動力は、蜂起の始まりが内包していた動力学とは異なっている。
こうした流れの中で、前途には多くの挑戦課題がある。しかし少なくとも希望は戻っている。1970年以来シリアを支配してきたアサド王朝の倒壊という歴史的公表後、われわれは、国中いたるところ、ダマスカス、タルトゥス、ホムス、アレッポ、その他での民衆的デモのビデオ映像を見た。それは、あらゆる宗教的名称と民族から構成され、アサド一族の彫像とシンボルを破壊していた。
民衆蜂起の早くにあったスローガンが再び唱和された。「シリアは自由を欲する」、また「シリア人民はひとつで統一している」と。そしてもちろん、政治犯の、特に「人間殺戮」として知られ、1万人から2万人を収容していた可能性もあったサイドナヤ刑務所からの解放に際した大きな喜びがある。
HTSは明確に
権威主義的組織
――現在活動している諸勢力の本性に関するあなたの評価はどういうものか?
HTS(シャーム解放機構)が今、イドリブ地域と主な都市――アレッポ、ハマ、ホムス、またダマスカス――における支配的なプレーヤーだ。HTSは、2016年のアルカイダからの決別以来相対的に相当な政治的進化に取り組んできた。そして、その力を維持し拡大する目的による、現にある具体的な諸条件にしたがった適応とプラグマチズムに対する大きな能力を見せつけてきた。
HTSはまた近年、かれらの支配を正規化する目的で、地域や世界の大国と相対する理性的な勢力として自身を提示する切望をも、はっきり誇示してきた。これは今日、いくつかの端緒的な成功を伴って続いている。
そうであってもHTSは今も、イスラム原理主義イデオロギーに基づく権威主義組織のままであり、その隊列の中に依然として外国人戦闘員を抱えている。近年イドリブでは、その体制と、敵対者の暗殺や拷問を含む政治的自由や人権の侵犯を糾弾する、数多くの民衆的デモが起きてきた。
HTSは今、上記の地域と中央政府に対するその権力を固めようとしている。特にそれは、国民救済政府から首相を指名した。HTSの文民行政は、完全にその隊列出身のあるいはそれに近い男から構成された保守的なイスラム政府に基づいて、この2、3年イドリブを管理してきている。新首相はいずれにしろ、憲法制定プロセスの発足まで、2025年3月まで職にとどまるだろう。
HTSは、アンカラから統制を受け、その利益に奉仕しているSNA(シリア国民軍)とは異なり、トルコからの相対的な自律を確保している。SNAは最近の軍事作戦で、大きなクルド住民を抱えるクルド主導のSDF(シリア民主部隊)が支配する領域を標的にすることで、あらためてトルコの目的への奉仕を主としている。
たとえばSNAは、アレッポ北部のシャッバ地域とタル・リファートの町、さらに以前はSDFの統治下にあったマンビジュの町を奪い、殺人や拉致を含むクルドに対する数知れない人権侵犯と15万人以上の強制追い立て、という結果を生んでいる。
SDFの場合は、HTSへの交渉申し入れにもかかわらず、アサド体制崩壊後にシリア内で影響力を高めたトルコからの、かつて以上に高まっている脅威の下に置かれている。トルコにはふたつの主要な目的がある。それは第1に、トルコ内シリア難民のシリア帰還を強制したがっている。第2に、自治を求めるクルド人の熱望を拒み、より特定的には、シリア東部のクルド主導行政、シリア北東自治政府(AANES)を掘り崩したいと思っている。この自治政府は、トルコ内でのクルドの自己決定に対する前例に、現在確立されている体制にとってのひとつの脅威になると思われるのだ。
また南部シリアには、HTSやSNAとは別の、さまざまな武装反対派グループもいる。そしてそれらは、体制崩壊以前に首都のダマスカス奪取でひとつの役割を果たした。他方でHTSのシリア沿岸部地域、特にラタキアやタルトゥスに対する支配は完全ではない。
障害は数多いが
可能性は開けた
――将来はシリアに何を用意しているのか?
すべてはHTSやSNAのような権威主義的武装諸組織からの国内の脅威、またトルコ、イスラエル、湾岸首長諸国、西側の大国、さらにその他からの外国の脅威双方を前にして、自らを組織する民主的で進歩的な諸グループの能力にかかっている。HTSとSNAの諸勢力の力が伸びきっているという事実は、現地レベルでの組織化に向け潜在的な利点だ。
民主的で進歩的な要求を求めて闘う民衆諸階級の自己組織化だけがこの空間を生み出し、真の解放に向け道を清めるだろう。これを達成するためには、多くの障害が、戦争の疲れと抑圧から貧困と社会的混乱までが克服されなければならない。これらの要求を前進させるためには、この進歩的な民主主義ブロックが、民衆的な諸組織を、労組からフェミニスト組織やコミュニティ組織まで、そしてそれらを結集する全国的構造を建設し再建しなければならないだろう。
これは、民主的で進歩的な主体間の社会を貫く協力を必要とするだろう。加えて、他の鍵になる任務のひとつは、この国の主要な民族的分断、アラブとクルド間のそれに取り組むこととなるだろう。
シリア人が底辺から、代わりとなる権力構造から民衆的な市民的抵抗を再建しようとする上で、今や矛盾と挑戦課題を伴ったひとつの空間がある。そしてこれはすでに過去に比べ大きな希望だ。(2024年12月19日、「ランティカピタリスト」からIVが訳出)
▼筆者は、シリア系スイス人の研究者で活動家。多くの著作があり、「シリア・フリーダム・フォーエヴァー」ブログの創設者、また「中東・北アフリカ社会主義連合」の共同創設者でもある。(「インターナショナルビューポイント」2024年12月30日)
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