アルゼンチン:正統性揺るがす大統領の暗号詐欺

ミレイのスキャンダル
ニコラス・メンナ

 今年2月14日、アルゼンチン大統領のハビエル・ミレイが、最近つくり出された暗号通貨の$LIBRAを売り込むために彼のツイッター/Xアカウントを使った。このツイート――彼の妹のカリナ(大統領府書記長で大統領の党である「ラ・リベルタド・アバンザ」の中心人物)また政府に近い大勢の「インフルエンサー」によって即座に再送された――は、このデジタル資産を推し進めるのを助けた。
 100万分の1米ドルで取引が始まったこの通貨は、その創出者がその蓄えを清算し8000万米ドルで現金化し、4万5000人の投資家を同じだけの損失を抱えたまま残した時にせいぜい数分間で崩壊する前、僅か数時間のうちに4・5米ドルというめまいがするような最高点に達していた。

 リバタリアン
 のピラミッド

 この仕組みは、金融イノベーションとして偽装された古典的な詐欺なのだが、ひとつの重要な細部が理由でなかったとすれば、暗号詐欺――ミレイ自身が理想化している規制のない市場における風土病――の世界では特別に注目すべきものにはならなかったと思われる。その細部とは、この詐欺に信用性を与えるための大統領府の道具化だ。ミレイと彼の取り巻きの積極的な関与が、大したことのないサギ行為だった可能性もあったものを、その中で国家機構が略奪に利用されたというような制度的な腐敗行為へと変えた。
 これこそが事件の深刻さがあるところだ。つまり、大統領はたまたまの付随的共犯者ではなく、この詐欺におけるなくてはならないプレーヤーなのだ。ミレイの公的支持は、ミレイが吹き込んだ信任によって確信を与えられてかれらの貯蓄を投資した、何千人という若いリバタリアン――政府の選挙基盤――に対する保証として作用した。
 政治の腐敗が
 大統領を守る

 司法の成り行きは今ふたつの異なった歩みで進んでいる。アルゼンチンでは、政府――急進党と元大統領のマウリシオ・マクリの「プロプエスタ・リプブリカン(共和党提案)」党によって下院内で保護された――が、政治の腐敗をはっきりと見せつける挿話の形で、調査委員会の設置までも妨げた。次いで、調査委員会法案を提出した上院がそれに反対の票決を行った! 同時に、地方の司法システム(エリートのひとつの連携機構)が今、却下に向け力づけられることを計算した遅さで、不平をさばいている最中だ。
 ミレイにとっての実体的危険は米国内で現れつつある。つまり、ひとつの連邦裁判所がこの事件を受理し、すでに300人の原告を抱え、現大統領にとって潜在的に深刻な結果を伴う裁判に道を清めている。このシナリオは、逆説的な皮肉を際立たせている。つまり、自由至上主義が褒め称えている同じ金融のグローバリゼーションが、刑事責任を国際化することによってそのワナになる可能性もある、ということだ。

 好機の窓は
 狭いがある

 このスキャンダルは、私的な利得に向けその象徴的な(また怪しまれているとしても物質的な)資源を利用する中で、「国家の最小化」を伝道しているひとつの構想に内包された偽善を暴き出している。しかしその戦略的な重要性はむしろもっと大きい。それは自由至上主義の弱点をさらけ出し、その反エリートのレトリックは権力と富の集中という実践とぶつかっているのだ。
 決定的な問題は、反対諸勢力――労組、社会運動、またバラバラになっている政治的反対派――がこの不満を今後利用できるかどうかだ。それらの現在の分散状態を条件とした時、政府が物語をその都合のよい標的、つまり「お騒がせ」指導者の排除を追求しているカースト、に向け方向を変えることに成功する、ということが危険になる。
 好機の窓は狭いが、しかしそれはまさに実在している。自由主義の主張にはいくつか亀裂があるのだ。この亀裂をひとつの突破口に変えることは、公然の非難だけではなく信頼に足るオルタナティブをもはっきり主張する能力にかかるだろう。歴史は、最も堅固な総意であっても、民衆の大群が動き始める時崩壊する可能性があることを示している。(「ランティカピタリスト」2025年2月26日より)(「インターナショナルビューポイント」2025年3月7日)

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